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異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なくやせることにした。  作者: しぐれあめ
第二部 五章 ポケットに入った大冒険豚劇!!
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第十九話-1

 シルフィード国に隣接するメグナート森林王国は国土の半分以上が森に覆われた自然の豊かな国である。森には凶暴な野生動物とそれを操る獣人やエルフの集落があり、人間達は獣人と共生して生きてきた。だが、バルバトス帝国が侵攻してきてからはその平和は乱されるようになった。瞬く間に首都を占拠した帝国軍は帝国本土で必要な建築資材を確保するべく、森の番人であるエルフや獣人の許可なく豊富な森林を伐採していった。多くの獣人やエルフが帝国の暴挙に怒って戦いを挑んだが、帝国側の武力は凄まじく、返り討ちにあった多くの獣人やエルフが奴隷として帝国本土やメグナート首都に捕らわれることになった。

 帝国の暴挙はそれだけに留まらなかった。亜人狩りと称して森に残ったエルフや獣人たちを狩り始めたのである。馬で追い回し、抵抗するものは弓や槍で殺害する。その姿はさながら人間狩りだった。

そして今まさに一人の少女が帝国兵の魔の手にかかろうとしていた。





             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇           





 森の中を一人の少女が駆けていた。年の頃は10歳程度であろうか。粗末な服に足は素足、そして首元には金属の鎖がついた首輪がはめられていた。特徴的なのはその耳だ。本来なら顔の横についている耳は頭についていた。猫の耳、それは彼女がネコ科の獣人である証拠だ。

 彼女を追っているのはモヒカン頭の帝国兵達であった。馬に乗った彼らは年端もいかない少女を享楽めいた笑みを浮かべながら追い回しているのだ。幾ら獣人が並みの人間よりも脚力が優れているといっても馬に追い回されては追いつかれるのは時間の問題だった。


「ヒャッハー!早く逃げねえと殺しちまうぜ!」

「うへへへ、早く早く~急がねえと轢き殺しちまうぞ!」


 そう言ってモヒカンの一人が容赦なく少女の脚に狙いを定めて弓を射る。ふざけた見た目に反して正確な狙いで射られた弓は容赦なく彼女の太ももを穿った。激痛でバランスを崩して倒れた少女に対してモヒカンたちはハイタッチして獲物を仕留めた喜びを分かち合った。


「奴隷もいいが、定期的に血を見ねえと腕がなまっちまうぜ」

「護送中に脱走してくれてちょうどよかったな」


 モヒカンの一人がそう言って腰の剣を抜いた。もしかしなくても少女を殺す気なのだろう。目の前に迫りつつある死の恐怖に少女は目に涙を浮かべながら後ずさった。

 だが、そんな少女に対してモヒカンは容赦なく剣を振り下ろそうとした。その瞬間に何者かが光の弓を放った。正確な狙いで射られた光の矢はモヒカンの腕に突き刺さった。激痛に持っていた剣を落としたモヒカンは怒りをあらわに叫んだ。


「何者だ!」


 弓を放ったのはマサトシであった。彼はモヒカンに答えることはなく、次の光弓を放った。モヒカンは慌ててその弓を避けようとした。だが、命中寸前で弓は拡散して数えきれないほど増えた後にモヒカンの身体を突き抜けていった。


「…うわ、エグいな、もしかして殺したの、マサトシ」

「威力を弱めた魔法ダメージだから死にはしねえよ」

「そかそか、なら安心かな」


 そう言ってマサトシに話しかけたのは仮面の少女カミラこと牧瀬リノである。彼女は呪文の詠唱なしで体内の魔力を複数の炎に変換した後に容赦なく放った。目標に向かって意思があるかのように曲線を描いて飛んだ火球の群れは正確無比にモヒカンの仲間達を容赦なく火だるまにした。


