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第32話 東西に現れたならず者の親玉 骨皮道賢とゲオルグ・フォン・フルンツベルグ

徒然なるままに伊達稙宗(政宗のおじいさん)が作成した「塵芥集じんかいしゅう」を読んでいると、興味深い条項を見つけました。

第151~152条ですね。


第151条、科人とがにん在所成敗のとき、財宝・牛・馬・眷属けんぞく以下……奪い取るも、是非に及ばず、作毛の事は、代官衆いっこう競希けいもうあるべからず、地頭のままたるべきなり


第152条、館廻りにて科人成敗のとき、かの在所、放火あるべからず、よって乱妨衆、その四壁しへきの木竹をきりとり、家垣をやぶる事、罪科に処するべきなり



科人とがにんとは罪人のことです。


どういうことかと言うと、

『罪人に刑罰を執行するさいは、財産から家畜、周辺の木々を切り取り、作物を刈り取ってはならないし、放火もしてはならない。また関係者を奪ってはならない』

と明記しているのです。


分国法でわざわざ禁止したのですから、そのような暴力行為が当たり前のように行われていたのですね。


特に怖いのが第151条の『眷属けんぞく以下……奪い取るも』のところです。

眷属けんぞくとは、家族や親類縁者、関係者を指します。


当時、罪人に対しての刑の執行は、『乱妨衆らんぼうしゅう』と呼ばれる人々が行いました。

彼らが罪人の家族や使用人を拉致するのが当然だったのですね。




応仁の乱のころ、京都に骨皮道賢ほねかわどうけんという足軽の大親分がいました。

この人物は典型的な乱妨衆らんぼうしゅうで、罪人の検断を積極的に行いました。


罪人と言っても年貢を払わない者、豪族の命令に背いた者など、大きな権力にたいして歯向かった人々たちです。


道賢どうけんは食い詰め者やあぶれ者、強盗を集めて『足軽』と称し、罪人たちの財産没収や関係者の拉致に精を出しました。


その結果、京都の町は荒れに荒れ、焼け野原になってしまいました。

文化人たちは京都の町を離れ、地方に散っていきました。

文化の街だった京都は完全に破壊されたのです。




同時代のドイツ南部には『ランツクネヒト』と呼ばれる傭兵集団がいました。

「ランツ」は国・土地・田舎、「クネヒト」は兵士と考えていいです。

無理やり日本語に訳せば『郷士』でしょうか。


ひとことで言えば、ならず者です。


当時の南ドイツでは、農民は耕地を相続する際に子供の数で割っていました。

当然、一人の持ち分は少なくなります。

その結果、代が変わるたびに一人の持ち分は少なくなり、生活できない若者が出てきます。


そう言った人々のもとに口入れ屋がやってきます。

「自由な傭兵にならないか?」と。


彼らは、派手な羽飾りに男根を強調する飾りを付ける異様ないで立ちで戦場に赴くと、戦闘だけではなく、掠奪・殺戮・拉致・強姦などあらゆる悪事に手を染めました。


戦争が終わると追いはぎや盗賊に身をやつして次の戦争を待ちました。



彼らをまとめ上げていた人物が、ゲオルグ・フォン・フルンツベルグです。

ドイツ南部の小貴族に生まれたこの人物は、十分な土地が相続されない境遇に不満を持ち、傭兵となりました。


そして戦場を荒らしまわるうちにリーダーとしてまつり上げられ、ハプスブルク家に雇われました。


そしてハプスブルク家からの給料かとどこおると、ローマを襲って殺人・強盗・強姦・略奪を繰り返しました。

文化人や芸術家は殺され、教会は破壊され、文化財は掠奪されました。


これが「サッコ・ディ・ローマ(ローマ劫掠ごうりゃく)」です。

結果、ルネッサンスは大きな停滞期を迎える羽目になります。



傭兵によって荒らされた京都とローマの街。

犯人は喰い詰めた男たち。

同時代に東西で同じような現象が起こった事実は、歴史の不思議な因縁を感じますね。


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