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7-1(P64)

【特定条件を達成したことで魔王種の因子が目覚めようとしています。解放して上位種族へと進化しますか。】

はい/いいえ







 奇妙な空間の中を俺は漂っていた。どこかは分からない。なぜここに来たのかも。自分がなんであるかも曖昧だった。ふいに空間の奥に一つの巨大な閉ざされた門が置かれていることに気づいた。それは俺が見上げるほど大きな門だった。見る者に禍々しさと恐れを自然と抱かせる異様な装飾の門だった。

開くのか試してみたがまるで動く気配がない。どうしようか思案しながら門に触れていると急に門が少しだけ内開きに開いて中に吸い込まれた。入った瞬間に門が再び内側から閉ざされた。不味い。完全に中に閉じ込められた。暗闇の中で目を凝らすと部屋の中央に蠢く何者かの影があった。俺がその姿を視認した瞬間に部屋の中に松明による微かな明かりが灯った。


【やあ、はじめまして。藤堂晴彦君】


 暗闇の中でうずくまっていたのは一人の少年だった。彼に呼ばれてようやく俺は自分が藤堂晴彦であることを思いだした。だが、同時に強い違和感を覚えた。これまで生きてきた中で目の前の少年とは会ったことがないからだ。不可思議な少年だった。日本では見かけない儀礼的な装飾を施された服装をしている。俺が戸惑っていると少年は頷いた。


【戸惑うのも当然だろう。この姿の僕には会ったことがないはずだからね。僕の名は勇者クリス。かつて世界を救った太古の勇者の一人さ】

『太古の勇者?それがどうして会ったこともない俺のところに現れるんだ』

【会ったことはあるはずだよ。君が僕を飽食の呪いから解き放ってくれたんだからさ】



そういってクリスは指を弾いた。瞬間、俺は愕然となった。クリスの身体がぐにゃりと歪んだかと思うと先ほどまで戦っていたデモンズスライムが現れたからだ。あのスライムがクリスだったというのか。恐れる俺の目の前でスライムは元の少年の姿に戻った。


【見ての通りだ。君が戦った魔神獣デモンズスライムは自我を失った僕の成れの果ての姿さ。強さを求めた余りに人間としての自我を忘れた餓えた獣。自我をなくしたあまりに大事なもの全てを喰らおうとして地下深くに封印された僕を何者かが解き放ったんだ】


クリスのいう事に俺は驚かされた。シェーラの話では魔神獣というのは人を襲う悪魔のような存在だと聞かされていたからだ。クリスは動揺する俺を静かに見つめながら俺の方に向けて掌を翳した。そこから放たれた微かな光が俺の胸元にゆっくりと近づいてきた。


【勇者である僕を倒した君はこれを受け継ぐ権利がある。魔剣ティルヴィング。けして錆びることなく鉄をも容易に切り裂き、狙ったものは外さない風の魔剣だ。使いたいときはその名を呼ぶといい】

『待ってくれ、あんたは』


俺はクリスに色々と聞こうと思った。なぜあのような姿になったのか。なぜ封印されたのか。誰が封印を解いたのか。だが、俺が尋ねる前にクリスは手で俺を制した。


【残念ながら時間が来たようだ。僕はここでティルヴィングと共に眠っている。何か聞きたいことがあれば再びここに来るといい。そうそう、あまり力ばかり求めないことだ。僕のようになりたくなければね…】


最後になってクリスの身体がぐにゃりと崩れてデモンズスライムのものになる。その巨躯からの恐怖で俺は怯えるように後ずさった。そんな俺にスライムはゆっくりと近づいていくと――。




               ◆◇◆◇◆◇       




「うわああああああああああ――っ!!!」


 生理的な恐怖からの叫びを上げながら俺はその場から跳ね起きた。心臓がバクバクいっている。夢だというのにあの生々しさはなんだ。額に触れて驚いた。凄まじい汗が流れている。額だけでなくどうやら全身のようだ。一体あれは何だというのか。デモンズスライムが元勇者だと。あり得ない。だったら魔神獣とは一体何なんだ。あれが勇者だとしたら勇者である俺は何と戦ってるというんだ。気持ちの悪い後味の悪さを感じながら俺は周囲を見渡した。


 見慣れない部屋だ。白を基調とした生活感のない部屋。おそらくは病院だろうか。とにかく外に出て状況を知ろう。そう思って起き上がろうとすると腕にかすかな痛みを覚えた。血管に針と管が刺さっている。管の先を辿ると点滴らしきものがぶら下がっていた。胸にもなにやら管がたくさんついているのが分かった。腕の管は点滴だろうが、胸元や頭のやつは何だろう。

まあいいや、引きちぎってしまえ。そう思って強引に引きちぎった瞬間、横にある心電図モニターらしきものと怪しげな周辺機材が一斉に警告音を鳴らした。うわ、やばい、取ってはいけない奴だったか。俺がそう思うよりも早く部屋に看護師さんたちが駆け込んできたのを見て俺は自分がやらかしたことに気づいた。


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