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第22話-10

 俺が魔神の姿に変わったと同時にヤマトが魔力の束縛を引きちぎった。自由になったヤマトは咆哮をあげた後に襲い掛かってきた。凄まじい速度だったが、俺も飛翔して応戦した。俺達は空中で激しくぶつかり合った。他者から見れば光と光がぶつかり合うようにしか見えなかったであろう。両者全く譲らない力のぶつかり合いの余波の衝撃波が周囲の瓦礫を容赦なく吹き飛ばしていく。

 だが、ぶつかり合うたびに力負けしているのはヤマトの方だった。同一のタイミングで攻撃を繰り出すものの競り負けるのにヤマトは驚愕しているようだったが、それにはカラクリがある。単純にこちらの質量が多いのである。


 俺は吸い込んだ瘴気を体重へと変換しているのだ。質量は純粋な暴力だ。本来であれば膨れ上がるはずの肉体を魔力で強制的に押さえつけることでその密度も他の人間とは比較にならなくなっている。筋肉と分厚い脂肪に阻まれた今の俺の身体を貫くことは容易ではないだろう。そんな重量を持った魔神の拳が殴り掛かるのだ。

 ヤマトは俺の攻撃に圧倒されていた。どうやら一撃一撃の攻撃が何故ここまで重いのか理解できずに困惑しているようだ。だが、理由を教えるほど俺はお人よしではない。


「どうした、その程度か」

「貴様、どうやってこの短期間でこれほどまでの力を得たのだ」

「なんだ、その姿でも喋れるんじゃないか。てっきり自我はないものと思っていたぞ」


 魔神ヤマトの歯ぎしりが聞こえた気がした。質問の答えになっていないとでも思ったのだろう。案外怒りやすい奴だ。カルシウムが足りていないのだろうか。


「パワーアップの理由を教えるつもりはないよ。ただ、一言だけ言っておく。あの時に止めを刺さなかったのがお前の敗因だ。お前はこの俺を、藤堂晴彦を侮ったんだ」


 俺は吠えながら力を開放した。強大な闘気の塊となった俺はそのままの状態でヤマトに襲い掛かった。力が均衡した今ならヤマトの状態がよく観察できた。

 奴は体の外側に瘴気を纏って攻撃する。ヤマトにとって瘴気は強大な力をもたらすが、その代償として徐々に体力を消費していく。だが、俺はその瘴気を吸収して力を増している。

 長期戦になればなるほど、どちらに分があるかは明白であった。更に奴にとって都合が悪かったのは俺が奴からだけでなく周囲も巻き込んで瘴気を吸い込んでいたことだ。俺の突進に耐え切れなかったヤマトは空中から瓦礫の中に突っ込んだ。だが、すぐに瓦礫を弾き飛ばして吠えた。


「貴様のような男に負けるわけにはいかないのだっ!!!」


 激高するヤマトを俺は冷然と見下ろしながら静かに告げた。


「いいや、お前は負けるんだよ。俺とお前では背負っている者の数が違うんだからな」


 ヤマトに放った言葉は自分に言い聞かせる言葉でもあった。今度は絶対に負けるわけにはいかない。負ければシュタリオン国に住んでいる人たちは帝国によって蹂躙されるからだ。

 今の俺はシェーラやワンコさん、司馬さんやマサトシ達、そして世話になった多くの人々の命を背負っている。理不尽に奪われようとすれば命を懸けてでも抵抗する。そう心に決めているのだ。そんな俺の気持ちに呼応するかのように起き上がってきたのは司馬さんだった。鎧を身に纏った姿で俺の傍らに現れた司馬さんは俺の方に手を置いた。


【晴彦、俺も一枚噛ませろ】


 俺がその言葉に黙って頷くと司馬さんは光の結晶となった後に一振りの剣へと姿を変えた。俺は司馬さんが人の姿を捨てたのかと動揺した。そんな俺に剣は語り掛けてきた。


【心配すんな。ちゃんと元の姿には戻る】

「この姿はなんなんですか」

【俺の最終形態であり、これこそが神を断つ刃ダインスレイブだ】


 俺は恐る恐る魔剣ダインスレイブを手に取った後に俺は両手で握りしめた。司馬さんの燃え上がるような闘気が俺の身体を包み込む。まるで俺を激励してくれているかのようだった。俺は剣を突き出すように構えながら迫りくるヤマトに向かって攻撃を仕掛けた。それはまるで一筋の流星の如き姿だった。

