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2-2(P9)

 見違えるように奇麗になった部屋を眺めながら俺とシェーラは達成感を感じていた。すっかり暗くなってしまったが、これだけ奇麗になれば文句はない。燃えるゴミなどを入れたゴミ袋が若干残っているが、奇しくも明日は燃えるゴミの回収日だ。後でコンビニに行ってゴミ回収用のシールを買ってきて貼れば回収してもらうことができる。

 

 完璧すぎる計画に満足した俺はそこでようやく空腹を感じてお腹を押さえた。そういえば掃除に夢中だったから朝から何も食べてなかったっけ。


「コンビニ行って菓子パンとコーヒーでも買ってくるか」


『減量するつもりならば、それはやめた方がいいと忠告いたします』


 何気なく呟いた言葉にインフィニティが反応する。厳しいなあ。お腹が減ってるんだから少しくらいいいじゃないか。横にいるシェーラもお腹をおさえて顔を赤らめているところを見てみると何か食べ物を買ってきた方がいいのは間違いがない。


『マスター。人間の身体は炭水化物や糖分を優先してエネルギーに変えようとします。備蓄がなければ体は脂肪を燃焼させてエネルギーに変えていくんです。運動だけで一年以上を見据えた長期的なダイエットを行うのならば話は別ですが、一刻も早く元の世界に戻りたいシェーラ嬢をそこまで待たせるのはいかがなものでしょうか』

「む、むう」


 言われてみればその通りである。数値的な目標が分かっている以上、肥満体質【126/58】のステータスを【58/58】まで変える必要がある。68kgという途方もない目的に高すぎる山を見ているようで全く達成できる気がしなかったが。


『そんなマスターに提案です。食事の量は変えなくていいですから、野菜と肉を徹底的に取りましょう』

「え、なんで野菜と肉なの」

『野菜と肉は炭水化物や糖分と違って体の中で脂肪に変わりにくいのです。エネルギーだけ吸収されると消化されます。つまり野菜と肉を主食にすれば脂肪がどんどん燃焼していきます。なので一週間は騙されたと思ってこちらの指定する食事を続けていただけませんか』

「…甘いものがダメってことはひょっとしてシュークリームもダメなの」

『駄目です』

「チョコレートは?」

『論外です』

「甘いコーヒーとか大好きなんだけど」

『明日から遠ざけてください』

「…分かった。明日から頑張る!…だから今日くらいはいいよね」

『痩せる気ありますか?』


 どことなく冷ややかなインフィニティの口調に若干おののきながらも俺はついに根負けした。もしいう通りにして痩せなかったら只じゃ済まさないぞ。心の中でそう思うと『どうぞご随意に』というあっさりした回答が返ってきた。


 ふとシェーラの方を見てみるとなんだか生暖かい目でこっちを見ていた。なんだろう、なんだかとても可哀そうなものを見るような目で見られている気がする。俺が疑問に思っているとインフィニティが教えてくれた。


『私の声は彼女には聞こえていません。恐らくは空に向かって独り言を繰り返す危ない人くらいに思っているのではないでしょうか。』


 うわあ…。そう考えたらドン引きだよ。一日かけて汚部屋の清掃をやらせた挙句に疲れ切った女の子差し置いて空に向かってお話ししているってどれだけレベルの高いデブなんだよ、俺は。というか、気づいていたなら早く教えてくれ、インフィニティ。


「失礼しました」


 突然、俺の意志とは無関係に口が動く。え、怖い怖い怖い。俺、今何か言ったか。身に覚えがないのは物凄く怖いんだけど。


「オープンチャンネルでこのように話すことはできます。ですが、こうして話をしても傍から見れば悪夢のような一人芝居にしか見えません。シェーラ嬢には今のマスターは相当病んでいる人に見えていると思いますが、よろしかったですか」


 分かった、ストップ。もうやめてくれ。シェーラが青ざめてこっちを見ている。急に早口の甲高い口調でしゃべるとか腹話術師の先生か、俺は。

 シェーラの誤解を解くのには予想以上に弁解と説明が必要となった。




               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇           




 結局、その日の夕食はスーパーで買った野菜と肉を中心にした水炊きになった。

買い物をしている間も俺の脳内ではインフィニティさんの厳しいチェックが行われていた。キャベツはOK。シイタケもOK。豚肉もOK。春雨はNG。人参もNG。食材を手に取るたびに頭の中ではピンポンピンポン、ブブーといった音が鳴り響き、クイズ番組かよと俺はインフィニティに突っ込みをいれた。

 意外だったのは鍋によく入れる春雨や野菜であるはずの人参もダメだということだった。インフィニティがいうにはこの二つには炭水化物や糖分が入っているから駄目だという。さらに悲しかったのは大好物のキムチもダメだということだった。原材料は白菜なんだからいいじゃないかと俺が抗議すると親切なインフィニティは原材料表示を見るように教えてくれた。そこには砂糖を使用しているという哀しい事実が書かれていた。味をまろやかにするために結構な量を入れているらしい。知らなかったがな。

 数日分の食材を手にアパートに戻るとお腹をすかせたシェーラがうずくまっていた。やばい、早く料理を始めないと。慌てながら俺は片付けた台所に立って水洗いした白菜を切り始めた。



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