お嬢様は、一体どこに向かおうとしているのか~とある侍女の失敗 編~
今日も、お嬢様はかわいらしく愛らしい。
そんなお嬢様ですが、婚約者を見たとたん気絶してしまわれました。
そして、三日三晩熱でうなされていました。
お嬢様は目覚めると突然「死亡フラグ回避ですわ――――!」と言って、ベッドの上に立ち上がられました。
ですが、ふらつきすぐに座り込みました。
なんて無茶なことを。
少し前まで、寝込まれていたのですよ。
私は、涙ながらにお説教をしました。
あぁ、こんなことをしている場合ではありません。
すぐに、旦那様と奥様にお知らせしないと。
「メアリー、敵を倒すのにはどうしたらいい?」
お、お嬢様?
お嬢様に敵?
今すぐに、排除しないと!
「物理的にでよろしいのではないのでしょうか?」
「そう、分かったわ」
お嬢様はそう言って旦那様の書斎へと走り出していきました。
動揺してしまった私は、無難な回答をしたのですがこれでよろしかったのでしょうか?
魔法とかもあるのですが、魔法となると法律やら規制やらでいろいろ大変ですしね。
お嬢様は、旦那様が出された条件をクリアされてしまいましたので敵を倒すための訓練を始められました。
でも、剣を持つと危なっかしいですね。
なので、私のマイ武器の内の一つ『ハリセン』をお渡ししました。
これなら、殺さずに敵の意識を刈り取れますし。
初心者でも簡単に扱えますよ。
お嬢様が、学園に通うお年になられました。
「敵は本能寺にあり! 今の私は、ゲームの私とはひと味もふた味も違いますのよ! 待ってなさい、攻略対象たち。必ず、倒して差し上げますわ。メアリー、行くわよ!」
「はい、お嬢様」
それにしても、お嬢様。
ほんのうじって何でしょう?
こうりゃくたいしょうたちって?
ひょっとして、あの時にお嬢様が熱でうなされたことと関係あるのでしょうか?
お嬢様の言う『こうりゃくたいしょうたち(お嬢様の婚約者含む)』に遭う度に、お嬢様は意識を刈り取り始められました。
ですが、お嬢様。音を立てすぎると誰かに駆けつけられますよ。
ですから、こうやって手首にスナップをきかせて角度を調整しないと。
「さすが、メアリーね。分かったわ。この調子で、死亡フラグ回避させますわ」
それにしても、お嬢様。
彼らに何か恨みでもあるのでしょうか?
でも、まあご安心ください。お嬢様。
この程度、私がもみ消して差し上げます。
あの人とかあの人とかあの人かあの方とか、いろいろ脅せるネタを持ってるんですよね。
もちろん、学園長の弱みも握っています。
まさか、生真面目な学園長があんな性癖と趣味があるなんて...
人は見かけによらないものですね。(遠い目)
「いやぁぁぁ――――――」
お嬢様の後ろを歩いていると、泣いて叫びながら廊下を全力疾走する美少女がいました。
「あっ、あれはヒロイン。でも、なんで泣き叫んでいますの!?」
驚くお嬢様と私。
次に見たのは、ヒロインさんとやらを追いかけ回すお嬢様の婚約者とその取り巻きたちでした。
王子様の腰巾着で金魚の糞の内の一人、腹黒魔法使いは
「仕方ないですよ。ナタリアは照れ屋ですから」
「そうだな」と言い合うお嬢様の婚約者である王子様と腰巾着で金魚の糞たち。
ヒロインさんは嫌がり逃げているのに、あれをテレているための行為と勘違いするとは。
一介の侍女には、理解不能です。
これが、お嬢様に『こうりゃくたいしょうたち』と呼ばれる所以でしょうか?
私は、頭の湧いたお子様たちに出来るだけお嬢様を近づけないことを誓いました。(殺意を込めて)
「もぅ、やぁぁぁっ―――! 何なの、あの人たち――――! なにか、私に恨みがあるわけ―――! おうちに帰りたいぃぃぃ――――! 村に帰りたいぃぃぃ――――! 精神的ストレスの慰謝料払ってよ―――! なんで、私の行く先々に湧いて出てくるの――――!?」
今日も、廊下で走りながら、ご自分の状況説明しながら泣いて絶叫するヒロインさん。
はじめは注意していたご令嬢様方や先生方もヒロインさんのあんまりな状況に、注意できなくなりました。
ヒロインさんを日々ストーカーし、精神的に追い詰めているこうりゃくたいしょうたち(お嬢様の婚約者含む)を先生方が諫めたのですが、全く効果がありません。
こうりゃくたいしょうたち(お嬢様の婚約者含む)は、ご自分を諫めた人たちに対しては身分を振りかざしたり、意味不明なことを言ったりして、聞く耳を持ちません。
いざとなれば、執事長直伝の内の技の一つ『性癖去勢』を私自ら彼らにしてあげましょう。
執事長の許可を取って。
他の方たちと違って、私がお嬢様に害を与える者たちに『性癖去勢』を実行すると、執事長曰く性格に多大な影響を及ぼすので、許可なく使うなと厳命されております。
...??? 性癖去勢をした馬鹿どもは、性格に影響はなかったはずですよ。 たいしたことない副作用があっただけで。
そしてそして、卒業の日。
美少女なヒロインさんは、なにやらブツブツ呟いております。
「あの、ストーカーどもから逃げ切るためにも、王宮魔術師団への就職の内定を辞退しよう。
貴族じゃない庶民は田舎に引っ込んでやる...!」とか。
でもなぜ、内定?
