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5-6(P42)

ゼロスペースから出てきた俺は憮然として居間の座布団に座った。【瞬眠】を使用して筋肉痛から解放されたが、まだ筋肉が引きつっているような感覚がする。


「機嫌が悪いように見えますが大丈夫ですか、ハル」

「ごめん、機嫌が悪いわけじゃないんだけど」


俺の様子を心配してくれたシェーラに対して苦笑いして応えながら俺は自分のふくらはぎを揉み解した。

全く酷い目に遭った。全身の筋肉の吊りによって殺されるかと思った。

筋肉痛もさることながら、もっと恐ろしかったのは肉離れだ。生まれてはじめて肉離れを起こしたが、まともに歩くこともできなかった。金属バットで殴られたような感覚だったぞ。【瞬眠】スキルが使えなければ確実に終わっていた。

【瞬眠】スキルも激痛にのたうち回っている間は使用することができなかったのでクロックアップと瞬眠のコンボでステータス強化することはできないという事が分かった。【瞬眠】で回復しようにも激痛で眠る暇さえないのでは効率もくそもない。地道に鍛えるしかないという事か。そんな結論を出した俺にインフィニティさんが反論する。


『いや、やり方を考えれば充分いけると思いますよ』

「ほう、一応どうするのか聞いておこうか」


そう言いつつも俺は凄まじく嫌な予感がした。そりゃそうだろう。こいつの効率の前には人道を無視するやり方に散々泣かされてきたのだからな。インフィニティさんはそんな俺の気持ちを察してか察せずかは分からないが、例によって凄まじい対応策を論じてきた。


『まずは致死量にならない程度の電圧で電流を流し込みます。マスターは電気耐性がついてますから多少は強い電圧でも即死することは…』

「却下だ、却下!」


なんで電圧を強くするのが前提なんだよ。そもそも電気を体に流す発想自体がおかしいとは思わないのか。俺は科学の実験で電気を流されるカエルじゃないんだぞ。俺の反論にしばし思案したインフィニティさんのイメージが頭の中に伝わる。どうやら最適解を導き出したようである。一応聞いておこうか。


『まずは数人のならずもの鈍器で後頭部を殴って気絶させてもらいます。耐久力の訓練にもなりますので耐久力の上昇に合わせて徐々に鈍器のレベルをですね…』

「ストップ、スト――ップ。その世紀末的な発想からちょっと止まろうか」


鈍器のレベルをですね、じゃないわ、バカたれ。平然とした声色をしてとんでもないことを言いやがる。気分が悪くなった俺は話を逸らすためにテレビをつけた。

ちょうど夕方のニュースの時間だった。ニュースのテロップには最近話題になっている人攫いグループについての特集が組まれていた。画面ではコメンテーターが人攫いグループの異常性について熱弁をふるっていた。なんでもこの人攫いグループというのは人を攫っては廃人にする恐ろしい連中らしい。攫われるのはどれも若者であり、どれも各分野で将来有望な者ばかりが狙われているらしい。拉致された後は路上に置き去りにされるのだが、そうなったときはすでに手遅れで自分の名前も満足に思い出せない状況になっているそうだ。

そういえばこないだの女の子も拉致されそうになっていたな。ひょっとしてあれもそのグループの犯行だったのだろうか。まあ、あの少女が何かの才能に秀でていたとはとても思えないがな。

少し気になったが、次のニュースが流れはじめたので俺はそちらに意識を集中した。画面には最近発見された新種のトカゲが映っていた。黒と赤の縞縞模様が独特の不気味なトカゲだった。随分とカラフルなんだな。そう思って画面を見ていると、それまで黙っていたシェーラが急に立ち上がってテレビにしがみつくと食い入るように画面を睨みつけた。今までなかった鬼気迫る様子に驚いた俺が声をかける。


「シェーラ、どうしたの。見えないって」

「そんな、嘘!やっぱりそうだ。ああ、なんてことでしょう!」


シェーラの取り乱した様子に驚いた俺は何事かと問いかけた。シェーラはこちらを向いた後に首を横に振った。その表情は信じられないくらいに青ざめていた。。


「あれは魔神獣の出現に合わせて現れる魔界のトカゲの一種です。」


魔神獣って何のことだ。何のことかは分からなかったが、シェーラの様子からただ事ではないことを察した俺は事情を聞くことにした。




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