第22話-4
リミッターの外れたアリスの攻撃は容赦というものがなかった。マサトシ達はアリスを傷つけてはならないという意識で戦っている。だが、マサトシ達を敵と認識しているアリスは憎しみをぶつけるかのように攻撃を行っている。それは戦闘における決定的な戦力差となって表れた。爆発的な闘気の奔流によって吹き飛ばされたカミラに向けてアリスは容赦なく闘気弾の連続掃射を行った。速射型の大砲のごとき威力であった。
体勢を崩したせいで避けられずに直撃を食らいかけたカミラを庇ったのはマサトシだった。マサトシは神弓の能力を発動させてアリスの攻撃を真正面から受け止め続けた。元々が攻撃用に作られている神弓の防御能力は完璧ではなく、防御壁に徐々に亀裂が入っていく。だが、マサトシは怯むことなくカミラを庇い続けた。
そんなマサトシの防御壁に向かってアリスは容赦なく攻撃を加えた。一撃が防御壁を破ると後は怒涛の勢いの闘気弾がマサトシの身体を直撃していった後に大爆発を起こした。
爆炎が晴れてカミラは言葉を失った。眼前にボロボロになったマサトシが立っていたからだ。かろうじて意識はあるものの、すでに戦闘不能の状態であることは間違いない。立っているのがやっとだったのだろう。ふらついて倒れたマサトシをカミラが慌てて受け止める。
「馬鹿!なんであんたがアタシをかばうのよ」
マサトシは血まみれになったまま無言で弱々しい笑みを浮かべるばかりである。
そんなことを聞くなよ、ばか。
朦朧とする意識の中でそう呟いたのだが、声にならないほどの呟きであったためにカミラに届くことはなかった。カミラにとっては予想外の行動であったが、彼女のことを好きなマサトシにしてみれば当たり前の行動であった。好きな女のためならば命を懸ける。それはマサトシの尊敬する藤堂晴彦の教えでもあったからだ。朦朧としながらもカミラが無事であったことを確認し終えたマサトシはそのまま意識を失った。
「馬鹿、強くもないのにカッコつけて…」
憎まれ口を叩きながらもカミラはマサトシの髪を愛おしそうに撫でた。敵を葬ることができなかったアリスは追撃のために突進してきたが、カミラは大地を薙ぎ払うかのような炎の壁でアリスを牽制した。
「感傷に浸る暇くらい与えなさいよ」
カミラの言葉にアリスは反応していなかった。炎の壁に遮られた状態でもその壁を超えようと何らかの手段を試みているのが壁の向こうから垣間見えた。やらせるものかよ。
仮面の下から怒りに燃える瞳を光らせながらカミラはそれぞれの手に燃え盛る焔を出現させた。そしてその炎をジェット噴射のように噴出させると炎の壁を潜り抜けてアリス目掛けて飛翔していった。本来は近接攻撃を嫌うはずの彼女が肉弾戦を仕掛けた理由はただ一つ。
カミラはアリスに対してブチ切れていたのだ。
「この馬鹿っ!いつまで操られてんのよ!!」
駆け引きなどまるで考えていなかった。カミラの頭の中にあったのはこの単純バカに一撃を食らわせる。ただそれだけだった。アリスに接敵したカミラは炎を纏った拳をアリスの顔面目掛けて放った。反射的に炎の拳を躱したアリスがカウンターで放った攻撃で亀裂の入っていたカミラの仮面が完全に破壊される。
仮面の下から現れたのはアリスにとって死んだはずのリノだった。
「あたしが死んだのはあんたのせいじゃないでしょうが!!あたしはここにいる!とっとと目を覚ませ!!」
惚けるアリスにリノは渾身の力で頭突きを食らわせた。
「くうっ!!この石頭…」
攻撃をした方がダメージを食らうとはどういうことだ。涙目になりながらもリノは頭を振った。アリスはすでに攻撃を食わせる意思はなかった。自分のせいで死んだはずの人間が姿を現したことによって彼女にかけられていた幻術は完全に解けていた。リノの顔をまじまじと見た後に瞳を潤ませたかと思うと見る見るうちに涙が目じりに溜まり始める。
これから起こることを予想したカミラが顔をひきつらせたが、構うことなくアリスはリノを抱きしめると号泣し始めた。
「リノちゃん!リノちゃんだ!!よかった、よかったよう…うう、ひいぃぃぃいん」
「ちょっと、加減しなさいよ、馬鹿力!…全く、泣き虫なんだから」
悪態をついてアリスの頭を撫でながらも、リノはまんざらではない表情をしていた。一方、神弓の治癒能力で何とか起き上がれる程度に回復したマサトシは身を起こした後に状況を把握した。同時にリノとアリスの背後に潜んでいる邪悪な気配に気づいた。
マサトシは素早く神弓サルンガを構えると生成させた光の矢を放った。矢は静かに正確に潜んでいた気配を貫いた。姿を消して鎌でリノ達を攻撃しようとしていた狂乱の道化師は光の力に貫かれて悶え苦しみながら消えていった。
「せっかくの感動の対面なんだ。水をさしてやるなよ」
マサトシはそう言った後に今度こそ力を使い果たしてへたり込んだ。そんなマサトシにリノとアリスはお互いの肩を貸しあいながら近づいていくのであった。




