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どのくらい泣き続けただろうか。思い切り泣いた後は先ほどまでのモヤモヤが嘘のようにすっきりした。気持ちが落ち着いた俺は目の前で眠るお姫様を眺めた。俺が号泣しているときに目を覚まさなくてよかった。ただでさえ太っていて醜い男が目の前で号泣していたらドン引きすること間違いないからな。
次第に頭が冷えてきて冷静になった俺は先ほどの光景を思い出した。同時にシュールな光景だと笑いが込み上げてきた。俺を殺そうとした陰険サディストの滑稽な姿を思い出したからだ。
「真剣な表情をしてステータスオープンだもんな。ゲームのやり過ぎだろう」
そう言った瞬間に腰を抜かしそうになった。目の前にゲームのキャンプ画面のようなステータス表示が映し出されたからだ。黒塗りの画面に白抜きの文字で目の前のお姫様のステータスが映し出されているのが分かった。
シェーラ・シュタリオン
年齢:16
Lv.8
種族:人間
職業:王女
体力:34/34 魔力:2/120 筋力:21 耐久:16 器用:23 敏捷:14 智慧:51 精神:60
ユニークスキル【肥満の呪い】
スキル【治癒魔法LV5】肥満体質【70/48】攻撃魔法の才能の欠如【64960/65000】
【所有魔法】中治癒魔法 自然治癒促進(小)毒素浄化 速度強化 魔法防御壁
まるでゲームそのものだ。気になった俺は自分自身のステータスを確認できないか試してみた。どうやら頭の中で見たいもののステータスに切り替えられるようである。シェーラという名のぽっちゃり姫から自分に意識を移すと俺は自分のステータスを確認した。
藤堂晴彦
年齢:32
Lv.1
種族:人間
職業:勇者?
称号:強制送還者
体力:12/12 魔力:0/0 筋力:7 耐久:10 器用:8 敏捷:6 智慧:12 精神:6
ユニークスキル【ステータス確認】【瞬眠】
レアスキル 【鑑定Lv.∞】【アイテムボックスLv.0】
スキル【名状しがたき罵声】【金切声】肥満体質【126/58】鈍足 【1265/420000】
魔法の才能の欠如【126/65000】運動神経の欠落【58/65000】
人から嫌われる才能【アダルトサイト探知Lv.10】
色々と突っ込みたくなったが、まず気になったのは職業が勇者?になっているところだ。?ってなんだ。いくらなんでも酷すぎる。称号も強制送還者という不名誉なものがつけられていた。一体この称号にはどういう意味があるのだろう。そう意識すると称号のところから新しい文字が浮かんできた。
【強制送還者】
勇者として異世界に召喚されたにも関わらず世界に拒絶された豚。はみ出し者。この称号を確認されたものは可哀そうなものを見るような目で見られるようになる。ちなみにいい加減な条件で転移を行ったものとして地球担当神アイリスは上司である創造神に呼ばれて説教を受けている真っ最中である。
知らんがな!なんだよ、創造神に説教される神様って。恐らくは召喚の際に聞こえたあの能天気なアナウンスの声の主だろう。しかしステータスはこんな風に詳細な経験値まで確認できるものなのだろうか。
『疑問にお答えします。詳細について確認できるのはマスターのスキル【鑑定LV:∞】の特殊効果によるものです』
「うわわ、誰かが頭の中でしゃべっている」
頭の中で声がする。幻聴が聞こえるくらいにおかしくなってしまったのだろうか。頭を抱えている俺に対して幻聴らしき声は尚も話しかけてきた。
『申し遅れました。私は鑑定LV:∞。AI型式167414145668897585-3と申します。呼びづらいと思いますので気軽にインフィニティとお呼びください』
鑑定スキルが自分の意志で喋っているというのか。何が起こっているんだ。慌てふためく俺の疑問にインフィニティと名乗った鑑定スキルは流暢な女性の音声で答え始める。まるで機械のように感情の籠っていない声だった。
『私は勇者のサポートのために女神アイリスによって生み出されました。作成者である彼女はがさつでポンコツではありますが、私のような存在を作ることに関しては天才的な能力を持っています。私は万物を鑑定できる鑑定スキル∞。貴方の持つすべての疑問に応える能力を所有しています』
全ての疑問に答えるほど優秀だというのか。AIと言ってるけど機械なのだろうか。
『その問いに対しての答えはYESであり、NOです。私は心を持たない機械ではありません。自ら考えて判断する能力を持っています。ゆえに貴方の冒険に対して適切なアドバイスをすることができます』
あ、そうなのか。ありがたいのだが、申し訳ない。欠陥品の勇者につけられるとはお前も運がなかったな。
『現在の発言はマスターご自身の自尊心を傷つけています。訂正を要求します。貴方は決して欠陥品ではありません。126㎏から58㎏の理想体重にまで痩せることができれば塞がれた異世界への入り口が解放されて第七世界ディーファスに戻ることができます』
「え、戻れるの」
『99.98%の確率でYESと申し上げます』
インフィニティの言葉に俺は暫く考えさせられた。だが、何よりも先に思い出したのはあの陰険サディストに与えられた恐怖の感情だった。できればもうあいつには会いたくはない。だから自然と答えが出ていた。
「いや、いいや。あんなおっかないところに戻りたくはないよ」
『お待ちください。彼女のことはどうするのですか』
機械的な口調ながらどこか攻めるような口調のインフィニティに対して俺は押し黙った。
『自らの身を捨てて子猫を助けた貴方は勇敢でした。ですが、今の貴方は恐れるあまりにその時の気持ちを失ってしまっている。思い出してください。この少女は自分の身を顧みずに貴方を助けたためにこの場所にいるのです』
全く反論できなくなった俺に鑑定スキル:インフィニティは耳の痛い正論を畳みかけていく。
『奇しくも召喚された時の貴方と同様の環境です。貴方は自分と同じような境遇に立たされた少女を外に放り出して何事もなかったかのように引きこもれますか?』
その疑問に躊躇いもせずにYESと答えられるほど、俺は恥知らずではなかった。




