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4-1(P26)

死んだ魚のような目をしながら俺はパトカーの後部座席に乗せられていた。傍らには心配そうな顔をしているシェーラが俺と同じく座らされていた。まるで市場に売られていく子牛の気分だ。歌いそうになる気持ちを必死に抑えながら俺はため息をついた。俺を捕まえた女はパトカーを運転しながら俺に尋ねる。


「先日の空中爆破事件といい、無茶苦茶やってくれたじゃないの。おかげでこちらはもみ消しに必死だったのよ」


言われて俺は震え上がった。やべえ、先日のシェーラの魔法の一件までバレているじゃないか。こうなったら黙秘するしかない。内心でガクブルする俺の沈黙を反抗的な態度と受け取ったのか、女はムッとした表情をしたまま話を続けた。


「まさかこの法治国家日本で魔法を使用するとどういう事態になるのか分かってなかったんじゃないでしょうね?」


俺の知ってる法治国家は魔法なんて使わないよ。そう反論したかったが、NOと言わさない威圧的な物言いだ。この人怖いよ、今すぐに帰りたいよう。そう思いながらも黙秘を続けると続けるでブチ切れるんじゃないかという不安を感じた。こういう時はなるべく感情に訴えかけるのが一番だとネットか何かで見たのを思い出した俺は感情に訴えましょう作戦を実行した。


「いや、僕はただ彼女を故郷に返したい一心で」

「故郷に帰したい一心で空中を爆破したってどういうことよ。そうじゃなくても一般人に異世界や魔法の存在を隠蔽するために必死で働いてるってのに。貴方も魔法使いなら世界間魔導協定を知らないわけがないでしょう」

「あの、世界間魔導協定ってなんですか」

「本当に知らないわけ。君」


知らない単語ばかりだ。そもそも俺は魔法使いではない。童貞が一定の年齢に達したら賢者になれるというが、そういうことならばすでに賢者と呼ばれてもおかしくないがな。指を指されて賢者などとは絶対に呼ばれたくはないがな。


「もうやめておけ、ワンコ。本当に何も知らなそうだぞ、そいつは」


その時になってはじめて助手席に座っていた壮年の男が口を開いた。一見冴えない無精ひげが特徴的な男だった。だが、視線だけが異様に鋭かった。真正面から見据えられたら何も言えなくなるんじゃないだろうか。男は猛禽類を思わせる鋭い視線で俺をチラリと見た後で苦笑した後に言った。


「どう見たって魔術師って顔も体格もしてねえだろう。大方数年間引きこもって久しぶりに外に出たらトラブルに巻き込まれた一般人ってとこだろ」


大正解です。この刑事さん、見た目は昼行燈なのに優秀だなあ。これなら酷いことにはならないか。若干安心しながら見ていると女は納得いかなかったようで反論した。


「いや、でも司馬さん、私の勘は…」

「お前の勘なんて聞いてねえんだよ」


司馬と呼ばれた男の一喝に女も俺も震え上がった。男は一喝した後に元の昼行燈のような表情になって言い聞かせるように女に言った。


「いいか、ワンコ。前にも言ったはずだ。俺たちは勘や思い込みで捜査をしては駄目だ。起こった出来事の裏付けを取るために床を這いずり回って走りまわって聞き込みして、調べに調べてようやく証拠を見つけるってのが俺たちの仕事だ。それでもどうしても見つからなかった時の最後の武器、それが刑事の勘ってもんなんだよ」

「…でも…」

「反論するな。今度誤認逮捕したら減給だってデカ長から言われてんだろ」

「はいぃ……」


司馬と呼ばれた男の説得に女は消え入るような声でそう答えるともう俺には話しかけなくなった。凄いな、この人。そんな女の様子に苦笑した後に男は俺の方を向いた。


「いろいろ悪かったな、にいちゃん。まあ、逮捕とかはねえから安心してくれ。まあ、しょっ引いちまった手前もあるから署で少し話を聞かせてくれると助かる。かつ丼くらいは驕るぜ、俺のおごりだけどよ」

「はあ。」


シェーラの不法滞在の件もある。下手に逆らわないようにした方がいいだろう。


「あと、見たとこ姉ちゃんは異世界人みたいだな。どこの生まれだ。アルカランか、デネブか。まさかとは思うが白虎神界っ訳じゃねえよな」


何気なく言った男の言葉に俺は驚いた。アルカランとかデネブとかどこのことだよ。そう思った俺は思わず尋ねてしまっていた。


「シェーラが異世界人って分かるんですか!?」


俺の驚きに男は静かに頷いた。そして懐から名刺を差し出してきた。


「自己紹介が遅れたな。俺は司馬、こっちはワンコ。あんた等みたいな異世界間の紛争やトラブルを解決するWORLD MINORITY DEFENDER、略してWMDって組織に所属している。」


司馬と呼ばれた男の顔と名刺を見た後に俺とシェーラは顔を見合わせた。




                 ◆◇◆◇◆◇ 




WORLD MINORITY DEFENDER。世界の少数派の擁護者と名付けられたこの組織の発祥は西暦2000年を越えた頃からだと言われている。たった一人の異世界帰還者によって作られた前組織は驚くべきことに民間企業であったという。彼らは少数派であった異世界からの迷い子や地球を侵略に来る侵略者、または地球の重要な資源である人間を連れ去ろうとする謎の力から地球を守ってきた。だが、2010年ごろから異世界に召喚された人間がなぜか激増。他の異世界でも同様のトラブルが起きるようになっていた。

地球だけでは異世界間規模で起こる紛争から地球を守ることは困難と判断した各国の首脳たちは、特殊な方法によって異世界に召喚された後に成り上がって世界支配者となった元地球人『NAROU』たちと連絡を取った。そして秘密裏に行われた異世界間サミットによって異世界間不可侵条約を盛り込んだ『世界間魔導協定』を結んだのである。

そして協定に従ってWMDは民間組織から政府直轄組織に吸収されて生まれ変わった。彼らの構成員の大部分は地球人を越えた能力を持つ人間達によって編成されている。異世界間のトラブルを解決するために彼らは日夜、地球を狙う陰謀と戦うのである。

そして現在、警察署の一室に設置されたWMD日本分室と書かれた一室にて晴彦は取り調べを受けていた。



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