第6話 なんだそりゃ! 先天的奴隷論
今も昔も、戦争を始めるには大義名分が必要です。では、スペインはどんな名分でアメリカ大陸を植民地化したのでしょうか。
その一つが「先天的奴隷論」と呼ばれる理論です。
これは古代ギリシャの哲学者、アリストテレスが提唱したもので、16世紀には、スペインの神学者セプールベタによって主張されました。
彼曰く、
①インディオ(アメリカ先住民)は理性を書く存在、つまりアリストテレスの言う先天的奴隷であり、その実態は、生まれつき理性を欠き愚鈍であるがゆえに、理性を持つスペイン人に従うべきであること。
②インディオは偶像崇拝や人身御供、カニバリズムなど自然の法に反する罪を犯していること。
③そのような圧政的支配から、人身御供やカニバリズムの犠牲になる者を救うことは決して間違いではない。
④誤った習慣を持つインディオを正しいキリスト教世界に導くのはローマ法王から使命を授かったスペイン国王しかない。
ゆえにインディオに対する戦争は正当である、というものです。
現在に住む我々から考えればとんでもなく傲慢な考えですが、4世紀の聖アウグスティヌスの「義戦論」からH・G・ウェルズの「戦争を終わらせるための戦争」まで、「正しい戦争はありうる」という考えは、現在でも一定の影響力を持っており、決して過ぎ去った過去の話ではありません。
独裁国家を戦争で打倒し、民主主義・市場経済の国家を作るべきだと考える勢力は現在でも存在します。
人間はあまり変わっていないのです。