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第36話 ガレオン船の積み荷  ~具体的に何を積んでいたのか~

ガレオン船が人と物を積んで世界中の海を駆け回った大航海時代。

では、具体的にどんな物をどんな量だけ積んでいたのでしょうか。


一つの具体例を挙げてみましょう。


1596年、フィリピンのマニラからメキシコを目指して太平洋を航海していたガレオン船、サン=フェリペ号が日本近海で暴風に遇い、船体を損傷して土佐(高知県)の浦戸に避難してきました。


当時の土佐国主だった長宗我部元親ちょうそかべもとちかは、船の積み荷をすべて陸揚げさせ、事後の対応を豊臣秀吉にあおぎました。


秀吉は奉行の増田長盛ましたながもりを現地に派遣。

増田は積み荷の目録を作り、船に積まれていた現金を数えました。


現金   25,000ペソ


 これはおそらく、当時メキシコで作られた8レアル銀貨でしょう。

1535年にはメキシコではトポシ銀山で採掘された銀を使ってスペイン銀貨の発行が始まっていたからです。


次は貿易品の種類と数量です。


一、上々繻子じょうじょうしゅす    50,000反

「上々」は、おそらく「品質の非常に良い」という意味でしょう。

繻子しゅすは滑らかで光沢の出る手法で織られた布です。それが50,000反。

「1反」は、時代や業界によってバラバラなので、かりにたて1メートル、よこ50センチとして考えてみます。

仮にたて1メートルのまま、すべて横につなげたとすると、2,500メートルほどでしょうか。

大変な量ですね。


二、金襴きんらん緞子どんす    50,000反

金襴きんらんは、横糸に金の糸を使ったとても豪華な布です。

緞子どんすは、縦横の糸を巧みに組み合わせて布の表面に様々な模様を浮き上がらせた大変に手の込んだ品です。

これも合計50,000反。

すごい量です。


三、いんす金    1,500

「いんす金」は、おそらく“印子金”のことでしょう。

中国産の良質な金塊で、1個約100もんめもんめは約3,75グラム》です。

それが1,500個ですから、562.5キログラムですね。


四、生きたる麝香じゃこう鹿    10

麝香じゃこう鹿は体調1メートルほどの鹿です。

この鹿のオスのみが持つ「麝香腺じゃこうせん」はメスを引きつけるために良い香りを放つことから、香料や生薬しょうやくとして使われました。

なぜか生きたままで運ばれていました。

それが10頭。


五、唐木錦    260,000反

「唐木」とは、シタン、コクタン、ビャクダン、カリン、タガヤサンなどが中国から輸入された場合に使われる呼ばれ方です。

通常、仏壇や高級家具、楽器などに使われますが、薬として使われる場合もあります。

それが布を計算する際に使われる「反」で数えられています。

これはどのようなものか私には分かりませんでした。


六、白糸(生糸)    160,000斤

これは絹糸ですね。

特にまゆから取った直後で手の加えられていない状態のものです。


当時、中国産の絹糸と言えば高級品の代名詞でした。

中国から日本への輸入品目の中にも生糸は頻出します。

それだけ品質が高かったのでしょう。


これが160,000斤。

1斤が600グラムですから96,000キログラムですね。

すごい量です。


七、麝香じゃこう箱    1 ただし二人持ち

麝香じゃこうが入った箱が一つ。ただし二人で持つほどの大きさということでしょうか。

おそらく麝香じゃこう鹿の麝香腺じゃこうせんを加工して生薬か香料にしたものでしょう。


八、生きたる猿    15

生きている猿が15匹。

世話するのが大変だったでしょうね。


九、鸚鵡おうむ    2

オウムが2羽です。



大変な財宝です。特に生糸の量はすさまじく、いかに需要が強かったかが窺い知れます。

これは太平洋を越える危険を冒してでも、貿易をやりたくなりますね。

一回でも大海原を往復したら大金持ちです。




ところでこの財宝、すべて豊臣秀吉に取り上げられてしまいました。

サン=フェリペ号の乗組員たちにはお気の毒と言うほかないです。


*もし計算や単位が間違っていましたら、教えてください。よろしくお願いします。


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