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9-12(P99)

こうして俺とワンコさんの特訓は幕を開けた。まず虚数空間であるゼロスペースに入った俺たちは今後の目標到達までも数値を確認するために現状のステータス分析を行うことにした。表示されたワンコさんのステータス分析を行った上で呪いを確認する。


〈魔剣召喚〉【呪】(6000/180000)


この情報から見る限り、ワンコさんの克服経験値は174000という事になる。実験のために大蜘蛛の姿になってもらった時に確認した経験値は3000だったので、一度の変身によって得られるのは3000ずつということになる。あくまで数値の確認のためだったのだが、変身後に暴れ出したワンコさんの相手をするのは大変だった。人間の時と違い、こちらを食べ物としか認識していないからだ。こんなやつを食べたら間違いなく腹を壊すと思うのだが。

餓えた牙と爪から何とか逃げ切った後にしばらく上空で待機していると元の姿に戻り始めたため、彼女の元に戻った。観察していて分かったのは変身が予想以上にワンコさんの体力を奪っていることだった。無理に連続で変身させることは下手をすれば命に関わる。一回3000稼げるならば残りは171000。回数にして残り57回も変身をさせなければならないということになる。非効率といえば非効率だ。どうにかできないものだろうか。その要望に対して応えてくれたのはインフィニティだった。


『自動回復魔法を作成して彼女に付与すれば異常な体力消耗は防げるはずです。後は戦闘が始まる前に無力化させることが一番です』


なるほど。彼女の体力が失われた瞬間に回復してやれば繰り返しの変身が可能になるはずだ。後は無効化させる手段だけだ。それを思案しているとインフィニティが話しかけてきた。


『金切声を使えばいいでしょう』

「ワンコさんが呪いを克服する前におれの鼓膜がどうにかなるんだが」


ワンコさんにもそれを話すと予想通りに苦笑いした。どうやら俺と同じ見識を持っているようである。耳栓をすれば大丈夫ですと言われたが、どこまで安心できるか分かったものではない。どうせなら変身の強制解除でもできればいいのだが。

そのことを話すとインフィニティが何かを閃いたようだった。


『なるほど。強化された状態を元に戻す呪文ですね。少しだけお時間と魔力を頂ければ作成しましょう』


俺がそれを承諾するとインフィニティは躊躇いもなく結構な勢いで俺の魔力を奪い去っていった。こうして出来上がったのが【強制終了】である。この魔法を使えば後天的にかけられた魔法を打ち消して元の姿に戻すことができる。もっとも相手に撃ち出して命中しないと意味がないために使い勝手はあまり良くない。ワンコさんが蜘蛛になり切る前に撃ち出す必要があるというからだ。

これらの下準備をした上で俺とワンコさんは訓練に明け暮れた。まずはワンコさんが抗うことなく剣狼に身を委ねる。そして大蜘蛛への変化が始まったタイミングを見計らって俺が強制終了を準備する。そして彼女が行動可能になる前に呪文をぶつけて変身を強制終了させるという算段である。

変身する、変身を解除する、自動回復する、変身する、解除する、自動回復する…以下略の繰り返しである。何度も変身をしていくと段々と彼女も大蜘蛛の力を少しずつではあるが使いこなすようになってきた。その良い例が人間形態であっても蜘蛛糸の射出ができるようになった点である。掌の小さな分泌穴から放てるようになった糸は粘着性とスピードに富んでおり、使い方次第では相手の武器を奪い取ることも可能になるものだった。ちょっとした遠距離攻撃の代わりになるのが分かったワンコさんはなんだか嬉しそうだった。

大蜘蛛の力を使いこなすことはワンコさんの身体能力にも変化をもたらしていった。以前に比べて身のこなしが身軽になった気がするのだ。彼女に言わせれば変身していなくても体の内側から力が溢れてくるようであり、以前ではできない動きも可能になってきたとのことだった。

ただし、弊害もある。お腹が異常にすくようになってしまったということだった。流石にこればかりは食料在庫を持たないゼロスペース内では解決することができない。そう思った俺はその日の訓練を終了して食事にすることにした。




                  ◆◇◆◇◆◇       




その日の食事は何も準備していなかったものだから外食に行くことになった。向かったのは食べ放題が売りのお好み焼き屋である。お腹が減っているならば食べ放題の方がいいかという配慮もあったが、何よりも外食と聞いたシェーラとクリスさんが来たがったのが選択した大きな理由のひとつだった。

皆でテーブルを囲んで食べるご飯は美味しい。そう思って行ったのだが、凄まじく予想外の事態になった。とにかくクリスさんとワンコさんが食べまくったのである。その勢いは見ているこちらの食欲がなくなるくらいだった。

だいたいにして卑怯なのはクリスさんが弱火力の火炎魔法を使って生地にまんべんなく火を通してしまっていることだった。それだけでもダーティなのにさらに焼けたばかりのお好み焼きをコテで持ち上げて大口を開けて放り込んでいる。一口で食べるものではないよ、それは。タチの悪いことにワンコさんまで便乗しておこぼれに預かっているではないか。二人の腹ペコキャラの登場によってテーブルの上の空の容器の数はあっという間に山のように積みあがっていった。基本食べきったら次の注文をしていいシステムなのだが、どう考えても異常に早すぎる回転スピードの注文の取り方に最後の方には店長らしき男まで頻繁に偵察にきていた。

制限時間まで残り30分というところで店長らしき男は泣きを入れに来た。もう準備する食材がないから勘弁してほしい。やり過ぎたと反省した時には手遅れだったというわけだ。

晴彦一行お断り。入店禁止の張り紙が張り出される一号店が登場した瞬間だった。


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