ちなみに、ヒロインさん。
国の重要な役職へのお誘いは、熾烈を極めたそうです。(国王陛下情報)
王宮魔術師団、王宮騎士団、文官などなど。
ヒロインさんを誘おうとした組織は、脅し合い・足の引っ張り合い・自分の所属した組織の素晴らしさアピールなどをして、最終的にヒロインさんという優秀な人材確保は王宮魔術師団がもぎ取りました。
「ふふっ、攻略対象たちとの最終決戦。 この時のために、常に全力を出してきたのですわ。 メアリー、私の未来のためにアイツらを潰しますわよ」
「分かりました。お嬢様」
そして始まる、こうりゃくたいしょうたち(お嬢様の婚約者を含む)による、お嬢様への断罪。
「アビゲイル・ハミルトン侯爵令嬢、貴様との婚約を破棄する! あろうことか、貴様は我が愛しのナタリアをイジメ倒した。 そんなお前は私の婚約者に相応しくない! 心優しいナタリアこそ未来の王妃に相応しい。 よって、ここに私デヴィッド・ワーズワースはナタリアとの婚約を宣言する!!!」
「なに言ってんのよ! ストーカー。勝手に婚約とかほざかないでよ! 私の将来、潰す気!?」
ヒロインさんの心からの叫びを無視して、こうりゃくたいしょうたち(お嬢様の婚約者を含む)は続けます。
「5月1日月曜日、貴様は愛しのナタリアを魔法の授業中、悪意で全身を水でずぶ濡れにした!」
「アビゲイル様は、していないわよ。その日、アビゲイル様は公務でお休みだったわ。それに、私を全身水でずぶ濡れにしたのはアンタでしょ! 魔法の行使を堂々と失敗して、よく言うわね」
ヒロインさんは、第一王子デヴィッド・ワーズワース様に遠慮をするのを止めたようです。
せっかくなので、私も否定してあげようと思います。
「その日、お嬢様は第一王子デヴィッド・ワーズワース様のワガママで拒否されたブルーベリー共和国での公務をしておられました。 要するに、第一王子デヴィッド・ワーズワース様の尻拭いですね」
高位お貴族様たち(生徒の保護者)が、第一王子デヴィッド・ワーズワース様へと冷めた目を向けられました。
「クッ。これなら、どうだ!!! 6月20日火曜日の昼頃、階段を降りていた愛しいのナタリアをすれ違いざまに突き落とした」
「だから、アビゲイル様じゃないわよ! あんたが、すれ違いざまに私の足を引っかけてそのまま無視して階段を上がっていたよね! おかげで、階段から足を滑らして落ちそうになったわよ! 怖かったんだから」
「その日、お嬢様は第一王子デヴィッド・ワーズワース様が公務を疎かにして内緒でため込んでいた公務を必死こいてしておられました。これまた要するに、第一王子デヴィッド・ワーズワース様の尻拭いですね」
高位お貴族様(生徒の保護者)たちは、第一王子デヴィッド・ワーズワース様に呆れた目で見られました。
「まだ諦めぬか! なら、とっておきを言ってやろう。覚悟するんだな。8月11日金曜日。街で買い物中の愛しのナタリアを馬車で轢きそうになった」
「もう、さっきから言ってるでしょ。 アビゲイル様じゃないわよ。あの日、私を轢きそうになった馬車は王家の紋章があったのよ。 また、アンタでしょ! なんか、私に恨みでもあるの!?」
「そうですね。私も調べたのですが、確かにナタリア様を轢きそうになった馬車は第一王子デヴィッド・ワーズワース様が『この道は狭く走るのは危険です』と馬車を走らせることを拒否する御者に権力を振り翳して命令して無理矢理従わせた結果、ナタリア様を危険な目に遭わされたとのことですね。ちなみに、その日、お嬢様は国王陛下のお説教から逃げ出された第一王子デヴィッド・ワーズワース様がしていなければならない公務のためストロベリー合衆国へと向かう船旅の途中でしたね。またまた同様に、第一王子デヴィッド・ワーズワース様の尻拭いをするためのことです」
高位お貴族様(生徒の保護者)たちは、死んだ目をされました。
「見苦しいぞ、第一王子デヴィッド・ワーズワース。なぜ、お前の尻ぬぐいに奔走するアビゲイル嬢に対してお前の罪を押しつける」
「父上! そんなことはありません。 私は、アビゲイル・ハミルトン公爵令嬢の罪を明らかにしているだけです! 父上こそ、国王陛下として目を覚まして下さい! アビゲイル・ハミルトン公爵令嬢が、どれだけ未来の王妃に相応しくないかお分かりになるはずです!」
