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次の日、俺はダイエットを再開した。何しろ体重が101㎏に戻っていたからである。ストイックに勤めていたはずなのに物理吸収の一件といい、昨日の寿司の件と言い、やらかした感が半端ない。でも昨日の寿司は本当に旨かった。暫くは贅沢する気がなくなるくらいに俺もシェーラもワンコさんも寿司を食いまくった。お会計の際に司馬さんがなんだか引きつった表情を浮かべていたような気もしたが敢えて触れないようにした。
さて、気を取り直してダイエットを行うわけだが、今回は痩せる新たな秘策を用意している。それはEMSと呼ばれる電気式筋肉刺激を利用したダイエットである。微電流による刺激を体の鍛えたい部分に流すことで筋肉の伸縮を促して筋肉トレーニングを行う。それによって基礎代謝を上げてダイエットしやすい体づくりをするのである。ヒントになったのは深夜の通販番組などでやっている腰に巻くタイプのベルトである。もっとも、市販品では現在の俺の上昇したステータスには対応していない恐れがある。なぜならばこちらには【電気耐性(大)】という厄介なスキルがあるからである。それをインフィニティに相談したところ、似たような仕組みでよければ電撃魔法で同じような電気ショックを与えて体を鍛えることができるという事だった。それでいいのでやってくれとインフィニティさんには無理を言った形で今回のトレーニングは実現した。
不安は色々とあるものの、何はともあれやってみようという事になった。ただしシェーラに見られるとまた危険なことをやっていると怒られると思ったのでゼロスペースで全ての実験を行うことにした。真っ白な虚空空間に入るなり、俺は寝転がって電撃に備えた。立っていると電気ショックでひっくり返る可能性があるからだ。客観的に見ると今の俺の姿はトドか何かにしか見えないだろうな。せめてこの腹がなんとかなれば。そう思いながらまずは腹に電気を流してもらうことにする。いきなり強電流を流されると筋肉刺激どころではないために少しずつ出力を挙げてもらうことにした。
『では行きます。準備はよろしいですか。』
「ああ、いつでもやってくれ。」
俺が了承するとインフィニティは作業を始めたようだった。うーん、確かに電気は流れている気がするのだが、全く感じないなあ。
「インフィニティ、電気をちゃんと流しているか。」
『…結構な電圧なんですけどね。分かりました、出力をもう少しあげましょう。』
それからしばらくするとようやく微力ながら電気を感じるようになった。だが、まだ弱い。それを告げるとインフィニティはしばし沈黙した。
『象でも卒倒するレベルの電圧なんですが。』
「気にするな。電気耐性が効いてるんだよ。もっと強くやって構わないぞ。」
『分かりました。…あれ?これはまずい…』
何となく不穏なセリフが聞こえてきたので俺は不安になった。普段こういう事を言わない奴が突然言い出すとなんだか怖くなってくるだろうが。文句を言おうとすると突然、頭の中にインフィニティの事務的な声が木霊した。
『電気耐性(大)が規定経験値を突破しました。電気耐性(大)は電気無効に進化しました。さらに物理吸収スキルのノウハウを吸収。電気無効は電気吸収に進化しました。』
なんだと、今なんて言った。スキルが進化したとかぬかしたよな。慌てて俺は起き上がった。今の台詞が本当だとすればやばい。今まで使っていた瞬眠スキルと電気魔法によるトレーニングがもはや使えなくなるのと同義だからだ。それだけではない。物理吸収と同じという事はあのステータスが上がることになる。不安を感じながら俺は自分のステータスを確認した。そこには慣れ親しんだ俺の理想体重と現在の体重が書かれていた。そこの数値を確認して俺は泣きそうになった。101kgだった体重が103㎏にまで増加していたからだ。マジかよ。また痩せないといけないではないか。
やるんじゃなかった。自らの浅はかさを呪いつつ、俺は大きなため息をついた。