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2-1(P8)

 次の日の朝、俺は久しぶりに部屋を閉め切っていたカーテンを全て開けて窓を開けた。こうして日の光をしっかり入れるのは何年ぶりだろうか。窓のところどころには蜘蛛の巣が張っていたし、こうして日の光を当てて眺める部屋の惨状は酷いものだった。お菓子やジュースの残骸、無造作に放り投げられた雑誌、そしてサイズが小さくて入らなくなった洋服たちが足の踏み場もないくらいに広がっている様はゴミ屋敷そのものだった。後ろで見ていたシェーラも思わず顔をしかめるほど酷い有様だった。


「やるしかないか」

「はい、頑張りましょう、ハル」


 そういって俺を励ますシェーラはディーファスから強制送還された時に着ていたドレスから俺の所有する予備のジャージに着替えていた。サイズがダブルXXなので若干ぶかぶか気味だがよく似合っている。さらにそこに俺が購入したマスクとゴム手袋、ゴミ拾い用のトングといったフル装備を身に纏った姿は王女というよりは掃除のおばちゃんにしか見えなかった。

 

 昨日、火炎魔法の空中爆発事故があった後は大変だった。爆発の瞬間を目撃していた人間が結構いたらしく、一時は付近に消防車やパトカー、そして多くの野次馬が集まって騒然となっていた。バレてはいないと思うが、警察がいなくなる夕方まで部屋の明かりも消してノックの音が聞こえても居留守を決め込んだおかげで大事には至らなかった。

 

 夕方のニュースで謎の空中爆発の瞬間というスクープ動画が放映されていた時には肝を冷やしたが、警察が乗り込んでこないところを見るとどうやらバレてはいないようである。

 

 もっともパスポートも滞在ビザも所有せず、戸籍自体が存在しないシェーラが職務質問を受けた瞬間に全てが終わる可能性がある。今後も警察の動きには注意する必要があるだろう。


 そんな俺たちが今から行おうとしているのは見てのとおりに部屋の掃除だった。なぜ急にこんなことを始めようとしているかというと深くもなんでもない訳がある。成り行きとはいえシェーラが元の世界に戻るまでの面倒を見ることになったからは部屋の掃除くらいするべきだと思ったからだ。まかりなりにも一国の王女である。この子は優しいからはっきりとは口には出さないものの、これからこのゴミの部屋で生活するといった時に見せた一瞬の表情にははっきりとした落胆の色が浮かんでいた。それが俺に部屋の掃除を決意させるきっかけになったのである。


『生活環境の乱れはそのまま日常生活に影響します。痩せるというのであればまずは現在の環境を見直す必要があると提言します』


 追い討ちをかけるように進言してきたインフィニティにげんなりしながらも俺は頷いて掃除を開始したのだった。



挿絵(By みてみん)


                          




 おかしい。ここまでゴミに溢れていたのか、この部屋は。


 夕方になっても全く終わらない掃除に俺もシェーラもすっかり嫌気がさしていた。言うならば10年間の掃除を怠ったツケが現在に来ていると言っても過言ではない。シェーラが手伝ってくれたおかげで6割以上は片付いて床の踏み場も見えてきたのだが、凄まじいゴミの量だった。なにより積み上げられてくくり紐につけられた漫画雑誌の量が半端ではない。燃えるゴミとプラスチックは分けてゴミ袋にいれているのだが、一回で出したら確実に大家さんに怒られるのは間違いない量だった。

 それに加えて凄まじいのが飲料水の空ペットボトルの量だった。70ℓ入りのゴミ袋いっぱいに入ったペットボトルの量は袋4つ目に突入しようとしている。部屋の下の方から出てきたものに関してはペットボトルの底が黒く変色しており、水洗いしても落ちるか怪しいものだった。これをどうやって捨てようかと悩んでいたら鑑定スキル:∞であるインフィニティからアドバイスが来た。


『ペットボトルと雑誌に関してはディーファスに持ち込めば高価買取してもらえる可能性が大です。アイテムボックスの使用を提言します』


 アイテムボックス?そんなものがあるのか。ますますRPGの勇者の能力だよな。そう思いながら俺は頭の中でインフィニティにアイテムボックスの使用方法を尋ねた。どうやらステータスオープンと同じようにキーワードを口にすれば発動する仕組みらしい。若干の照れを表に出さないようにしながら俺は虚空に向かって声を出した。


「アイテムボックス!」


 俺の言葉に反応して中空から現れたのはステータス画面と同様の黒いウインドウ画面であった。画面には一番上にアイテムと書かれたタイトルのほかは何も書かれておらず、どう使えばいいのか俺は首を傾げた。そんな俺に有能すぎる鑑定スキルがチュートリアルを行ってくれた。


『頭のなかで☞をイメージしてボックスの中に入れたいアイテムを指定してください』


 言われるままにペットボトルが入ったゴミ袋を指定すると光の粒子となって消え失せた。代わりにウインドウ画面にペットボトル×53と書かれた文字が現れた。何だこれ、便利すぎるだろう。調子に乗った俺はほかのペットボトルや雑誌もアイテムボックスの中に放り込んでいった。そのおかげか日が落ちるころには部屋の掃除をすっかり終えることができたのである。



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