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異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なくやせることにした。  作者: しぐれあめ
第二部 五章 ポケットに入った大冒険豚劇!!
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第十九話-15





               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇             





 異形の怪生物が登場したことで世界中の空にも異変が起こっていた。雲が恐ろしい速さで流れていったかと思うと黄昏時のような赤い空に豹変したのである。その場にいた人間たち以外にもこの異変にいち早く気付いた者がいた。ユーフィリア魔道王国の七賢者たちである。

 かつての戦争で勇者と共に戦った歴戦の賢人たちはメグナート森林王国に顕現した新たな魔神の出現に恐怖した。そのうちの一人が遠視の水晶球で藤堂晴彦が魔神へと豹変する様子を記録していた。


「一体いかなることか。人を守るはずの勇者が魔神に豹変するとは…」

「魔神に体を乗っ取られたという事じゃろう…」

「この気配、かつてこの世界に顕現しようとした魔王アザトースと同等、いや、それ以上に禍々しいものじゃ…」


 怪生物の気配に気づいたのはユーフィリアの賢人だけではなかった。傭兵国ディリウスに滞在していた司馬も同様に異変に気付いていた。彼は宿屋の二階に取った自室の窓から黄昏に染まる空を眺めながら眉間にしわを寄せていた。

 そんな彼の部屋に階段を駆け上がってきたワンコが飛び込んできた。


「司馬さん、大変です!空が…」

「知ってるよ。この気配、メグナートからだ。この気配、大戦時に遭遇した大魔神クラスの禍々しさだぞ」

「…司馬さん、まさか震えているのですか」


 ワンコに指摘されて司馬は震えを隠す様に震えている方の手首を押さえた。何人もの戦友が犠牲になった時の過去の記憶を振り返り、冷や汗が止まらなかった。恐ろしいことが起きようとしている。司馬はメグナートに同行しなかったことを後悔した。


「あいつら、無事でいろよ」


 メグナートへ向かった見習い捜査官たちの顔を思い浮かべながら司馬は窓の外の空中に神馬を召喚すると素早く跨った。そのただならない様子を見てワンコが叫ぶ。


「司馬さん、私も行きます!」

「来るな!俺でも死ぬかもしれん!」

「足手まといかもしれません、でも私にもできることがあるはずです!」

「…好きにしろ」


 司馬は苦笑いしながら神馬を翻した。ワンコがその背に跨ったのを確認した後に司馬は神馬を全力で飛翔させた。





                  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇             





 インフィニティが俺の身体を豹変させるのを第三者のような視点で眺めながら俺は何とも言えない悪寒を感じた。物凄く嫌な予感がする。インフィニティがどうこう言うのではなく、何か恐ろしいものがこちらに向かっているような気配がしたのだ。どうしようもない不安を抱えたが、今は戦闘に集中することが先決だろう。


【おぎゃああああああ!!!!】


 突如として肉塊魔神となったインフィニティが叫びを上げる。体中のいたるところの穴から声が上がる。その声は感情を持たないはずの機械兵をも圧倒していた。勿論、俺もドン引きである。


『一体なんだよ、今の声は!鼓膜が破れるかと思ったぞ』

『いや、生まれたての赤ん坊のような声を演出してみたんですが。どうやら不評のようですね』


 地上で俺たちの様子を見上げていた獣人のうちの何人かは泡を噴いて倒れていた。


『何かの発作ですかね』

『明らかに今の声にショックを受けてるんだよ!!』

『うーん、困ったな。あ、攻撃が来たので迎撃しますね』


 肉塊魔神に脅威を覚えた数体の機械兵がこちらに向かって襲い掛かってきた。インフィニティはそれを迎撃するために触手をうねらせた。まるで巨大な植物のツタのように肥大化した無数の肌色の触手が襲い掛かる。数体はその一撃をまともに喰らい、地表に堕ちていった。触手の猛攻を掻い潜った二体に対してインフィニティは至近距離から七色の魔導ビームを放った。肉塊に生えている全ての目からビームが放たれる様子はミラーボールのようであった。

 破壊はできなかったが、かなりのダメージを与えたようである。

大問題であったのはその攻撃が機械兵のみならず無差別であったことだ。危うく獣人やマサトシすれすれにビームが飛んでいったことを見て俺はインフィニティに抗議した。


『おい、無差別攻撃はやめろ!』

『むう、加減が難しいですね。仕方がない、彼らを限定空間に引きずり込みましょう』


 インフィニティが「ばおええええっ!!!」と叫びをあげると肉塊魔神の背中から空を覆うほど巨大なインフィニティが現れた。一体あれは何だと俺が戸惑っているとインフィニティがブラックウインドウを使っただけですと答えてきた。なんであんな禍々しい姿なんだよ。頭痛がしてきた。巨大な手がハエたたきのように掌で機械兵達を叩くと彼らはゼロスペースの中に引きずり込まれていった。


『さあ、あれだけの戦闘能力を持っている連中ですからゼロスペースを壊して這い出す可能性があります。急いで我々も限定空間に入りましょう』


 インフィニティはそう言うと自らの身体を浮き上がっている口の一つに食わせ始めた。


『おい、何を共食いしてんだよ!』

『ご心配なく。この口は他の口とは違い、限定空間に繋がっている単なる穴なのですよ』

『見た目がもうどうしようもない…』


 頭痛を通り越して眩暈がしてきた。今のこの様子を見られたら司馬さんに言い訳のしようがない。ふと嫌な予感がしてマサトシ達の方を見た。みんな、腰を抜かしている。気のせいだろうか。床に水たまりが出来ているが、見なかったことにしよう。

そう思っているうちに俺たちはゼロスペースへと移動していた。



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