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その日の深夜、シェーラが寝静まった頃を見計らって俺は起き上がった。向かう先はバスルームである。俺の身を心配してくれるシェーラには悪いが、MPを増やす手段が分かった以上は試さずにはいられない。数値が具体化されるとステータス上昇を目指してしまうのはゲーマーとしてのサガなのだろう。俺はバスルームの扉を閉め切ると手に意識を集中し始めた。体内の魔力が掌に集中し始める。水に変化した魔力は徐々に掌から溢れ出していく。使用魔力の制限なしに水が流れていくため、排水溝があふれ出さないように水の勢いに注意だけしながら掌から水を流し続けた。
倒れるような真似をしておいて反省していないのかと思う人もいるとは思う。だが、こんな無謀なことをするのには理由があるのだ。
10分程度は水を流し続けただろうか。魔力切れによる寒気と気持ち悪さを感じ始めた後に唐突に意識が薄れた。魔力切れが起きたのだ。
『マスターの意識が消失。瞬眠スキルによる残留魔力量の回復を確認。これよりスリープモードからの復帰を開始します。』
インフィニティが宣言した瞬間に俺の体内に微電流が流される。俺の意識を呼び戻すための気つけだ。だがその威力は想定されていたものを大きく上回るものだった。
「しびびびびびびっ!!!!」
予想以上の電圧にびっくりして俺は跳ね起きた。殺す気か。起きるどころか永眠するところだったぞ。あまりの威力にステータスを見てみたら半分以上のHPが減っていた。ちょっとした攻撃魔法くらいの威力があったということか。げんなりしながらインフィニティを注意した。
「インフィニティ。頼むからもう少し電圧を下げてくれ」
『失礼しました。次回からはもっと上手くやります』
どこまで反省しているやら怪しいものだ。事務的なインフィニティの口調に苦笑しながら俺は作業を再開した。俺とインフィニティが行っているのは魔力量の底上げ作業だ。限界まで魔力を消費すれば微量ながら魔力は上がる。常人であれば数日かかる魔力の回復も【瞬眠】があれば一瞬で回復する。後は電気ショックで気つけを行い、再び限界まで魔力を使用する作業を繰り返すだけである。電気ショックによるダメージが思ったよりもあったのが計算外だったが、想定の範囲内だ。
俺は再び作業を再開することにした。だが、前回の反省を踏まえて改善する点があった。ただ単に水魔法で魔力を使用するだけでは時間が掛かるのである。10分で3しか魔力が上がらないとなると時間効率を考えるとあまりに実入りが少ない。
インフィニティと共に思案した後にアプローチを変えてみることにした。単に水魔法を使うのではなく、魔力を凝縮させて生成する水の質を上げるのである。鑑定スキルが言うには単に水を発生させるのでなく回復作用のある水を発生させれば使用される魔力量も跳ね上がるということだった。
頭の中で回復作用のある水をイメージして魔力を練り上げる。しかし今度は全く水が出てこない。代わりに魔力が際限なく吸い上げられていく。やばい、これあかん奴だ。俺の全魔力を吸い取って出てきたのは青白く透き通る水が一滴のみだった。それが床に落ちると同時に俺は意識を失った。
『マスターの意識が消失。以下略』
そう言ってインフィニティさんの微電流が俺の身体を貫通する。刺すような短い痛みの中で体をのけぞらせながら俺は跳ね起きた。さっきよりも鮮明な痛みを覚えた気がする。
「今さ、凄い雑な起こし方しなかったか」
『いいえ、気のせいでしょう』
何か納得しないなあ。あまりの威力に髪の毛がアフロになってないか心配になってくるくらいだ。ただでさえ太っているのにこれ以上おかしな特徴がついてたまるか。そう思いながら俺は朝方まで作業を行った。
◆◇◆◇◆◇
遠くの方から朝を告げる雀の鳴き声が聞こえてくる。俺は目にクマを作りながら引きつり笑いを浮かべた。ヤバイ、調子に乗ってやり過ぎた。夜通し訓練をやってみて分かったことは【瞬眠】スキルは体力と回復は回復するものの、眠気や精神的な疲労まで回復しないという事だった。
とにかく眠い。その場に倒れそうになる俺にインフィニティさんが語り掛ける。
『本日のトレーニング結果を報告します。魔力15/15➡魔力195/195にアップ。電気耐性(中)を習得。副産物としてハイポーション×5を生成。なお、生成されたハイポーションは自動的にアイテムボックスの中に入れておきます』
「ああ、よろしく頼むよ」
そのまま床に伏して寝ようとする俺に対してインフィニティが警告する。
『風呂場でこのまま寝るのはお勧めしません。シェーラに見つかった時にまたお説教になりますよ』
そうだね。ちゃんと寝床に戻ることにするよ。俺はふらつく頭で寝室に戻った。布団の中に入った瞬間に疲労のせいもあってか、俺は直ぐに眠りについた。