「…おい、殺しがどうとかいってなかったか」

「うーん、手加減したつもりだったんだけど、カミラさんとしたことがしくじったかにゃ」

「藤堂さんに言いつけるぞ」

「え、やだ、マジでやめてよ!!洒落になんないって、それは!」


 カミラはそう言って指を弾いた。同時に火だるまになっていた男を包み込んでいた炎が一瞬にして消える。カミラにしてみれば、少女を追いかけまわした外道など殺したほうがマシだったのだろうが、それよりも晴彦からの折檻の方が恐ろしかったようである。


「わ、私の出番なかった…」


 速攻で遠距離攻撃を行った二人の仲間の背後で雛木アリスが途方に暮れた声をあげた。そんなアリスをちらりと見てからマサトシは苦笑いした。そんな矢先、マサトシの万理の魔眼が何かを捉えた。カミラが火だるまにした男の体内で何かが生まれつつある。それが危険であることを察知したマサトシは駆け足で獣人の少女を抱えると同時に二人の仲間に叫んだ。


「おい、大物が出てくるぜ!」


 マサトシが叫ぶと同時に背後にいた男の身体が膨れ上がった。見る見るうちに巨大化した男は双頭の一つ目鬼となって襲い掛かってきた。頭は二つ、手は6本の化け物である。少女を抱えて弓が使用できなくなったマサトシと一つ目鬼の間に立ったのはアリスだった。彼女は息を思い切り吸った後にスキルに命令した。


「ヌアザ、【闘神化】を解放して」

『了解。【闘神化】を解放します』


 瞬間、アリスの身体が金色に輝いた。己の身の丈を越える巨人に対して彼女は怯むことなく真っ向から挑んだ。巨人は涎をまき散らしながら容赦なく6本の腕をアリスに向けて思い切り振り下ろした。だが、その時にはすでに彼女の姿はそこにはなかった。一瞬にして一つ目鬼の上空に飛翔していたアリスは鬼の肩口に掌を添えた。触れたところが軽く光った後に爆発する。抉れた肩を抑えながら憎しみの叫びを上げる一つ目鬼に対してアリスは冷静に視線を交差させた後に挑発するように人差し指で鬼を招いた。

 その挑発行動に鬼は激怒した。アリスにしてみればマサトシや助けた女の子に注意が行かないようにしただけのつもりだったのだが、予想以上に効果的だったようである。

 6本の腕で地面を抉るように叩きつけながら鬼は迫ってきた。

 アリスはその鬼に対して怯むことなく真っ向から対峙した。鬼が叩きつける攻撃に対して自らの拳で応戦したのである。二人の拳が触れあった瞬間に凄まじい爆発が起こった。なんとアリスが受けを試みた鬼の腕が彼女の光る拳に触れた瞬間に次々と爆ぜていったのである。


 これこそが彼女が新たに獲得した『爆砕拳』である。


 闘気を宿した拳を相手の体内に流し込むことによって破壊するという、マサトシに言わせれば某暗殺拳にしか見えない技であった。あっという間に6本の腕を使い物にできなくされた一つ目鬼は痛みのせいか叫び声をあげた。同時に破裂したはずの筋細胞が収縮を開始する。それを見た瞬間にマサトシは叫んだ。


「気をつけろ、奴は体を再生させるつもりだ、その前に決着をつけろ!!」


 万理の魔眼によって映し出された光景を見たマサトシの言葉にアリスは振り向いて頷いた。そのまま振り返った後に一つ目鬼の腹にアリスが渾身の闘気を込めた掌底をした後に一つ目鬼の身体は爆散した。


「顔に似合わず相変わらずえぐい殺し方しやがる…」

「殺し方が凄まじすぎるでしょ。あの子は何を目指しているの…アリス~また血まみれになってんじゃないわよ、この子の治療が終わったら魔法で奇麗にしてあげるから…うわ、まだこっちくんな、ちょっと待ってろ!」


 口は悪いけどカミラさんは優しいなあ。そんなことを思いながらもスプラッタ映画も真っ青な血まみれの状態になってしまったとアリスは頭を掻いた。そんな彼女を見た後に揃って溜息をつきながらマサトシとカミラは獣人の少女の治療を開始した。



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