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5-2(P38)

虚数空間であるゼロスペースを使えるようになった俺は攻撃魔法の練習を行うことに決めた。魔力が1200もあるというのに、まともに使ったことのある魔法といえば不良相手に使った魔力弾とクリエイトウォーターくらいしかないからな。折角の強大な魔力を使わないのは宝の持ち腐れだ。もっと魔法を覚えたいぞ。かといって夜の公園で攻撃魔法の練習なんかやっていたら司馬さんに捕まえられるどころか殺されてしまう。そんな訳で俺は全力の魔力を使用して何ができるのかを試すべくゼロスペース内に入ることにした。


                     ◇◆◇◆◇◆

                                



深夜に入ったにも関わらず、ゼロスペース内は暗くも寒くもなかった。真っ白な空間はどこまで続いているか分からないため、攻撃魔法の練習を行うにはぴったりだ。俺は屈伸や震脚などの準備運動を終えた後に魔法を使うことにした。まずは普通に魔法を使ってみる。イメージするのはシェーラが攻撃魔法の才能の欠如を克服したときに放った爆裂火球だ。ただし、使う魔力量を決めておく必要がある。掌サイズの火球をイメージした俺の掌に魔力が集中していく。掌でうねりをあげる魔力の奔流が次第に火球へと変化していく。よしよし、上手くいったぞ。そう思ったのもつかの間、掌に生み出された火球はそのまま俺の掌にぼとりと落ちた。


「あち、あちち!!!!なんで浮いてないんだよ」

『浮かせるためには火球を制御する別の魔法が必要です』


危うく火傷しかけた俺は生み出した火球を地面に落とした。なんて厄介なんだ。火球を生み出すのにも精神集中が必要なのに一度に二つのことを考えられないぞ。


『マスター、マスター、服の袖が燃えています』

「え、何言ってるんだよ、うお!本当に燃えてやがる」


炎が燃え移っていたようだ。焦った俺はクリエイトウオーターを使用して服の袖の炎を消した。掌からちょろろろと出る水が服の袖の炎を消したのだが、おかげで袖がずぶ濡れだ。


「炎の魔法がこんなに難しいとは思わなかった」

『普通ならば頭の中で構築式をイメージしてから使用するようですが、完全にマスターはそんなことは無視してますね』

「だって構築式なんて習ってないもんな」


アニメやゲームでよく使われる魔法使いの詠唱というものには意味があるということか。まあ、そうであれば宙に浮く炎をイメージするだけだ。俺は再び精神集中を行って宙に浮く火球を生み出した。

よしよし、上手い具合に浮いている。俺は掌でフヨフヨ浮く火球を眺めて頷いた後で次のステップに移ることにした。


「よし、よし、行け!ファイヤーボール!」


実際にはファイヤーボールなどという必要はないのだが、格好をつけたかったのかもしれない。俺は渾身の力で火球を投げつけるフォームで火球を放った。


へろろろ~……。


半円を描くようにして宙を舞った火球は力なく地面にぼとりと落ちた。自分自身の投球力の無さにショックを受けている俺にインフィニティさんが追い打ちをかける。


『火球をぶつけるのにも球を飛ばすようなイメージが必要ですよ』

「そのようだね」


魔法使うの本当に難しい。結局、俺がまともに火球を使えるようになるまではかなりの時間がかかってしまった。だが、数えきれないくらいの火球を生み出しても俺の魔力は魔力切れにならなかった。魔力1000越えは伊達ではない。


「よし、次はスキルを使ってみよう」

                             

俺が使おうとしたのは【魔力限界突破】である。このスキルを使えば火球をさらに大きくできるのではないかと思ったのだ。まずはベースとなる火球を生み出した俺は【魔力限界突破】を使用した。


掌サイズだった火球は俺の魔力を吸って見る見るうちに巨大に膨れ上がっていった。その大きさは全長10mほどであろうか。明らかに洒落にならない大きさだ。熱量も半端ない。これは流石にやばいだろう。怖くなった俺は投げ捨てるように火球を放った。轟音をあげて宙を舞った火球は地面に着弾した後に大爆発を起こした。きのこ雲のような煙を上げる爆発痕を眺めながら俺はこのスキルはよほどのことがないと使ってはならないと心に誓った。




                         

                      ◇◆◇◆◇◆





ゼロスペースでの魔法訓練から数日が過ぎた。あれ以来、怖いので【魔力限界突破】は使用していない。何もない虚数空間であの大爆破だ。建物が込み入った街中で使えばテロと認定されかけない。そんな訳で攻撃魔法の訓練は当分控えて減量に励むことにした。単に減量を行うだけでなく、ウォーキングを行えば鈍足スキルを克服するための経験値も稼げるのだが、実際のところ、あとどのくらい歩けば克服できるかは分からなかった。そのため、俺はメニュー画面を開いて残りの経験値がどのくらいなのか確認することにした。


