第22話-14
空中要塞の一件から数日が過ぎていた。ケスラの襲撃以降、帝国は全く目立った動きを見せなかった。全く動きを見せないのが逆に不気味であったので、帝国の国境付近には軍勢がいつ来てもいいように斥候を置き、何らかの動きがあった時にはすぐに報告するように指示を出している。
シュタリオン国内の動きにも変化があった。空中要塞が攻めてきたことによって以前よりも志願兵の数が増えたのである。その中にはシュタリオン国に元々住む人たちだけでなく、他国から逃げてきて居住区に住むようになった元難民たちの姿もあった。空から敵が攻めてきたことによって安全な場所などどこにもなく、自分たちを脅かす危機からの自衛の意識が高まってきたようなのだ。
軍勢の統括を行っているアルフレッドとブタノ助は嬉しい悲鳴をあげていた。軍事訓練などはあいつらに任せておけば間違いがないだろう。
志願兵をブタノ助たちに任せた後、俺はあるものを回収するために墜落した空中要塞に来ていた。平原の中心に墜落した空中要塞はあらためて見てもとてつもなく大きかった。至る所で地形が変わって抉れている大地が戦いの激しさを物語っていた。V字型に折れ曲がって墜落している空中要塞を見上げながら俺は溜息をついた。
「こうして見ると本当に大きいよな」
『大都市をすっぽりと覆えるくらいの大きさですね。作られた年代も千年や二千年前程度ではないようです』
「そんなに古いのかよ」
もしかして超重要な古代遺跡をぶっ壊してしまったのではないだろうか。若干後悔しながらも、今更のことだと割り切るようにした。気持ちを切り替えて俺はインフィニティのナビに従って目的地である動力室に向かっていった。
動力室に向かう目的は一つ。空中要塞の動力源を取り出して軍事利用できないかと考えたからだ。インフィニティの鑑定結果によれば空中要塞ほどの質量を浮遊させる動力となれば強大な魔力を秘めている可能性が高いということである。地表部にある入口から中に入り込んでいくと周囲の光景は全く違うものに変わっていった。岩肌の洞窟が次第に金属の壁で四方を囲んだ通路に変わっていったのである。中は薄暗かったが、何気なく手で触れると触れた箇所を中心に幾何学模様の光が広がって周囲を照らし出していった。周囲を眺めながら奥へと進んでいくと行き止まりになっていた。
「行き止まりじゃないか」
『おかしいですね。確かにこの先に空間があるはずなんですが』
インフィニティのことだからナビゲーションがバグったのだろうか。首を傾げながらも近づくと行き止まりに見えていた壁が自動ドアのように開いた。開いた壁の先は足の踏み場がないほど複雑な機械や配線が立ち並んだ部屋になっていた。ファンタジー世界から一転してSFの世界に迷い込んだ俺は困惑しながらも周囲を見渡した。
「前から思っていたことだけどさ、この世界の古代文明って技術レベルが高すぎないか」
『以前襲ってきた帝国のロボット兵達もそうでしたね。マスターのおっしゃる通り、現代地球の技術を上回る水準の文明が作られていたと考えられます』
「過去の風景を再現するサイコメトリングで古代の風景を見ることができないか」
『やってみましょうか』
インフィニティがそう言った瞬間に周囲の風景が切り替わっていった。だが、ある一定のところまで遡るとノイズが走った後に画像が歪んで元の光景に戻ってしまった。
『駄目ですね。強大な力によって過去の風景を見ることができなくなっています』
「何かが邪魔しているということか」
どういうことだ。古代の風景を見れないように何者かが邪魔をしている。そういうことだろうか。困惑しながらも、その場ではこれ以上の情報は得られないとあきらめた俺は部屋の中を物色することに気持ちを切り替えた。
部屋の中は複雑な機械が並んでいるものの、どのような用途で使われているかはさっぱり分からなかったのでインフィニティに片っ端から鑑定と分析を行わせた。結果として分かったのは部屋の中央に浮かんでいる巨大な水晶が空中要塞の動力源であるという事だった。
「この遺跡、修理すれば動かすことはできるか」
『可能ではあると思いますが、お時間を頂けるとありがたいですね』
「分かった。お前に任せるよ」
俺はそう言って遺跡全体を覆うような大きさのブラックウインドウを発動させた。ブラックウインドウはそこに潜らせた無機物や生き物をアイテムボックスに移動させるという能力だ。生き物の場合は魔力などで抵抗される場合もあるので生き物に対する使い勝手はいまいちだが、持ち主が居なくなった無機物に対しては非常に便利な効果を持つ。一瞬にして空中要塞は消えて俺のアイテムボックスの中に収納された。あとに残ったのは先日の戦いの激しさを物語る地表の抉れやクレーターなどが残るだけである。
その場でやることがなくなった俺は魔法で空中に浮かんだ後に指笛で神馬を呼んで跨った後にシュタリオンに戻ることにした。




