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第二十一話『嵐の前の静けさ』

ユーフィリア魔導王国の訪問は波乱のうちに幕を閉じた。やり過ぎ感が満載だったが、不幸中の幸いだったのは魔女王が城を破壊した俺たちを許してくれたことだ。

魔女王は俺を拉致しようとした七賢者へ苛烈な処断を行った。全ての魔法の力を奪い取った上で国外追放としたのだ。数百年を魔法の力によって延命してきた七賢者にとって魔法の力を奪われるのは死よりも重い罪だったようだ。

もっとも俺の精神的な拷問によって憑き物が取れたように大人しくなった七賢者達は暴れることなく罪を受け入れた。死を何度も繰り返したことで彼らは人の命の重さを理解したのだろう。ただし後遺症もあったようで傍らにいた俺の顔を見るなり、恐怖で取り乱した。


「連れて行きなさい」


げんなりしながら魔女王が兵士に命じる。生暖かい表情をしながら俺は彼らが去っていくのを見送った。七賢者達が居なくなるのを見送った後に魔女王は玉座に座ったまま溜息をついた。


「藤堂晴彦。私の処断よりも貴方の行った刑罰の方がよほど恐ろしかったようですね」

「いやあ、あれは私でもきつかったですから」

「そのようですね。貴方の隣りにいるインフィニティを見れば納得しますよ」


魔女王はそう言った後に気の毒そうに俺の隣りに突っ立っているインフィニティを見た。立ってはいるが、放心したかのようにその顔は呆けていた。魂が抜けているかのようである。


「大丈夫なのですか、その子は」

「あ、はい。大丈夫だと思います。大丈夫だよな、インフィニティ」

「あ~…か~…ぺ~…」

「重症ですね」

「はい、そうですね」


死の追体験の恐怖の記憶が薄れていないようである。耳から魂が出かかってないか、こいつ。暫くは意思の疎通も難しいのではないか。困った、やり過ぎたなと思いながら俺は彼女を腹の中に仕舞った。


「さて、藤堂晴彦、そしてシェーラ・シュタリオンよ。こちらに来なさい」


魔女王に言われるままに俺達は玉座の前に立った後にその場に跪いた。


「顔をあげてください。この度は私の招きに応じてくれて感謝します。本当は最初に謁見の間で貴方と話して勇者としての正邪を見極めようとしましたが、それはもう済んでいます。貴方は危険な力を持っていますが、それを正しく扱おうとする心を持っています」

「ありがとうございます」

「…と、ここまでは建前です」

「は?」

「本音を言えば貴方と事を構えるリスクを理解したのです。私だけではなく、この国の誰もが貴方を敵に回すことの恐ろしさを知っています。事件後の貴方のあだ名を知っていますか」

「小耳に挟んでいます。藤堂晴彦という男は血も涙もない『恐怖の大王』だという噂のようですね」


げんなりしながら俺は自分の呼び名を心の中で繰り返した。恐怖の大王ってノストラダムスの予言かよ。今日も城に来るまですれ違う全ての人が逃げ惑うように建物の中に引っ込んでいく様子を生暖かい目をしながら眺めてきたところだ。誰もいなくなった通りはゴーストタウンのようだった。魔女王の理解は得られたが、何か大事なものを失った気がする。俺の表情に苦笑いしながら魔女王は告げた。


「貴方でもショックなことがあるのですね」

「あそこまで恐れられるとは思ってませんでしたから」

「それだけ恐ろしいことをしたことは理解してください」


はっきり言われるとしょんぼりしてしまう。たじろぐ俺に魔女王は告げた。


「中立国といいながらユーフィリア魔導王国は七賢者を通してバルバトス帝国と国交を行ってきました。ゆえに貴方の正邪如何によっては帝国について貴方方と事を構えるのも止む無しと判断していました。ですが、それは誤りだったようです」


魔女王はそう言って手を振りかざした。光り輝く虚空の彼方から一本の美しい片手剣が現れる。氷の結晶を思わせる装飾を施された剣は実践向けというよりは儀礼用を思わせるものであった。


「この剣を授けましょう」


剣はふわふわと浮遊しながら俺の手元にやってきた。両手で鞘の部分を受け止めた瞬間、ひやりとした冷気を感じた気がした。凄まじい力が眠っている。ただの剣ではない。おそらくは魔法の力が籠っている。


「この剣は一体なんですか」

「我が国の宝である十二神器の一つである氷の魔剣コキュートスです。帝国と戦うのであれば十二神器が必要となるはずです。受け取りなさい」


いいのだろうか。仮にも国の宝を受け取ってしまって。魔女王に返却しようかと迷ったが、シェーラに服の袖を引っ張られた後に小声で窘められた。この世界の流儀として国政に携わる者が謁見者に剣を授けるという事は庇護を与えるという意味なのだそうだ。驚いた俺は魔女王の顔を見た。彼女は涼し気に微笑んでいた。

この剣はユーフィリアが帝国と戦うために力を貸してくれる証明ということだろう。躊躇いながらも俺は魔女王から魔剣コキュートスを受け取った。





                 ◇◆◇◆◇◆◇             






シュタリオン国に戻った俺とインフィニティはその足で城の地下に作っている自分の工房に向かった。魔女王との戦いで思うところがあったからだ。

まずは今回の騒動で勝手に這い出して暴走した俺の配下のモンスターたちをどうにかしないといけない。俺を助ける訳だったのだが、明らかに彼らのしたことはやり過ぎだ。

俺はインフィニティに命じて彼らが俺やインフィニティの命令に違反したときには直ちにダンジョンの中に強制的に戻されるような呪紋を作り出すと全てのモンスターの身体に刻んだ。

その後で考えたのは自分の武装強化である。

実のところ【雷神覚醒】を使用できるようになった後に俺は自分の力を過信するようになっていた気がする。だが、魔女王との戦いは想像を絶する激しいものであった。神の槍であるグングニルがあったから何とか戦えたものの、槍の重さに振り回されるような状況ではこの先現れる可能性のある魔女王クラスの敵との戦いでは生き残ることはできない。

そこで俺が考えたのは自分自身の身体を纏い、筋力補助などの戦闘の役に立ってくれるパワードスーツを作ることだ。槍を扱うための筋力補助、攻撃魔法からの絶対防御、飛行能力などを身に付けた自分だけの鎧を作成する。参考にするのは司馬さんが纏っているダインスレイブである。幸いなことに材料となる材料は揃っている。ユーフィリア魔導王国から帰るときに魔女王からヒヒイロカネのインゴットを貰っているからだ。

そんなわけで俺は自分自身の膨大な魔力をヒヒイロカネに籠めながら鎧を作成することにした。だが、すぐに行き詰まった。この金属を加工するには絶対的な何かが足りないのだ。

普通の金属であれば魔力を籠めればうねうねと変化していくものなのだが、神の金属であるヒヒイロカネは生半可なことでは形状が変化しない。いきなり詰まったぞ。

インフィニティに尋ねようとしたが、放心状態からまだ元に戻ってこないために役に立たない。目の前のヒヒイロカネと睨めっこしながら俺はどうするかを思案し続けた。




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