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5-11(P47)

 渡された薬瓶の中身が毒物でなく回復薬であることを確認した俺は躊躇うことなく一気飲みした。身体中に力がみなぎるような感覚がした後に蓄積していた疲れが消え失せていく。一連の挙動を眺めていた司馬さんは笑い出した。


「はい、失格。悪いお手本みたいな飲みっぷりだったぜ」

「ええっ!?駄目なんですか、今のが」

「そりゃそうだろ。そんなもん飲み続けたら回復薬中毒になっちまうぞ」


 司馬さんの説明は驚くべきものだった。回復薬というのは飲んだ瞬間に傷と共に疲労も癒してくれる強力な薬である。だが、その強力すぎる回復効果が曲者なのだ。

疲れたからと言って回復薬を飲み続けると徐々に手放せなくなる。実は麻薬と同じで常用性があるのである。飲み続ければ依存性になる危険性を含んでいるのだ。司馬さんが言うには人間の身体で消化吸収できる魔力の量は個人差はあるものの決まっており、それを超えると酔ってしまう。それが魔力酔いというものらしい。

単純に吐き気や眩暈で済めばいいが、あまり上質でないポーションを飲んだ場合には本人以外は不可視の幻覚や幻聴が聞こえ始める。万が一、ダンジョンの奥深くで魔力酔いになったら目も当てられない事態になってしまう。司馬さんのいた世界でも何人もの冒険者が魔力酔いの弊害で全滅しているというのだ。


「強い薬ほどその効果は高い。エリクサーなんて飲んだ日には数日はとんでもない幻覚に悩まされるぞ」


危なかったーっ!!実は昨日も何回か訓練の辛さからエリクサーを飲もうかと躊躇ったのだ。もし飲んでいたらと思うと身震いが止まらない。司馬さんはそんな俺に苦笑した。


「やっぱり分かってなかったか。というわけだからポーションの類をそのまま飲むのは極力避けて傷口にぶっかけるように心掛けろ。まあ、MPポーションは飲まないと効果がないが、それでも常用性があるから頻繁に飲まないことだ」

「いろいろと教えてくれてありがとうございます」


俺の礼に司馬さんはぞんざいに手を振って答えた。そして続ける。その後に何かを思い出したように尋ねてきた。


「ところでよ、前から気になってたんだが、お前さんのステータス画面の【アイテムボックス】スキルのLv.0ってなんなんだ」

「へっ?アイテムボックスはアイテムボックスですが。普通でしょ」

「馬鹿野郎、普通なものか。Lv.0なんて表示は見たことも聞いたこともねえよ」


 あれ?そういうものなのか。自分ではこれが普通で、単にレベルが足りないだけなのかと思っていたが、司馬さんの話だとどうやら違うらしい。首を傾げていると司馬さんに尋ねられた。


「普通はレベルに応じてアイテムボックスの大きさとアイテムの所有数も決まってくるんだぜ。レベル1で8個のアイテム枠、レベル2なら50枠ってな。お前さんの所有枠はどのくらいだ。」

「どうなんですかね。インフィニティ、俺のアイテムボックスの収納枠ってどのくらいだ」

『いくらでも収納できます。言ってみれば無限大ですね』


 正直なところ、言っていいものかどうかかなり迷ったが、答えないときの方が怖いと判断して俺は答えた。


「え—と…インフィニティの話だと無限大だそうです」

「無限大だとっ!?」


 何気ない俺の言葉に司馬さんは絶句した。あ—あ、やっぱりまともではなかったか。どうやらほかのチートスキル同様にこの【アイテムボックスLv.0】も異常なチートスキルだったらしい。問題児が多すぎるだろう、俺のステータス画面は。怖くなった俺は好奇心から確認してはいけない質問をしてしまった。


「あの、じゃあ収納空間のゼロスペースに入れるのも…普通じゃないんですかね」

「どういうことか説明してもらおうか」


 誤魔化そうとしたが無駄だった。異様な雰囲気で俺に迫る司馬さんは有無を言わせない笑顔で俺の肩を掴んだ。力が籠り過ぎていて痛い。


 晴彦は逃げ出した。だが、司馬に回り込まれた。


 RPGならばこのように表記されたであろうことは間違いないだろう。逃げることを諦めた俺は司馬さんをゼロスペースに案内することにした。




 

                   ◆◇◆◇◆◇             





 俺が連れ出したゼロスペースの広大さに司馬さんは絶句していた。驚く司馬さんの横で俺は広大な空間を呆然と眺めていた。確かに広い空間だけどそこまで異常かなあ。首を傾げていると司馬さんは額の汗を拭いながら言った。


「恐れ入ったぜ。まさかアイテムボックスにこんな秘密があるなんてな」

「そこまで異常な話なんですかね。何気なく使っていたんですが」

「異常すぎるわ、バカたれ。何なんだよ、この広大すぎる空間は。まるで底が知れないじゃねえか」


 司馬さんはそう言ってゼロスペースの奥を眺めた。確かにこの空間がどこまで広がっているかなんて気にもしたことがなかった。司馬さんは大きな口を開けながら辺りを見渡した後に腕時計を眺めて凍りついた。


「何の冗談だ、時計が止まってやがる。」

「え?あれ、本当だ、俺のやつも止まってますよ」


 腕時計を見てみると秒針が全く動いていなかった。幾らなんでも同時に二つの時計が壊れることなんてあるのだろうか。頭の隅に怖い考えがよぎったが、それは怖くて言い出せなかった。躊躇う俺に変わって司馬さんがとんでもない可能性を示唆してきた。


「まさかとは思うが、この空間、時間が止まってないか。」

「あはは…まさか…」


 やめてくれ。怖いから言い出さなかったのに指摘されたら確認しないといけないじゃないか。そんな俺に追い打ちをかけるようにインフィニティさんの注釈が入る。


『司馬の推測は正しいです。ゼロスペースは製品の鮮度保管のために時間の経過自体が止まっています』


 マジかよおおおっ!!やばすぎるだろう。つまりはこの空間に入っていれば時間が経過することはないってことか。司馬さんに推測が正しい旨を伝えると流石の司馬さんも蒼い顔をし出した。


「…とりあえず出ようか。流石に気持ち悪くなってきた」

「なんというか、うちのスキルがすんません」


 司馬さんに謝りながらも俺たちはゼロスペースを後にした。



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