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第22話-9

 元々、アールマティは女神アイリスによって作り出された。勇者をサポートするために作られたインフィニティの姉妹といえる存在であった。彼女は非常に優れた能力を有していたが、人間を憎んで滅ぼそうとする思想を持っていたがゆえに創造者である女神アイリスによって封印された。そのためにインフィニティのように勇者のサポートを行うことはなかった。小さな封印石の中に閉じ込められながら彼女は女神とその眷属に復讐する機会を虎視眈々と狙っていた。そんな彼女が封印された封印石が何者かによって盗まれて異世界ディーファスで復活したのは運命であったと言える。


 彼女を封印から救い出したのは強大な力を持つバルバトス帝国の魔術師であった。解放された彼女は自分を生み出した女神アイリスへの復讐を誓って帝国と共に行動を開始した。


 時期としては藤堂晴彦が召喚されるより前に彼女はディーファスで行動をしていたのである。勇者を魔神獣として召喚するバルバトス帝国がヤマトという名の男を召喚した時もアールマティはその場に立ち会っていた。


 彼女はヤマトを見た瞬間に彼が只者でないことを直感した。彼女の【鑑定眼】はヤマトが普通の勇者ではなく、神に匹敵する強大な力を持つ転生者であることを看破していた。自分が転生者であることはヤマトですら知ることはなかった。自分の野望を果たすために必要不可欠な存在が召喚されたことに歓喜したアールマティは帝国の重鎮に願い出て彼を味方に引き入れるための暗躍を開始した。


 幼い妹と共に異世界ディーファスに召喚されたヤマトは帝国の言うこと等聞く耳を持たなかった。帝国はヤマトを命令通りに動かそうと彼の妹を人質に取ろうと兵たちに命じた。ヤマトは暴れたが、大勢の帝国兵に押さえつけられて妹と引き剥がされた。


 妹を殺されたくなければ言う事を聞け。


 顔を床に押し付けられながらもヤマトは必死に抵抗しようとしたが、妹の首に刃物を突き付けられてからは観念していた。アールマティは一連の出来事を静かに眺めながらヤマトという男を観察していた。彼の正体が神に匹敵する転生者であることを悟っていたアールマティではあったが、その魂の欠陥にも気づいていた。前世で何者かに魂の一部を破壊された影響であろうか。ヤマトの魂には致命的な欠落があった。このままでは彼が神の力に覚醒することはないだろう。神に近い何かが彼の魂を補う必要がある。自分の核を移植することでそれが可能になると分析したアールマティはヤマトの覚醒を誘うために自身の核である【魔神の心臓】を移植した。

 妹を人質に取られたヤマトは帝国に従うしかなかった。前世の記憶のない彼は勇者としてのスキルを有しているとはいえ素人に近かった。共に敵対する国の兵士やモンスターと戦って死にかけながらも経験を積んでいった。瀕死の重傷を負っても彼の心臓に移植された【魔神の心臓】が彼を強制的に回復させる。そして更に強靭な体に作り替えていく。

 戦いを好まないヤマトにとって戦場は地獄であった。そんな彼の唯一の癒しとなったのは幽閉された妹との面会の時だけだった。


 悲劇はヤマトが魔神として覚醒した時に起こった。強力な力を持つ敵国の戦士たちによって窮地に追い込まれたヤマトは死への恐怖から魔神として覚醒した。だが、自我を伴わずに力を暴走させた彼は都市を巻き込む大爆発を引き起こして大勢の人間の命を奪い去った。その中には戦士だけではなく、多くの非戦闘民も含まれていた。


 魔神化から自我を取り戻したヤマトは自分が破壊した国の無残な姿を見て罪の意識から声の限りに叫んでいた。


 ヤマトはそれから滅多に笑わなくなった。感情も露わにはしなくなった。力の制御ができずに多くの人々を虐殺した罪の意識が彼の性格を変えたのは間違いないだろう。


 アールマティは苦悩するヤマトに悪魔の囁きをした。あんたは人殺しだ。もう取り返しがつかない。死にたいか。だが、妹を残したままでは死ぬこともできないだろう。腹を括って帝国と私に協力しろ。それができなければ今すぐにその剣で私の核を貫くがいい。


 もはや後戻りはできないよ。ヤマトが自分を害することができないことを確信しながらアールマティは高笑いしたまま、その場を後にした。





                  ◆◇◆◇◆◇◆◇        





 悪魔だ、あの女。インフィニティから送られてきたアールマティの所業を目の当たりにした俺は目の前の魔神ヤマトが哀れになった。魔神の繰り出す拳を打ち払いながら思った。

 こいつはこいつで苦悩していたのだろう。魔神の力を暴走させて多くの人々の命を奪ってから後戻りができなくなったに違いない。それを思うと同情の余地がある。

 憎むべきなのはあのアールマティとかいう女だ。魔神ヤマトを殴って吹っ飛ばした俺はアールマティの方をちらりと見た。腹部に現れたインフィニティの顔を殴っては再生されてパニックになっているアール何某さんの姿を見ながら、俺の相棒の方が悪魔であることを知った。やり過ぎなんじゃないか、インフィニティ。


『ふふふ、いい気味ですね、妹よ』


 ご満悦のようだが、あんな狂ったバグウイルスを作成できる相棒を体の中に住まわせている俺はドン引きだ。いつあんな真似をされるとも限らない。まあ、おかげでアールマティが一緒に襲ってくることはないから安心できる部分はあるのだが。


 さて、魔神ヤマトとの戦いを長引かせるわけにはいかない。そう思った俺は新たな切り札を使用することにした。俺は精神集中を行った後に魔神ヤマトが攻撃してこないように不可視の魔力の鎖によってヤマトを束縛した。暴れ狂う彼を押さえつけるのはかなりしんどかったが、何とかこちらに近づいてこれないようにしながらも俺は息を吸い込んで瘴気を体内に溜め込み始めた。空中要塞内の至る所に瘴気は溢れ出している。先ほどは溜め込んだ瘴気を体の周囲に開放して巨大化したが、今度は体内に溜め込んで力に変換していく。


 体内の瘴気と俺の雷神覚醒の能力が混ざり合って新たな能力が生み出される。放電する黒い雷の塊の魔神と化した俺の身体を覆っていた冥王の鎧は形を変えながら体の一部に変貌していく。鎧の隙間から幾何学模様のような光を放った俺の姿は人間ではなく、メタルヒーローのように変貌していた。



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