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再度訪れる羽目になった取調室で俺は項垂れていた。取り調べを行ってくれたのはいつもと同じように司馬さんであり、壁際では相棒のワンコさんが鋭い視線でこちらを睨んでいた。
「兄ちゃん、過剰防衛という言葉を知っているか」
「相手は拳銃を持っていたんですが、その場合も過剰防衛は当てはまるのでしょうか」
「拳銃持った奴らをどうすれば複雑骨折で全治3か月にしてしまうんだよ。明らかに拳銃以上の危険物を所有していたのは兄ちゃんだろうが」
返す言葉がない。司馬さんの言葉にぐうの音も出なくなった俺は項垂れた。もし過剰防衛になったら留置所に2,3日は拘留になるそうだ。豚がブタ箱に入れられるなんて悪い冗談もいいところだ。やらかしてしまった。頭を抱える俺の様子に呆れかえったのだろう。司馬さんは溜息をつきながらジッポライターの蓋ををキンと指で弾いて開けてから煙草の火をつけた。そして事情聴取をまとめた調書を眺め始めた。
「原因になったこの神速ってスキルだけどよ。ふざけた効果すぎるだろ。10倍のスピードで走るとかなんなんだよ。そこらの勇者だって持ってないぜ、こんなトンデモスキルは」
神速。それは使用者の走行速度を際限なく引き出していくものだ。その平均速度はおおよそ10倍であり、さらにタチの悪いことにインフィニティさんのシュミュレーションだとトップスピードに乗ってしまえば20倍ほどになると試算される。単純に考えて俺の全力ダッシュが時速5kmだとしたら時速50km~100kmには達するということだ。そりゃ80kmで走っている車にも追いつけるわ。
太った状態でこれである。痩せて鍛えて時速10kmくらいで走れるようになれば時速200kmで走ることも夢ではない。そうなれば悪夢の弾丸重量物の出来上がりである。まあ、走るのに慣れてないせいで終わった今も地獄の筋肉痛を味わっているので、しばらくは使えそうになさそうだ。
司馬さんは口にくわえたままだったために溜まっていた煙草の灰を灰皿に落とした後に話を続けた。
「車に触れて崖の幻を見せるまではクレバーだったんだがな」
「あのアイデアは良かったと思います、自分でも」
あの時の機転は自分でも流石だと思った。成り行きと勢いに任せて車に追いついた俺だったが、車のドアをノックしても止まるどころか車を寄せてきた時は焦った。思わず車の天井に上って鑑定スキル;∞を使用して車の過去の風景を映し出したのだ。都合よく崖の映像の記憶を車から引き出すことができて本当によかったと思う。
「無茶もいいところだ。拳銃の弾丸が当たったら、かすり傷程度じゃすまなかったんだぞ」
「まさか拳銃を持ってるとは思いませんでした」
「非常事態だったとは思うが、今後は慎重に行動した方がいいぞ」
司馬さんにそう言われて今更ながらに身震いした。確かに言われてみればその通りだ。相手の動きがスローに見えるスキルが発動したからいいものの、弾丸が直撃した可能性だってあったのだ。自分のやったことの無謀さを自覚して冷や汗が出てきた。そんな俺の姿に司馬さんが今更だろうと苦笑した。
「焦って対応が分からなかっただろうが、そういう時は車の車種とナンバーを覚えて警察に電話するのが普通の対応だ。自分一人でどうにかしようと考えるんじゃねえぜ」
「はい…肝に銘じておきます。ところで過剰防衛の罪はどうなるんでしょうか」
「なんだ。そんなに留置所に入りたいのか」
「いや、そういう訳ではないんですが」
「ぶち込んだりしないから安心しろ。実を言うとあの誘拐犯たちは指名手配中の凶悪犯たちでな。奴らを現行犯で捕まえたという事で今回の一件は不問にしておく。とっとと帰りな」
「あ、ありがとうございます!」
タバコの火を消した司馬さんに対して俺は深々と頭を下げた。こうして取り調べは無事に終了して取調室を後にすることができたのである。
◆◇◆◇◆◇
例によってお馴染みになったパトカーによる護送によって俺はアパートにたどり着いた。すでに外の景色は夕暮れになっている。あーあ、アパートで待っているシェーラが心配しているだろうなあ。夕暮れを眺めながら黄昏ているとワンコさんが声をかけてきた。
「おい、君!」
声をかけられると思ってなかった俺は驚いて振り返った。呼びかけたのにも関わらず、ワンコさんは迷ったような表情でこちらを見ていた。何か言いたいことがあるようだが、ムッとした表情で睨んでいる。怖いと思っている見かねた司馬さんが肘でワンコさんの腕をつついた。それがきっかけになってワンコさんは意を決して話しかけてきた。
「この前はきついことばかり言ってすまなかった」
「いや、いいんですよ。壱美さんだって職務を真面目に考えるんだからあれほど厳しくなるんです。分かってますよ」
どこか諦めた表情をしているのを察することができたのだろう。ワンコさんはムッとしながらも続けた。
「謝罪は素直に受け取りなさい」
「あ、はい。すんません…」
やっぱこの人は苦手だわ。そう思っているとワンコさんは微妙な顔をした後に頭をワシワシとかいた。そして続けた。
「違う、そうじゃない。お説教をするつもりで話しかけたわけじゃないんだ」
言葉を選ぼうとしているのか。しばし彼女は考え込んだ後に切り出した。
「君の対応が遅れていれば罪のない市民が悪漢の手によって犠牲になっただろう。手段はどうあれ、君は誇れることをやったんだ。危険を顧みずに戦った君に私は敬意を表する」
そういってワンコさんは笑顔で俺に敬礼をした。この時、俺は初めて彼女の笑顔を見た気がした。年相応の女性らしい可愛らしさを持っているじゃないか。というより、目鼻立ちははっきりしているのだから普通に可愛いぞ。スーツ姿でピシッと決めているカッコいいワンコさんもいいが、こういう表情を増やした方が男性受けはいいのではないだろうか。
そんな女性に褒められた俺は照れながら敬礼を返した。そんな俺の脳内でインフィニティさんによるレベルアップ音が響き渡る。おい、このタイミングでレベルアップ告知をしてくるな。狙ってやってないか。そう思いながら俺は二人と別れてアパートに戻ったのだった。
『晴彦は誘拐犯をやっつけたことによってレベルが上がった!』
藤堂晴彦
年齢:32
Lv.2➡4
種族:人間
職業:優しさを知る豚
異界の姫の豚騎士
称号:電撃豚王
公園の怪人『豚男』
強制送還者
体力: 28/28➡36/36
魔力1258/1258➡1262/1262
筋力: 18➡24
耐久: 28➡32
器用: 10➡12
敏捷: 12➡18
智慧: 14➡17
精神: 14➡19
魔法耐性: 25➡29
ユニークスキル
〈ステータス確認〉
〈瞬眠〉
〈鑑定〉Lv.∞
〈アイテムボックス〉Lv.0
スキル
名状しがたき罵声
金切声
肥満体質【109/58】➡【108/58】
全魔法の才能
運動神経の欠落【70/65000】
人に嫌われる才能【76320/120000】
〈アダルトサイト探知〉Lv.10
【無詠唱】
【精霊王の加護】
【努力家】
【魔力集中】
【魔力限界突破】
【限界突破】
【インフィニティ魔法作成】
【電撃耐性(中)】
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