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翌日。魔力回路喪失と味覚喪失を克服した際に習得した新たなスキルを試すために俺はゼロスペースに籠っていた。まずはスキル構成がどうなっているのかまずは確認してみることにした。
「ステータスオープン!」
藤堂晴彦
年齢:32
Lv.35
種族:人間(?)
職業:魔王候補生
恐怖を知る豚
優しさを知る豚
異界の姫の豚騎士
称号:電撃豚王
公園の怪人『豚男』
強制送還者
体力:341/341
魔力4943/4943 筋力:272 耐久:246 器用:217 敏捷:273 智慧:118
精神:258 魔法耐性:258
ユニークスキル【ステータス確認】【瞬眠】【鑑定Lv.∞】【アイテムボックスLv.0】
スキル【名状しがたい罵声】【金切声】肥満体質【99/58】
全魔法の才能 運動神経の欠落【48070/65000】人に嫌われる才能【106320/120000】
【アダルトサイト探知Lv.10】
【無詠唱】【精霊王の加護】【努力家】【魔力集中】【魔力限界突破】【限界突破】
【インフィニティ魔法作成】【電撃耐性(大)】【神速】【二回行動】【思考加速】
【地形効果無視】【オーバードライブ】【クロックアップ】【孤狼流剣術:初級】
【物理吸収】【暴飲暴食】【倍返し】【魔剣召喚】
≪NEW!≫【帝王の晩餐】
≪NEW!≫【美食家】
≪NEW!≫【味覚分析】
≪NEW!≫【オーバーリアクション】
≪NEW!≫【魔力感知】
≪NEW!≫【ルーン魔術作成】
≪NEW!≫【グングニル召喚】
≪NEW!≫【空間魔力制御】
≪NEW!≫【快適空間作成】
【インフィニティ魔法】
魔法障壁:絶 Dボム作成 回復薬【最上質】作成
【美食家】や【味覚分析】というのは何となくどういうものか予想ができる、しかし一つだけ想像もつかないものがある。
なんなんだろう。この【帝王の晩餐】って怪しげなスキルは。
そもそも帝王の晩餐なのにビュッフェとルビが打たれていること自体に違和感しか覚えない。ビュッフェってあれだろ。食べ放題やパーティとかで出てくるあのバイキング形式のことだろう。それの王様ってことなのか。言葉だけのイメージだと豪華な料理が出てくるスキルなのかと思ってしまう。
『まずは試してみることが一番かと』
「確かにそうだな」
インフィニティさんのいう通りだ。仮に失敗するとしてもやってみてから考えるというのが俺たちの基本方針だよな。俺が同意するとゼロスペースの地面の下から大量の菓子パンの山が乗ったテーブルが登場した。今回のスキル実験のためにインフィニティに言われるままに俺が自腹で買ってきたものだ。テーブルの上に積みあがったパンの山に狙いを定めた後に俺はスキルを発動させた。
「帝王の晩餐っ!!」
叫んだ瞬間だった。俺の舌があり得ない長さに伸びたかと思うと一瞬にしてパンの山に襲い掛かった。絶句する俺をよそに群がるパンに届いた舌は理解不能な動きでパンの山に巻き付いた後に瞬時にして俺の口の中に戻っていった。この間、実に一秒もかかっていない。普通の人が見たら何が起きたか分からない異常である。恐ろしいことに自分の意志とは反して咀嚼が終わっていた。すっきりした口の中には様々なパンの旨みが混然となった状態で広がっている。なんだ、今のは。俺の舌がカメレオンのように伸びたぞ。もはや冷や汗しか出てこない。
『いかがでしょうか!マスターに様々な料理を味わっていただくために創意工夫して作り上げたものです』
人の身体に妖怪変化のような魔改造を加えながら嬉しそうにするな、インフィニティ。こんなスキルを使用してみろ。ドン引きどころかWMD内で討伐隊が編成されるわ。ないわ、これはないわ。だいたい食べたもののカロリーはどうなるというんだ。
『それは勿論、体の中で脂肪となって蓄積されます』
ですよねー、分かりますー。っていい加減にせんかい!即座に俺はこのスキルを使用禁止棚の中に放り込んだ。気のせいか残念そうな声をあげるインフィニティさんを無視しながら次のスキルを試してみることにした。
気になったのはこの【味覚分析】というスキルだ。無論、美食家も気になったが、帝王の晩餐のようにルビが打たれていることに非常に嫌な予感しかしない。味覚分析を使うことを告げるとこの場所では有効に発動しないので場所を変える必要があるとインフィニティが言い出した。一体なんだというのかと思いながら俺はアパートに戻った。
戻ってきた俺に漫画本を読んでいたシェーラがお帰りなさいと声をかけてくれた。今日もこの子は可愛いのう。挨拶もそこそこに俺はインフィニティさんに命じられるまま、シェーラの後ろに座った。どうやら味覚分析というのは人を対象として使うスキルらしい。
『それではマスター、【味覚分析】を使用してください』
「なんだか嫌な予感しかしないんだが。まあいい。味覚分析!!」
次の瞬間、またしても俺の意志を全く反映しない形で俺の舌はシェーラの頬をゆっくりと舐めあげる。その動きはまるでナメクジを思わせるような生理的な恐怖を誘発するものだった。瞬間、その場の空気が凍りつく。絶句している俺の脳内で様々な情報がインプットされてきた。
『シェーラ・シュタリオン。健康状態:良好。ストレス:微小。少し酸性の汗を流している状態。妊娠、中絶経験などの詳細は不明。これ以上の詳細情報を知るためにはもう一度舐める必要があるのですが、もう一度実行しますか』
「却下だ、却下!!」
慌てて俺はスキルの使用を切り上げる。なんてことをしてくれたんだ。絶対嫌われた!恐る恐るシェーラを見ると予想通りに舐められた頬を抑えながら真っ赤な顔をしてワナワナと震えている。
「ハル、いくら何でもいきなりこれはどうかと思います」
「そうだよね、ごめん…」
目に涙を浮かべているのを見ると罪悪感に心が締め付けられる。
「今度からはする前にちゃんと言ってくださいね」
ちゃんと言ったらやってもいいというのか。いやいやいや、そうではないだろう。気のせいか目が潤んでいるような気もするが、勘違いだろう。敢えて俺はシェーラの言葉を聞かなかったことにして彼女が機嫌を直すまで土下座し続けた。




