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第22話-11

 帝国宰相ケスラは天才であった。帝国でも有数の貴族の子息として生まれた彼は幼い頃から他の人間よりも知識に対して貪欲であった。知識に渇望した彼はバルバトス帝国が所有する禁断の書庫に封じられた知識を求めた。書庫に近づくためには帝国の上層部に入り込む必要がある。そう思った彼は軍の士官学校に入学するとその頭脳で頭角を現していった。

 士官学校を首席で卒業した彼は次第に時の皇帝の信頼を得て宰相という立場を得た。

 それからは彼の暴走は始まった。宰相という立場を利用して国庫の中でも封印されていた知識や古の魔科学を習得していったのである。本来ならば咎められるはずの所業であったが、皇帝が黙認したというのもケスラを増長させていった。

 禁断の知識を得ただけではなく、それを使うことに彼は躊躇わなかった。自分が習得した魔科学を使って人体実験を繰り返して人間を魔族へと変えることに成功したのである。無論、その陰には数えきれないほどの犠牲があったわけであるが、彼には一切の良心の呵責がなかったのである。


 人を殺して心が痛むという感情が彼には欠落していたのである。


 縛り付けられた体を憎々し気に見つめながらケスラは自問した。一体どこで自分は間違えたというのか。発見した空中要塞でシュタリオンを攻撃すると告げた時に反論してきた穏健派をまとめて黙らせた時か、それとも藤堂晴彦が加わったことによって急激に力を付けていったシュタリオンを早急に滅ぼさなかったことか。それとも藤堂晴彦が召喚された時に始末できなかった時か。

結論から言えば彼にとって一番の間違いは異世界人である藤堂晴彦が肥満体であった時の印象で決めつけて侮っていたことである。だが、そのことを彼は認めたくはなかった。

藤堂晴彦を警戒するべき脅威であり、万全の対策を持って臨むべきであると認めることは彼のプライドが許さなかったのである。

超常的な力を持っていても圧倒的な力を持った古代兵器と黒い勇者の力があれば蹂躙できると思い込んだのである。

結果として彼は負けた。藤堂晴彦と彼の仲間、そして彼らが率いるシュタリオン国の兵士たちに。小国であるシュタリオンに大国であるバルバトス帝国の宰相である自分が負けたことを皇帝は決して許すまい。傲慢が人の皮を被ったこの男には珍しく、ケスラは現在の状況を反省していた。

彼を閉じ込めているのは藤堂晴彦の鑑定スキルの化身であるインフィニティが作り出した特製の牢獄である。魔法やスキルを封じる特殊な結界を施された牢獄の中では例え魔法の力に優れたケスラであっても容易に脱出することはできない。目の前の鉄格子を恨めしく眺めては見るものの、両手両足を鎖で壁に縛り付けられている状態では身動きができない。遠くの方で聞こえてくるの何者かの悲鳴を聞いてケスラは顔をしかめた。





                     ◇◆◇◆◇             





 遠くから聞こえる悲鳴にケスラが顔をしかめている頃、俺は遠視の水晶球で奴の様子を観察していた。

異世界に勇者として召喚された時はこいつに殺されかけたわけだが、こいつを捕えられるようになるとはあの頃は想像もできなかった。そう考えると感慨深いものがあるな。

 正直なところ、あの頃とは立場が正反対になっているわけだ。だが、俺は奴が俺にしたように簡単に殺そうとは思っていない。そんなことをすれば奴と同レベルになってしまうからだ。かといって帝国の宰相として沢山の人間や獣人を傷つけてきた奴を許すつもりはない。

 実のところ、俺は奴をどう扱うべきか迷っていた。そんな俺に話しかけてきたのはインフィニティであった。


「マスター、何を躊躇う事があるのですか。さっさと首を刎ねて畑の肥やしにしてしまいましょう」

「さらりと恐ろしいことを言うなよ。絶対にダメだからな」


 俺が止めないと平気で実行しそうで怖いんだよな。こいつ。インフィニティは俺の許しが得られなかったことに口を尖らせていたが、俺が処罰を考えない限りは我慢ができなくなっておかしな処刑を行うに違いない。


「参考程度に処刑以外に厳罰って何が思い浮かぶ」

「そうですね。まずは両手足を牛に引っ張らせてですね」

「それって牛裂きじゃねーか!手足がちぎれる奴だろう。処刑以外って言ってるだろう」

「分かりました。では真面目に考えましょう。谷底に地獄の炎を召喚します」

「いきなり不穏だな。一応聞こうか。それからどうするんだ」

「谷の両端に油を塗った銅製の丸太を橋として渡します。そしてその上にケスラを渡らせます。無事に渡り切れれば無罪放免です」

「それ、油で滑る奴だよね。絶対に渡れないやつだよね。ていうか処刑じゃねえか」


 確か炮烙の刑と言ったか。古代中国の処刑方法だったと思う。どこから拾ってきた知識なのか、えげつないことを思いつくものだ。聞いているだけで気分が悪くなってきた俺はこれからケスラがどういう目に遭うのか気の毒になってきた。



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