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7-3(P66)




               ◆◇◆◇◆◇        




それからすぐに病室から出された俺は暫く立ち直ることができなかった。あの勝利のためにあまりにも大きな代償を払ったことが胸を締め付ける。放心状態になった俺を司馬さんは屋上へと連れ出した。煙草を一本勧められたが丁重に断ると司馬さんは慣れた手つきで自分の分を口にくわえるとライターで火をつけた後に深く息を吸い込んで火を灯した。しばしの沈黙の後、司馬さんが吐き出した煙が風で宙を舞う。


「あいつな。お前に手の事を気づかれたくなかったんだよ。重荷になるって分かっていたからな。」


司馬さんの語りかけに俺はどう答えていいのか分からなかった。


「あの手になったのは俺のせいですよ。」

「…そうじゃねえ。あれはあいつ自身が選んだんだ。お前さんのせいなんかじゃねえ。」

「でも俺が、もっとうまく戦えれば!」


そう叫んだ俺の胸倉を司馬さんが掴みあげる。物凄い形相だった。単なる怒りだけでない。情けなさと悲しみが同居したような表情。それを見た瞬間に俺は泣きそうになった。怖さからではない。自分自身があまりにも情けなくなったからだ。

胸倉を掴むつもりはなかったんだろう。司馬さんは我に帰ると胸倉を掴む手を放して小さな声で謝ってきた。

「…すまん。」

「…司馬さんは悪くない。悪いのは聞き分けのない俺です。」


司馬さんは俺から視線を話すとフェンス越しに外の景色を眺め始めた。


「…あいつがお前に会わなかったのはな、ずっとあの手を見せる決心がつかなかったからだよ。今日の面会だってな、あの手を見せずにお前に会ってから姿を消すつもりだったんだ。」


司馬さんの伝えた言葉は俺を凄く悲しい気分にさせた。ワンコさんは俺のことを思ってくれたのだろう。でも本当にそれをされて真実を後で聞かされたら俺は一生自分を悔やんだだろう。


「ずるいですよ。司馬さんもワンコさんも。俺たち、仲間じゃないですか。」

「仲間だからこその気遣いだったんだろうぜ。あの手はお前の真っすぐさの邪魔になる枷にしかならない。ずっと負い目を感じるはずだ。だったら…。あいつはそう考えたんだろうさ。」

「だからって。」


凄く悲しいしやるせなかった。ぼろぼろと涙を流す俺の横で司馬さんは黙って煙草を吸った。ぷかぷかと舞い上がる煙はこの場の雰囲気とはどこか場違いだった。空の色はそんな俺たちの気持ちを無視するようにどこまでも蒼かった。


『マスタ―。それ以上の涙を流すと眼球が充血しますよ。』

「…落ち込んでるんだからさ、もっとましな慰め方をしろよ、インフィニティ…あれ?」


そこにきて俺はようやく長い沈黙を続けていた相棒が復旧したことに気づいた。びっくりである。慌てて涙を拭う。司馬さんもいつもの俺の一人語りが始まったことに驚いているようだった。


『二人とも不景気な顔をしていますね。どうしたというのですか。…なるほど。状況は把握しました。マスターが気に病むことはありませんよ。というか泣きすぎです。』

「お前、絶対に今、脳内を読んだだろ!」


恥ずかしくなって俺は赤面した。恐らくこいつの事だ。俺自身に鑑定スキルを使用して今までのやり取りを全て再生してみたに決まっている。全く、なんて奴だ。


『状況は理解しましたが、そこまで悲観している理由が分かりませんね。』

「…なんでだよ。ワンコさんは両手がなくなったんだぞ。」

『確かにそれは悲しむべきことですが。やり直しは効くはずでしょう。まさかこれまでの生活の中でマスター自身が行ってきたことをお忘れですか。』


はあ?いったい何を言ってるというんだ。今までの生活って。思い出すことと言えば魔力の修行で高圧電流と睡眠を繰り返されたり、延々筋トレをやらされたり、必殺技のポーズを繰り返して使えなかった魔法を使えるようになったり。


使えなかった魔法を使えるようになったり?そこまで考えたところで俺の頭の中に天啓ともいえるアイデアが舞い降りた。そうだ、俺は大切なことを忘れていた。


「…マイナススキルの克服。」


そう呟いた瞬間に確かにインフィニティが笑ったような気がした。




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