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第二十話(1)

 ユーフィリア魔導王国。古代の賢者たちによって作られたこの国は世界中から多くの魔法使いが集まる。周囲を氷の壁に覆われた極寒の国であり、一年中が冬である厳しい環境が外部からの侵入を阻む。極寒の環境の中でも人々が暮らしていけるのは豊富な魔力とそれを操る多くの魔導士の存在があるからである。

 恵まれていない痩せた土壌と劣悪の環境下でも人々が生き抜いてこれたのは魔道の力によるものであった。独自の発展を遂げたユーフィリアはあくまでも中立の立場を取ってきた。長い歴史の中ではユーフィリアの所有する魔道の力を狙って侵略を行った国もあったが、その悉くをユーフィリアは返り討ちにしてきた。ゆえに周辺国はユーフィリアを恐れて刺激することはない。

そんなユーフィリアの賢人たちは城の一室に集まりながら巨大な魔道スクリーンに映し出された狂気の光景を眺めながら茫然としていた。


【おぎゃああああああ!!!!】


 それは先日の戦いで肉塊魔神に変身した晴彦であった。体中のいたるところから目玉や耳、口や触手が生えた化け物は見る者に生理的な嫌悪しか与えなかった。それだけではなく、形が安定していないせいなのか、穴という穴からは肉汁らしきものも滴っている。


「御覧の通りです。メグナート森林王国に現れた新たな魔神はこの後に現れた別の魔神と死闘を繰り広げました」


 眼鏡をかけた知的な雰囲気の魔術師の青年がそう言った後に肉塊魔神は狂気の叫びをあげた。『ばおええええっ!!!』という鼓膜を破るような大音響に同席していた他の賢者たちも耳を塞いだ。皆、共通して言えるのはこれ以上ないくらいに怯えた表情をしていることである。叫んだ後に肉塊魔神の内側の肉が肥大して内側から肉が溢れていった。それはやがて空を覆うほどの大きさの女の姿を形取った。眼球がない銀髪の女の姿に何人かの魔導士が悲鳴をあげた。


「何だあれは!」

「化け物!?あれは世界を滅ぼす邪神じゃ!!」

「もうやめろ‼映像を打ち切ってくれ!」


 魔導士たちの懇願を受け入れた主催者が映像を打ち切る。映像を見終えた魔導士たちは皆憔悴しきった様子で溜息をついていた。中には冷静にティーカップを持って紅茶を啜ろうとするものもいたが、手が震えてうまく口元まで運んでいけなかった。


「調べの結果、この魔神は勇者である藤堂晴彦から生まれたものだそうです」

「勇者が魔神に乗っ取られたのだな」

「これまでの歴史の中でもこれほど悍ましい姿を見せたものはいませんでした。一度、わが国に招いて人に仇為すものかを見極める必要があるでしょう」

「何を悠長なことを!!一刻も早く討伐するべきだろうが!!」


 髭を蓄えた賢者の叫びに多くの同席者たちが賛同した。その意見を覆したのは場の中央の席に座っていた白髪の美女であった。目を瞑ったまま場を静観していた彼女は静かに瞼を開くと一言だけ口にした。


(だまりなさい)。」


 彼女が放ったのは恐ろしいまでの魔力を秘めた言霊であった。詠唱も何もなかったが、その場にいた全ての人間を黙らせるほどの力を秘めた言葉に賢者たちは戦慄した。

魔女王ベルクレア。ユーフィリアで一番の魔力を所有する魔導士であり、太古の勇者の仲間の一人である。魔術によって維持される寿命は数千年を越えるとも言われている。


「正邪の見極めが必要です。勇者晴彦を招くのです」


 ユーフィリアの魔導士たちにとって女王の判断は絶対であった。この女王の宣言によって晴彦をユーフィリアに招くための使者が立てられることになったのである。





               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                           





 その頃の俺は遠く離れた極寒の地で怖い人たちが自分に興味を示していることなど知る由もなく、仲間達に命じてメグナート森林王国の獣人たち相手の炊き出しを行っていた。

 元々、獣人は普通の人間に比べて身体能力が優れているはずなのだが、長い間の強制労働によって体は衰えて衰弱しきっていた。恐らくロクなものも食べさせられずに酷使されていたせいか、立っているのもやっとの状態の獣人たちばかりだった。そんなわけで大規模な治療と炊き出しを行うことにしたのである。


「ちょっとあんた達、全員分あるからね、ちゃんと並びなさい!」

「小さな子供さんがいる人を優先させてくださいね」


 炊き出しでしっかりと働いてくれたのはカミラとアリスの女性陣二人だった。そんな二人にこき使われるようにマサトシが動き回る。そのサポートに「きょーきょきょきょ」と笑う金色の生き物がいるような気がするが、気のせいだろう。収納ボックスから出した覚えはないはずなのだが、おかしいなあ。

とりあえず、この場はマサトシ達とインフィニティに任せておけば大丈夫なはずだ。何かあった時だけすぐに知らせるように告げた俺は治療のためにシュタリオンに戻ることにした。





               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇            






 瘴気の影響でヘロヘロになって戻ってきた俺はシェーラに物凄く心配されて、物凄く怒られた。毎回、勝手に飛び出して怪我をして戻ってくるのはいつもの事だが、今回は呪いのような状態になっているために余計に心配になったのだろう。回復魔法やエリクサーも効かないことを話すと半ば無理やりにベッドに寝かされた。笑顔であったが、有無を言わさない迫力があった。こういう時のシェーラさんには逆らうとロクなことにならないことを知っている俺は敢えて黙ったまま、療養生活を送ることにした。

 瘴気の影響は体のあちこちに呪文のような染みとなって現れた。シミになった部分が毒のように体を蝕むのである。激痛というわけではないが、じわりじわりとした痛みと共に微熱を発するし、回復魔法でも塞がらない傷口は膿んでいくためにいくら包帯を巻いても変色していく。シェーラは包帯が汚れていくと嫌がることなく、傷口の消毒と包帯の交換を何度もしてくれた。献身的な看病だった。

 

 普段、回復魔法とかに頼り過ぎていた俺にはシェーラの看病が非常にありがたかった。



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