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第二十話-8

二人をゼロスペースの中に引きずり込んだ後で俺はギュンター何某の方を見た。彼は今さっきまで目の前で起きた光景の異常さに呆然としている様子であった。それはギュンターだけではなく、彼と一緒にやってきた取り巻き連中も同じ状態のようだ。どさくさに紛れて俺は床に落ちていた偽造文書を拾いあげた後で周囲に聞こえるようにわざとらしく大きな声を出した。


「ふーん、これが解雇命令書とやらか」

「おい、そこのお前、何をしている、それを寄越せ!」


俺が書類を拾い上げたことに気づいたギュンター何某が書類を奪い取ろうと近づいてこようとする。だが、奴はそれ以上近づくことができなかった。床から生えた二本の手がしっかりと奴の足首を掴んでいたからだ。自分の足首を掴む何者かの妨害行動に気づいたギュンターは足元を見て短い悲鳴をあげた。勿論のことであるが、それは俺が【千手観音】スキルによって発生させたものである。二人の少女を床下に引きずり込んだ先ほどの怪奇現象と同様の現象に動揺しているギュンターに対して俺は追い打ちをかけた。奴の足を掴んだ手を遠隔操作で動かして研究室から奴を追い出したのだ。


「ぬおっ!なんだ、やめろ、助けて!!たすけてくれえぇぇぇぇぇぇ………」


足首を掴まれたギュンターは仰向けに倒れた後で凄まじい速度で地面を引きずりながら研究室から消えていった。傍から見たらギュンターが謎の手によって旧校舎の奥に引きずり込まれていくようにしか見えなかった。どう見ても怪奇現象です。ありがとうございました。


「うわああああ!!!!」


理解不能の恐怖現象に奴の取り巻き連中は耐えきれなかったようである。恐怖判定に失敗したのではないだろうか。これ以上ないくらい大きな声で悲鳴を上げながら逃げていった。この程度で恐慌状態になるとは軟弱な連中だ。鼻で笑った後、俺はガーランド先生が青ざめた顔でこちらを見ている視線に気づいた。この視線はあれだ。いつもの得体の知れないものを見る目だ。いたたまれなくなった俺は今起きた超常現象が自分のせいではないと誤魔化すことにした。


「な、何だったんですかね。今の超常現象は」

「君が何かしたわけではないのかね」

「やだなあ、あんな得体の知れない真似は人間には無理ですって」

「そ、そうか。そうだよな…」


俺の返答にガーランド先生は自分自身に言い聞かせるかのように無理やり頷こうとした。そんな俺たちの周囲では先ほどの騒ぎで書類の束が舞い上がっていた。ああ、まずい。片付けないといけないな。そんな俺の意思を反映させるかのようにインフィニティが余計な気を回そうとする。


【マスター、千手観音を使用して部屋を片付けますね♪】

(い、今はやめ…)


俺が制止しようとする前に俺の背中から伸縮自在の沢山の手が生えて部屋を片付け始める。俺の意思とは無関係に。必死に隠そうとする俺の動きなど無視して俺から生えた沢山の手たちは動き続ける。ガーランド先生、そんな気の毒なものを見るような目で俺を見ないでくれ。先生の視線に耐え切れなくなった俺は泣きそうになりながら顔を背けた。





               ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





一方その頃。アイテムボックスの狭間にある謎の虚数空間であるゼロスペースではシェーラとレジーナの二人がお互いの放った魔力を激突させていた。術師であるレジーナを中心に発せられるのは触れるものを凍らせる氷結魔法の嵐である【アイスストーム】だ。周囲の空間ごと凍らせていく凄まじい氷の嵐に対してシェーラは自身の周囲に荒れ狂う火柱を発生させて対抗していた。この火柱こそ炎の中級魔法である【フレアサークル】である。だが、シェーラの炎魔法を上回る勢いで氷の嵐は荒れ狂っていた。かろうじて周囲の空間の氷の浸食は相殺しているものの、火柱をかき消すのも時間の問題だった。


「きゃははは!威勢が良かった割には魔法力が伴ってないじゃない。せっかく攻撃魔法が使えるようになったのに残念だったわね!」

「くぅ…!魔法学校主席は伊達ではないということですか…」


必死でレジーナの氷魔法に抗おうとするシェーラだったが、二人の力量差は歴然だった。レジーナは追い打ちをかけるように魔法を放って火柱をかき消そうとした。


「これで終わりよ!アイストルネード!!」

「!!」


シェーラの火柱をかき消すかのように足元から氷の嵐が荒れ狂っていく。燃え盛っていた火柱が炎の形をしたまま凍り付いていく。それを見たレジーナは嗜虐的な笑みを浮かべた。おそらくはあの【フレアサークル】がシェーラの切り札であるはずだ。ゆえにあれを無力化させた後にあの女が【アイスストーム】の魔力圏に抗う術を持つまい。このまま氷の彫像にしてやる。レジーナは止めを刺すべくアイスストームの魔力をさらに強めた。

だが、シェーラは諦めてはいなかった。彼女はフレアサークルを使いながら、ある方法で体内に炎の魔力を蓄えていたのだ。彼女は晴彦と過ごすことで彼の戦闘スタイルを学んでいた。ゆえにレジーナの持つ強大な氷の魔力を打ち勝つ術を見出すことができたのだ。


爆発的な炎の魔力がシェーラの体内から膨れ上がる。彼女はそれを自身の身体を触媒として顕現させた。


一瞬吹き荒れた凄まじい熱風が吹き荒れた後でレジーナは信じられないものを見た。彼女が凍結させた火柱の中から一つのエネルギー体が出現したのだ。それは炎に身を包んだ少女であった。燃え盛る髪に太陽のような熱量を秘めた半精霊体。

これこそフェニックスと融合して新たな姿へと進化したシェーラであった。

その炎の力はレジーナが生成させていたアイスストームによる場の凍結効果を全て無効化させていた。


「この…化け物が!」


レジーナが憎しみを露わに放った氷の魔力の奔流を炎のエネルギー体と化したシェーラは片手で放った炎の渦でぶつけ返した。その余波でレジーナは壁に叩きつけられて意識を失った。炎のエネルギー体となったシェーラはそれを無表情で眺めた後でレジーナに近づき始めた。その手に炎の魔力が集中し始めていた。




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