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第22話 「ちょば! ちょば!」がきっかけで植民地独立? クレオール主義

「チョバ! チョバ!」「パラ! パラ!」程度の単語しかなかったピジン言葉が使われ続けて数百年たつと次第に言語としてのていをなしてきます。


そしてその中から、新しい歌や演劇、そして文学が生まれます。


民族の定義を「同じ言語を話す集団」とするならば、立派な民族言語と言えるでしょう。

新しい民族が誕生したのです。



ひとつ例を挙げましょう。


フランスは世界中に植民地を持つ帝国でした。いまでもその名残は世界中あり、南米のフランス領ギアナや太平洋のフランス領ポリネシアといった「海外県」が存在します。


その中でも最も美しく、最も陰惨な歴史を持つ土地が、マルティニーク諸島です。


カリブ海の入り口をふさぐように並ぶこの島々は、フランス軍の侵攻を受け、先住民の大半が虐殺されてしまいます。


その結果、労働力不足に悩んだフランスは、この島にたくさんの奴隷を連れてきました。

地理的に近いアフリカからはたくさんの黒人奴隷を買い付けました。


また中国からは、「クーリ」と呼ばれる奴隷が連れてこられました。

「苦しい力」とかいて「苦力クーリ」と発音されます。

その人々がどんな境遇に置かれていたか想像ができますね。


次にインドから人々が運ばれてきました。

インドから西「インド」(アメリカ大陸のこと)へ行ったのです。

その人々は「女神マリエンメンの息子たち」と呼ばれました。


最後がオリエントからの奴隷です。

今のレバノン・シリアからたくさんの人々が連れてこられました。




その人々は、アビタシオンという共同体で暮らしました。英語ならプランテーションですね。


ここで、アフリカ人・中国人・シリア人・レバノン人たちは過酷な労働を強いられました。


人々は、お互いの言葉が通じません。前の回で書いたようなピジンを話しました。

そして結婚によって混ざり合い、ピジンは洗練され、クレオール語へと変化していきます。


アビタシオンの人々はクレオール語によって語り合いました。


思い出(ばなし)の中から、新しい神話が生まれました。

祝いの日には、クレオール語の詩や演劇が催されました。

様々な民族の食品が混ざり合い、新しい料理が食卓に並びました。

各国の音楽と楽器が使われ、歌が歌われました。


言語と神話、料理に音楽、そして文学があればもう一つの民族と言っていいでしょう。


ここに至って、ただの言語だったクレオール語は、『クレオール』という一つの民族概念にまで昇華しました。


『クレオール』はたくさんの言葉と人種が混ざり合った多様で新しい民族となったのです。


『クレオール』の中に入るのは、奴隷たちの子孫だけではありません。植民地生まれ、植民地育ちのフランス人たちも含みます。


なぜならその人々も、植民地の言葉を話し、植民地の神話を共有したからです。

それに白人であっても、フランス本国の白人とは区別して考えられたのです。


クレオールの中からも、指導的なエリートが出てきます。



ベネズエラ出身の軍人で思想家のシモン・ボリバールは、19世紀にスペインの植民地をまとめて「大コロンビア」として独立させました。

彼の晩年を描いた小説がコロンビアの国民的作家、ガブリエル・ガルシア・マルケスの「迷宮の将軍」です。

ボリバールもまたクレオールですね。植民地生まれ植民地育ちのヨーロッパ人です。


20世紀のマルティニークでは、思想家のエメ・セゼールが有名ですね。

彼は「帰郷ノート」「植民地主義論」など様々な著作活動を通じて、マルティニークにおいて「植民地の黒人であること」にアイデンティティを置く『ネグリチュード』という概念を作り上げました。


これはアルジェリアの独立運動やアメリカ合衆国の政治運動にも大きな影響を与えました。




19世紀から20世紀に起こった民族自決運動は、もともと大航海時代の「ちょば! ちょば」から始まったのですね。

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