第十九話-12
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帝国が獣人の奴隷たちを使って怪しげなピラミッドを建設中であるという報告を受けた俺はきな臭いものを感じた。獣人たちには帝国の皇帝の権威を示す墳墓という説明をしているようだが、怪しい事この上ない。自分たちの親玉の墓なら帝国本土に作るはずであるし、何か別の目的の施設である気がしたのだ。
『敵の数が多すぎて俺達だけでは帝国兵を倒せない。増援を送ってもらえないかな、アニキ』
マサトシの言葉に俺は頷いた。だが、大規模な軍勢を派遣するつもりはなかった。そんなものを送れば本格的な領土戦争に突入するのは間違いないからだ。帝国のことだ。奴隷にしている獣人を最前線に持ってくるに決まっている。それでは本末転倒になってしまう。
そんなわけで俺は身支度を整えた後に自室の隠し通路から地下室に向かった。階段を下りた後には地下深くへ通じるエレベータがあり、秘密基地に続いている。
秘密基地。城の主であるシュタリオン王の許可を得て作り上げた新兵器開発工場である。最も今はまだ一つの武装の開発しかできていない。いずれは巨大ロボット軍団を作って帝国との戦いを有利に進めようと思っているが、今回使おうとしているのはロボットではなく別のものである。
地下には全長30m以上はありそうな凄まじく長い砲口が地上へ向けて設置されていた。これこそが俺が秘密裏に開発を進めていた『大陸間横断人間大砲』である。これを使えば一瞬にして目標の場所へ移動することができる。
神の力を使えば一瞬で移動できるだろうと思う方もいるかと思うが、この兵器のコンセプトは飛行能力を持たない人間でも一瞬にして移動が可能になるという点である。今は実験段階だが、ブタノ助やマサトシにも使うことができればRPGの移動魔法のように便利に使うことができるはずだ。
「そううまくはいかない気がします」
俺の思惑に水を差す様にツッコミを入れたのは現場監督をしていたインフィニティである。
「何だよ、インフィニティ。製作段階ではお前だってノリノリだったじゃないか」
「マスター。冷静に考えれば着弾した瞬間に普通の人間は衝撃で死んでしまいますよ」
「じゃあ、なんで作ったんだよ」
「人間離れしたマスターなら耐えられるからです」
ええい、はっきりと化け物と言ってもらったほうがすっきりするわい。初めから俺専用に考えてやがったな。釈然としないものを感じる俺をインフィニティは砲弾の中に押し込めた。
文句を言おうとしたら問答無用で砲弾の蓋を閉められた。内側からノックをするもののビクともしない。頑丈な作りをしている。
外側を見る限り、機械の稼働音や実験の際に何回か聞いた装填音が聞こえてきたので、容赦のないポンコツさんが例によって俺を弾丸としてぶっ放すのがよく分かった。
「おい!動物で実験はしたんだろうな」
『分身体で実験はしましたよ、可哀そうなことはしましたが』
「聞き捨てならないことを言った!今絶対に聞き捨てならないことを言った!」
『砲手!すぐにマスターを射出してください』
『アイアイサー!藤堂晴彦を射出するでやんす。ぽちっとな』
「おい、やめ…」
怖くなった俺は無理やり蓋をこじ開けようとした。だが、それよりも早く引っ張られるような重力を感じた。一瞬、意識が飛びそうになりそうだった。
次の瞬間、ズドンという音が響き渡った後に俺は弾丸と共に空高く飛翔していた。
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その日、帝国墳墓で働かされていた多くの獣人たちは空から流星が降ってきたのを見た。その幻想的な景色に思わず獣人だけでなく、帝国兵までが作業を行う手を止めて流星に見入った。獣人の中にはこの地獄を終わらせてほしいと救いを願ったものも少なくなかった。
だが、それは流星ではなかった。史上最悪の戦闘能力を持った元デブが落ちてきたとはその場の誰も思ってはいなかった。
インフィニティの狙い通りにメグナート森林王国領に到達した弾丸は中にいる晴彦もろとも帝国墳墓に大激突した。着弾の衝撃で墳墓の表面の岩が容赦なくはじけ飛び、飛び散った岩石が地面に落ちて、獣人たちを鞭で叩いていた帝国兵達が下敷きになった。
「神の怒りだ…」
叩かれていた獣人は茫然としながら飛来した流星の方を見て呟いていた。
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死ぬかと思った。久しぶりに三途の川と死神が見えてしまった。自分が飛ばされて実感した。この『大陸間横断人間大砲』は欠陥兵器だ。乗り手に対しての優しさや思いやりというものが欠落している。発射の時の衝撃もさることながら着弾の衝撃は人によっては間違いなく死ぬやつだ。この辺りを改善しないと射出のたびに人が死ぬ。
むち打ちになりかけたぞ。次は攻めてシートベルトを設置しよう。そう思いながら俺は弾丸の蓋をけ破って外に出た。すでに周囲には槍を構えて警戒する帝国兵達の姿があった。彼らと眼が合った俺は思わず戸惑ってしまった。帝国兵達もまさか中から人間が出てきたとは思っていなかったようで驚いていた。
「何だ貴様は」
「建設中の皇帝陛下の墳墓と知っての狼藉か」
「うん?こいつ、見たことがあるぞ。確かトウドウハルヒ…」
俺だと気づかれて大騒ぎになる前に俺はクロックアップで帝国兵達に迫るとみぞうちを殴りつけて無力化した。だが、すでに騒ぎを聞きつけた帝国兵達が駆け付け始めていた。
数十人はいるだろう。俺は手元にグングニルを召喚すると長さを伸縮させながら縦横無尽に振り回した。足場の悪い墳墓で長物を振りまわされた帝国兵達はグングニルの柄に当たって地面に落下していった。だが、ますます帝国兵達は増えていく。気づけば魔法で狙いを定めるものや弓矢を構えているものまで現れ出す始末だ。
正直、面倒くさい。そう思った俺は広域の重力操作で彼らを押さえつけた。俺にひれ伏すような形で帝国兵達は地べたに這いずった。