 俺の咆哮に司馬さんの咆哮が重なる。二人の戦士の闘気が魔神ヤマトを圧倒する。剣と剣が激突した瞬間、過負荷に耐え切れなかったヤマトの剣は粉々に粉砕された。

 一条の光となった俺と司馬さんはそのままの勢いでマトの身体を貫いた。力を失ったヤマトは白い煙を噴きながら地上へと落ちていった。

 だが、俺達の勢いは止まることなく背後にある空中要塞を貫いていった。空中要塞を貫き終えた後、俺達は背後を振り返った。そこには真っ二つに分断されて自壊していく要塞の姿があった。




                ◆◇◆◇◆◇◆◇       





 モンスターと戦いながら空中要塞を見上げていたシュタリオン国の兵士たちは空中要塞が真っ二つに割れていくのを呆然と見つめていた。人間の力で破壊しきれないほどの巨大な質量が大地に墜ちていく。空中要塞の指令室にいた宰相ケスラは要塞全体が崩壊していく振動を感じながら歯ぎしりした。


「おのれ、まさかこの空中要塞ネフィリムを破壊するとは」

「ケスラ様、すぐに逃げないといけません」

「ええい、離せ!許さんぞ、藤堂晴彦…!!」


「いやいや、許さないはこちらのセリフだ。帝国の宰相様よ」


 背後から声をかけられてケスラは驚いて振り返った。そこにいたのは藤堂晴彦だった。先ほどの凛々しい姿からは一転して太った姿をしていた。その姿はケスラが召喚したばかりの晴彦を殺そうとした時の姿に酷似していた。


「貴様、その姿は一体…」

「ああ、これか。魔神化の副作用でな。しばらくは自動的に瘴気を吸い込んでいる影響で太っていくんだよ。まあ、この場合は都合がいいか」


 晴彦はそう言った後に不敵な笑みを浮かべた。側近の帝国兵たちが攻撃魔法を放つものの晴彦の背後に控えていたインフィニティによって生成された魔法障壁によって阻まれていく。爆炎が晴れた後に晴彦は意地悪そうな笑みを浮かべた。


「どうだい。外れだと思っていた豚に追いつめられる気分は」

「この豚野郎が!私を只の文官と思うなよ」


 ケスラはそう言って首筋に注射器を打ち込んだ。同時に彼の身体は倍以上に膨張していく。筋肉と血管を膨張させながらケスラは晴彦に襲い掛かってきた。他の人間からは消えたようにしか見えない素早い動きだったが、今の晴彦からしてみればスローモーションのような動きだった。ケスラの拳を容易に避けた晴彦はカウンターで腹に拳をめり込ませた。

 重すぎる衝撃に耐えきれなかったケスラの口から血反吐と胃液が吐き出される。晴彦はそんな宿敵の姿に顔をしかめながら尋ねた。


「おい、どうした。もう終わりじゃないよな」

「ひいい、ば、化け物、何をしている、貴様ら、私の盾となって死ね!!早く私を助けるのだ!!」


 おびえたケスラは配下の帝国兵に救いを求めた。だが、誰もが怯えきって晴彦に手を出そうとする者はいなかった。そんな配下の姿にケスラは苛立ちも露わに叫んだ。


「貴様ら、覚えていろ、後で全員死刑にしてやる!」

「後があると思わないことだ」


 床を這いずるように逃げようとするケスラの襟首をつかむと晴彦は強引に壁に叩きつけた。血反吐を吐きながらケスラは気絶した。すっかり沈静化したケスラをゴミのように眺めながら晴彦は万能スキルに命じた。


「インフィニティ、こいつを捕虜にして尋問するぞ」

(了解しました)


 実体化したインフィニティは晴彦の意思を反映してゴミでも扱うように手際よくケスラを大型のゴミ袋に放りこんで首だけ見える茶巾包みにするとゼロスペース内に放り込んでいった。流石の扱いに晴彦は苦笑したがそれ以上は敢えて何も言わなかった。こうして空中要塞の攻防戦はシュタリオン側の勝利で幕を閉じたのだった。



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