「第一王子デヴィッド・ワーズワース、お前には失望した。よって、お前を王位継承者から外す。トーマス・コールフィールド公爵令息、マーク・トウェイン辺境伯子息、ジェームズ・バロウズ侯爵令息、オーブリー・モンパロナス子爵令息、貴様らの役目は、第一王子デヴィッド・ワーズワースと同調して無実の令嬢をありもしない無実の罪で責め立てるのではなく、愚かな第一王子デヴィッド・ワーズワースを諫め、無謀な行いを止めることにあったはずだ。よって、貴様らも同罪だ。よって、お前らの処罰は、ナタリア嬢が決める!」
「ふふっ、私の出番ですわね」
大人しく黙って見守っていたお嬢様は、颯爽とこうりゃくたいしょうたち(お嬢様の婚約者含む)の意識を刈り取られました。
「国王陛下、御前をお騒がせ失礼いたしました。 これで、心置きなく彼らに処罰を言い渡せますわ」
そう言って、お嬢様は国王陛下に完璧な臣下の礼をされました。
「うむ。アビゲイル嬢、ご苦労であった。して、ナタリア嬢、今から言う処罰候補の中からどの処罰か決めてくれ。 メアリー、頼むぞ」
なぜか国王陛下は、私の顔色を窺いながら言われました。
「分かりました。 その1.色狂いとご評判の女王がいるブルーベリー共和国に引き取って頂く。 その2.男色家として有名な国王がいるストロベリー合衆国に引き取って頂く。 その3.女装男子にしか興味を示さない第一王子が生息するアプリコット帝国に引き取って頂く。 その4.炭鉱での労働力として、マーマレード公国に無償で提供する。その結果、そこに住む犯罪者たちにお尻の穴を狙われる。ちなみに、女子禁制です。以上です」
「やだっ、ときめいちゃうじゃない」
謎の思考を持つこうりゃくたいしょうたち(お嬢様の婚約者含む)が、自分から強制的に離されるのが嬉しいのか頬を染めてヒロインさんは言いました。
「あっ、あの質問です」
「なんでございましょうか?」
「もし、その4のマーマレード公国への提供で馬鹿どもが怪我をしたりとかしたら、マーマレード公国がこの国に損害賠償金を支払うんですか?」
「その心配は、もちろんございません。その1~3までは彼らの身分はそのままですが、その4の場合だけ、現在の身分は剥奪されてから、マーマレード公国への提供となります。高貴な身分の方を炭鉱で働かせられませんから」
「ですよね。じゃあ、その4でお願いします」
「はい。分かりました。では、国王陛下。手配をお願いいたしますね」
「うむ。分かった」
なぜかやはり国王陛下は私の顔色を窺いながら言いました。
そして、兵隊さんたちがこうりゃくたいしょうたち(お嬢様の婚約者含む)を簀巻きにして連れて行きました。
「アビゲイル嬢、此度のことは本当にすまなかった。して、なにか願い事はあるか?」
「はい、ございますわ。国王陛下。バラノハナ王国への留学ですわ。そこで、魔法を学びなおしたいと思いますの。かの国は、魔法大国として有名ですもの。それに、これは感なのですが、ナタリア嬢のような被害者がいるような気がしますの。 私は、そのお方を助けたいですわ。もしかしたら、友好国になれるかもしれませんもの」
「あの国に、この国のような危機が訪れるかもしれんと言うことか。...では、行ってくれるか? バラノハナ王国とは、今よりも国としていい付き合いをしたい」
「承りました。メアリー、準備は出来ていますの?」
「はい。もちろん、出来ております。すでに、バラノハナ王国へと行く手配も済ませております」
「さすが、メアリーね。行くわよ」
「はい」
「ちょっーと、待ちなさい。ここは、私も連れて行くべきでしょ!私は、この世界はじまって以来の天才魔法使いよ。 被害者増産なんて許すはずないじゃない」
ヒロインさんは、有り余る熱意とともに割り込んできました。
確かに、ヒロインさんがいれば心強いですね。
それは、お嬢様も感じたのでしょう。
「メアリー、」
「もちろん、ナタリア嬢の分も手配済みでございます」
「さすが、メアリーね。でも、万年人材不足の王宮魔術師団に許可を取るのは難しそうですわね」
悩む、お嬢様とヒロインさん。
もちろん、それは解決済みでございます。
「大丈夫でございます。すでに、王宮魔術師団団長に話はつけてあります」
えぇ、とある屋敷での複数の愛人(高位貴族の美人で巨乳の奥様方)との密会写真をお見せしましたら、大変快く許可を下さいました。
お優しい方ですね。王宮魔術師団団長様は。
今後も、よいお付き合いになりそうでございます。
「メアリー、あなた何者ですの?」
「お嬢様の侍女にございます」
私は、年始の初日の出を思わせるような爽やかな笑顔で答えました。
お嬢様とヒロインさんは、新たな被害者を守る決意を固められました。
不肖、私も全力でサポートをいたします。
しかし、お嬢様。あなたは、一体どこに向かおうとしているのでしょうか?