「インフィニティ、あとどのくらいで鈍足スキルを克服できるかを知りたい。体重と鈍足だけの表示でいいからステータスを表示してくれ。」

『了解しました。』


俺の指示に従ってインフィニティさんがメニュー画面を開いてくれる。そこにはこう書かれていた。


藤堂晴彦

肥満体質【109/58】

鈍足 【417265/420000】


うおおおおおおっ!!ついに克服できそうではないか。部屋の中で無言でガッツポーズをする俺の異様な雰囲気に側で雑誌を見ていたシェーラが気づいてビクリと肩を震わせた。俺は気まずくなりながら愛想笑いを浮かべた。


「ごめん、驚かせてしまったかな」

「いえ、私は大丈夫なんですが」


貴方は大丈夫ですか。何となくそう言われそうな気がして俺は逃げるようにしてウォーキングに出かけた。外に出てから恥ずかしさが込み上げてきた。興奮のあまりに自分の部屋の中にいたのを忘れてしまった。これからは周囲の目を気にするように気をつけよう。

しかし興奮してしまうのも許してほしい。前回克服した【魔法の才能の欠如】の時のように【鈍足】を克服すれば強力な運動系のスキルを獲得できる可能性が高いのだ。地球はファンタジー世界と違って人間を襲うンスターは現れない。だが、いずれはシェーラを伴って異世界に戻ることを考えると少しでも強い能力を獲得しておいたほうがいい。そんな訳で俺は気合を入れて第一歩を踏み出した後に歩き始めた。




                  ◆◇◆◇◆◇        




目標が明確であると気合も入るというものだ。いつもより足取りが軽い気がする。努力家による経験値の2倍補正があることを考えると鈍足スキルを克服するのに必要なのは約1300歩である。インフィニティさんの計算によるとおおよそ500メートルくらいだという。1kmいかないのかよ。余裕じゃねえか。そう思いながらスキップしながら歩く俺を道行く人々が気の毒そうにこちらを見る。おそらく陽気のせいで頭のネジが飛んでしまったように思われてしまったようだ。冷静に考えれば体重100kg近くの巨漢がスキップして歩いていたら怖いわな。自分がどう見られているかを冷静に省みて赤面した俺は自重して歩くことにした。

昼間という事もあり、帰宅途中である女子高生達や小学生とすれ違ったりもしたが、以前より人の目は気にならなくなっていた。デブが汗だくになって歩くのが面白いのか、指を指してクスクス笑うものもいるが、笑いたければ笑え。そんな風に思えるようになったのだから俺もメンタルが強くなったものだ。

堂々と歩いていると少し先にこちらへ歩いてくる一人の女子高生の姿を見かけた。俺の苦手なギャル系の化粧をしたケバイ女の子だった。ただでさえ苦手な人種だ。それだけでも拒否反応を起こすのに、さらに駄目なことに歩きスマホをしながら近づいてくるではないか。まずい。このままではぶつかるぞ。案の定こちらが避けようとする前に彼女は俺にぶつかってきた。ぶつかっては来たものの、100kgを超える俺の巨漢は小柄な女の子程度ではびくともしなかった。動かぬ壁にぶつかったような形で女の子は突き飛ばされた。


「いたっ!どこみて歩いてんのよ、このデブ!」


酷い言い草にムッとなってしまった。そっちからぶつかってきたんじゃないか。文句の一つも言いたかったが、こういう場合に何と言っていいか言葉が出てこなかった。こういう時にとっさに言葉が出てくる人間が羨ましい。

ふと足元を見てみると彼女のものと思われるスマホをが落ちていたので拾ってあげると彼女は俺を睨みつけながら引っ手繰るようにスマホを奪い取った。こいつ、礼も言わないのかよ。親からどういう教育受けてんだ。怒りを通り越して唖然となってしまった。

女子高生は俺を暫く睨みつけた後に「マジであり得ない」と捨て台詞を吐いて去っていった。

何だよ、あいつ。マジであり得ないはこちらのセリフだ。それまでのいい気分が最悪の気分に変わった俺は肩を怒らせながら立ち去ろうとした。


その時だった。俺の背後から異様な魔力の気配がして俺は振り返った。気配は背後のワンボックスカーから発せられたものだった。この魔力は一体なんなんだ。俺が見ているとワンボックスカーから降りた数人の男たちが白昼堂々と先ほどの女子高生に絡んでいた。ナンパか。それにしては女の子の方が嫌がっているが。そう思っている間に男たちは車の中に女の子を引きずり込んでいった。


なんということだろうか。誘拐現場を目撃してしまった。


衝撃的すぎる光景を目にしたのだが、おかしなことに女の子が拉致されたことに通行人たちは気づいていないようだった。どういうことだよ、目の前で誘拐が起きてるんだぞ。普通、悲鳴位上げるだろ。何を笑っているんだよ。焦る俺にインフィニティが話しかけてくる。


『マスタ―。あのワンボックスカーの周囲に人払いの結界と無音化の魔術がかけられているようです。恐らく通行人たちが気づかなかったのはその影響かと思われます』


白昼堂々と少女を拉致したワンボックスカーはそのまま走り出した。追いかけるべきか一瞬だけ俺は躊躇った。助けたところで憎まれ口を叩かれるだけのような気がしたが、このまま見捨てる方が後味が悪いと感じた俺はワンボックスカーを追いかけて走り始めた。



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