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案の定、司馬さんは職業の表示について突っ込んできた。俺が持論を返答すると司馬さんは何とも言えない表情をした。
「俺はそんなヤバい選択肢はさっさと断った方がいいと思うぞ。」
「そうですかね。もしかしたらこの先に必要になるかもしれませんよ。」
「…俺と一緒に異世界に渡った大和ってやつもそう言って魔王になった。結果、奴は惑星全てを滅ぼそうとするような化け物になったんだ。魔王なんてな、ろくなもんじゃねえぞ、晴彦。」
「…司馬さん。」
司馬さんにも色々と思うところがあったのだと思う。司馬さんの言わんとすることも何となくわかったが、断る理由としては弱いと思った。要は力を制御すれば問題はないはずだ。司馬さんには悪いが大和さんという人にはそれができなかっただけにしか思えなかった。
さらにインフィニティが選択肢は保留してアイテムボックスのスキル欄の中に入れて一時保存しておけると言ったことで保留にする決心がついた。それを伝えると司馬さんは呆れた後に好きにすればいいと言ってくれた。
まあ、魔王になる可能性だけを残して現在の人間のままで生きていく。それがとりあえず俺の出した結論だ。
職業の欄の件が終わってから順番にステータスを確認する。うむ。力も素早さも軒並み上がっている。確かに以前に比べて体が軽いし、力強くもなったと思う。マイナススキルが邪魔して魔法こそ使用できないものの克服すればなんとかなると思われる。
スキルの項目までたどり着いた時に俺の目は点になった。あってはいけないスキルが俺のステータス項目に表示されていたからだ。
物理吸収。デモンズスライム第二形態のメインスキルにして俺たちを苦しめた忌まわしいスキル。それがしれっと俺の中に存在している。これはやばい。よくあるRPGでも最強スキルのひとつじゃないか。俺の好きなゲームにもこのスキルは登場するが、このスキルを持っているものは鬼のように強い。何しろ敵が与えた物理攻撃を全て自らの体力に変換してしまうからだ。つまり、攻撃されればされるほど元気になるのだ。攻撃を行っている方は堪ったものではない。
俺は早速司馬さんで実験を行うことにした。実のところ、先日騙された意趣返しの意味もある。司馬さんは物理吸収に嫌な思い出があるせいか若干渋ったが、結局俺に説得される形で実験に参加してくれた。
実験内容はいたって簡単。物理吸収を使用した俺に対して司馬さんが攻撃を行ってダメージがどうなるかを検証するというものだ。これが使用できれば俺TUEEEの時代が幕を開けることになる。
「やりたくねえが、仕方ねえか。行くぜ。」
司馬さんは俺の間合いに入るなり、渾身の力で俺の腹を殴った。いつもならみぞうちに入って悶絶するはずなのに全くダメージが入らない。
『349のダメージを確認。物理吸収を使用したため、攻撃エネルギーが吸収されます。…あれ?』
おお、す、素晴らしい。全く痛くない!このスキルは凄いぞ!これならば俺は司馬さんよりも戦える。どんな敵も怖くない。だが、俺に攻撃を加えた司馬さんは俺のステータスの何かの変化に気づいた。そしてこれ以上ないくらいに気の毒な表情をした。
「お前はこれ以上このスキルを使用しない方がいい。」
『…私もそう思います。』
は?二人して何を言ってるんだ。こんなに使えるスキルをなんで使用しないなんて選択肢を選ぶ必要があるんだ。困惑する俺に司馬さんはあるステータスを指さしてくれた。
肥満体質【96/58】➡肥満体質【99/58】
そこには何故か3kg増えた俺の体重表示があった。今の一瞬で3㎏増えたことになる。ど、どういうことだよ!
『おそらく攻撃されたエネルギーが吸収されて体内の栄養分に変化したものと思われます。』
これってあれか。攻撃を受ければ受けるほど太るっていうやつなのか。忌まわしすぎるわ、呪われたスキルじゃねえか!ショックを隠せない俺にインフィニティが同意する。嘘だろう。眩暈を感じる俺に司馬さんは生暖かい視線を向けたまま、慰めるように俺の肩をポンポンと叩くのだった。