6-1(P53)
逃げ遅れていた少女と老婆を安全な場所に連れて行った後に俺はすぐ戦場に戻った。助けた少女には見覚えがあるものの、どこで会ったのかが思い出せなかった。【神速】スキルで高速移動しながら首を傾げる俺に呆れたような声でインフィニティが語り掛ける。
『もうお忘れですか。先日拉致されかけていた高校生の少女ですよ』
言われて思い出した。あの子は先日助けたギャル子だ。俺とぶつかった時は性格が悪そうな第一印象だったが、逃げ遅れた婆さんを助けるとはいいところもあるじゃないか。まあ、赤い顔をして怒っていたようなので次に会ったときに文句を言われないように逃げ出すことにしよう。まあ、今はそんなことを考えている暇はない。デモンスライムの巨体は遠目からでもよく目立つ。こちらが小さいので気づいてはいないようだ。奴の巨体を見上げながら俺は相棒に命令を下した。
「インフィニティ、奴のステータスを鑑定してくれ。大至急だ」
『了解しました』
デモンズスライム(第一形態)
齢:???
Lv.???
種族:魔神獣
称号:すべてを喰らうもの
体力: 8600/8600 魔力729/729 筋力:521 耐久:556 器用:81
敏捷:56 智慧:0 精神:200 魔法耐性:180
ユニークスキル【暴飲暴食】【自己再生】【破裂】【分身】【■■■■】【擬装】
スキル【捕食】【吸収】【粘液】
自重できていない圧倒的なステータスを見た俺はその場から逃げ出したくなった。何だよ、この化け物ステータスは。体力8600ってあり得ないだろう。筋力も耐久もやばい。肉弾戦でまともにやり合ってひとたまりもないだろう。
正直なところ、司馬さん達の応援を待つべきとは思う。だが、奴はまるで移動する巨大な沼のように現実世界を侵食している。すでに奴の所有権になった地域は溶けて無残な姿をさらしていた。化け物のゆっくりと進む方向にはシェーラと共に見に行った桜並木がある。あの思い出の場所を奴の手で壊されるのは我慢できなかった。
「インフィニティ。例の武器を使うぞ」
『了解しました』
俺がそう命令した瞬間に両手で抱えるほどの大きさの円盤型爆弾が現れる。
これこそが俺の切り札の一つ、Dボムである。勝手に攻撃魔法をや武器を作ってはいけないと言われた俺は創造魔法で消耗品の武器を作ろうとした。消耗品ならば悪用されても被害は大きくならないと考えたのだ。司馬さんにそれを伝えたところ苦笑いしながら了承してくれた。ただし、あまりひどいものを作るなよと釘を刺されはした。どうせやるなら普通の武器では面白くないと考えた俺は神速の速さを生かした攻撃スタイルを形成できる武器を考慮した。下手な中距離兵器では反撃を喰らう恐れがある。こちらが攻撃しなくても追ってきた敵が勝手にダメージを食らう武器が必要だった。
そこで考慮したのがこのDボムである。これはいわゆる地雷型の罠である。対象が足を踏み入れた瞬間にその重さに比例したダメージを相手に与える。60㎏の相手なら60のダメージ。100や200の重量ならば地味に痛いダメージを相手に与えるのだ。神速で敵の足元に罠を張れば反撃をもらうこともない。なにせビルに匹敵するあの質量だ。まともに踏めば楽しいことになるんじゃないか。
俺はDボムを脇に抱えると敵の進行方向へ向けて走った。神速の効果によって俺の姿は常人に見切れないほどの速さになっている。だが、このスキルにも欠点がある。自身が扱いきれない速度で走った場合には止まれなくなるのだ。そういう点は不便なこと極まりない。なんとかスピードを制御するとDボムを敵の足元に設置するとわざと追ってきやすくなるように神速を使わずに走った。予想通り追ってきた。直後に大爆発が起こるのを確認して俺はほくそ笑んだ。
『ダメージを確認。800のダメージを与えました。…待ってください。何か様子が変です。…!!自己再生を確認。敵弾、来ます!』
インフィニティの言葉に俺は焦りながら走った。直後に俺のいた地面が何かによって大きく抉れる。あのままいたらぺしゃんこになっていたところだ。一体なんだ、奴は何を飛ばした。
『おそらくは自身の身体の一部を大砲のように飛ばして攻撃してきた模様』
「はは、戦車かよ」
『次弾装填の予備動作を確認。弾数、数え切れません!』
おいおいおい!一撃ですらシャレにならない威力の砲撃を複数だと。上空に舞った複数の巨大な物体の凄まじさに冷たい汗が体を伝う。俺は走った。その背後で爆弾のような攻撃の雨あられが降り注いだ。