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第二十話-4

 ユーフィリアについた俺とシェーラは直ぐに国の中央にある城に向かった。もちろん女王に謁見するためである。流石に向こうから呼びつけられたのだから、すぐに謁見の間に通されると思ったのだが、どうも勝手が違った。取り次いでくれた文官が言うには女王の謁見待ちの人間が思ったよりも多いらしく面会できるまで二日ほどかかるという事だった。仮にも一国の代表として来ているのにどういうことかと内心でムッとしたが、シェーラが大人しくしている以上暴れるわけにもいかない。宿の手配はしてくれるので呼びに行くまでの間は滞在してくれないかという事だったので渋々了承した。

 暖かい城から出ると途端に外の空気が寒く感じた。さっきよりも冷え込んできた気がする。ポケットに手を突っ込んで寒さを凌いでいるとシェーラが申し訳なさそうに謝ってきた。


「ごめんなさい、なんだか嫌な思いをさせましたね」

「ん?何でシェーラが謝るのさ」

「私も一時期はこの国に住んでいたからよく分かるのです。この国は魔法が使える貴族やお金を持った人間を優遇する悪習があります。シュタリオンのような小国の人間と軽んじているのでしょう」

「それを聞かされると面白くないな」


 何だか自分たちの故郷を馬鹿にされている気がして腹が立ったが、シェーラの顔を見た瞬間に理解した。彼女も同じ気持ちなのだろう、表情が暗くなっている。何となく気まずい雰囲気になりかけてしまった。不味いと思った俺は面会までの二日間は観光しまくってやると気持ちを切り替えることにした。


「まあ、事情はどうあれ時間ができたと考えることにしよう。せっかくだから街を観光しようよ」

「ハルは本当にポジティブですね」

「それが取り柄だから」


 きわめて明るく振舞うとシェーラもようやく笑顔を見せてくれた。そうそう、女の子は笑顔が一番です。気持ちを切り替えた俺たちは文官から渡された街の地図を頼りに宿は向かった。地図の通りにたどり着いた宿は恐ろしく豪華な作りをしていた。迎賓館と言われても間違えてしまうのではないだろうか。本来ならば貴族でないと泊まれないのではないだろうか。

 ドアボーイに恭しく礼をされて入った内装はこれまた広々として煌びやかな装飾を施されていた。驚いたのは入った瞬間に従業員一同が左右に並んで出迎えてくれたことだ。


「いらっしゃいませ。晴彦様、シェーラ様」


しっかりと従業員教育が施されている。怖いくらいだ。本当にここに泊っていいのだろうか。謁見用の正装をしているものの場違い感が半端ないと感じるのは小市民だからだろうか。

 フロントで笑顔が似合うナイスミドルな総支配人相手にしどろもどろになりながらも受付を済ませた後に通された部屋は凄まじく豪華だった。入ってすぐの第一印象は部屋が恐ろしく広いことだった。テーブルの上には魔法か何かで冷やされたワインボトルとグラス、そして色とりどりの果物が用意されているし、エアコンもないはずなのに空調が完備されていて、ほのかに暖かい。驚いたことにバスルームの洗面所には水道の蛇口があった。蛇口を開くとお湯が出てきた。


「おい、まさか水道が完備されているのか?」

『魔法で水をくみ上げているようですね。しかし地球と作りが恐ろしく似ています。もしかしたら召喚された地球人が技術提供をした可能性もありますね』


 水道までが整備されているとは侮れない国だ。その後も部屋の中を物色しながら、シュタリオンに帰ってからこのコンセプトの宿を作ることをインフィニティと相談していると部屋のドアを誰かがノックしてきた。


「ハル、私です」

「シェーラ、今開けるよ」


 ドアを開けると廊下にはすでに謁見用の正装から動きやすい服装に着替えたシェーラが立っていた。白い毛皮のコートに白のミニスカート、黒いタイツが非常に魅力的である。


「…くそ、かわいいな」

「あの、何か言いました?」


 何でもありません。おじさんには貴女の若さが眩しく感じてしまっただけです。見惚れていましたなんて恥ずかしくて言えるわけがない。そんなことを思いながらもシェーラの服装を見て俺はハッとなった。考えたら極寒地仕様の私服を一つも持っていない。よくよく思い出したら暖かい格好の準備をしてくるように言われていたのを今の今まで忘れていた。今更すっかり忘れていましたなんて言えるわけがない。このままの格好で出向くは目立ちすぎる気がする。シェーラを自室に招いた後に俺は着替えてくると告げてバスルームに籠った。さて、困った時はこの人の出番だ。


「…インフィニティ、外に出ても大丈夫な服装を準備できるか」

『服装のセンスはいかがしましょうか』

「お前さんがカッコいいと思う姿でいいよ」

『お任せください、マスター』


 命じたとたんにインフィニティの力が働いて俺の格好が変わる。魔法少女の変身シーンのような光に包まれた後に俺の姿は変化していた。

 鏡を見た瞬間に頭が痛くなった。どう見ても俺の姿は日本伝統の甲冑に身を包んだ鎧武者にしか見えなかったからだ。ご丁寧に兜には面頬と呼ばれる仮面までついている。というかこの兜、どうして兜自体が一本角みたいなデザインになっているんだ。長すぎてドアから出れないだろうが。

 気のせいだろうか。俺の耳の奥でほら貝の音とエイエイオーという勝鬨が聞こえてきた気がする。

 客観的に見てどう見ても古びた旅館に飾ってあった鎧が動き出した姿にしか見えない。流石にこれでは外を歩けない。


「一応聞こうか。どうしてこのチョイスをした」

『千手観音の失敗から私も日本文化を学びました。以来、日本の鎧と日本刀の美しさに魅せられまして…この鎧はかつて森蘭丸の父親が着用していた鎧をモチーフに…』

「お前のこだわりはよく分かるが、この場面にこのチョイスはないわ」

『それでは、これでいかがでしょうか』


 再び俺の全身が光に包まれる。変貌した自分の姿に俺は言葉を失った。胴体くらいに大きくなった俺の顔面の周りに火に包まれた車輪が生えている。駄目だ、これって百鬼夜行に登場する例の奴だ。


「誰が妖怪変化を作れと言った…」

『マスターの要望は難しいですね…』


 頭が痛くなった俺はアイテムボックスからファッション雑誌を取り出してインフィニ何某さんに見せた。


「余計なアレンジはいいからこの格好にしてくれ」

『はい、分かりました』


 インフィニティがそう言った後に俺は光に包まれた。直後、俺はファッション雑誌になって床に落ちた。バサリという音が空しく響き渡る。

 そうじゃない、そうじゃないんだ。頭を掻きむしりたくなったが、雑誌になっては手も足も出ない。何とか身動きをしようとして身じろぎしたら雑誌の胴体から手足が生えてきた。洗面台の鏡を見てみたが、確実に言えることは外に出れない化け物が誕生していることだった。泣きそうだった。立ち上がった頃に例によって戻ってこない俺を心配してやってきたシェーラが悲鳴をあげることになるのだが、それは語るまでもないだろう。


ここ数日仕事の忙しさと体調不良で寝込んでました。すっかり遅くなり、申し訳ありません。

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