第十八話-12
ブタノ助と再会した俺は彼の口から魔族領の近況を知ることが出来た。ブタノ助達と彼の能力で作り上げた仲間モンスター軍団の尽力で魔王城近郊の凶暴なモンスター達はほぼ鎮静化させることができたのだという。その中には新たにブタノ助の仲間になったモンスターも多く存在するという事だ。
ブタノ助の勧めで仲間モンスター達に会わせてもらえることになった俺は魔王城近郊に作られたモンスター居住区で彼らの様子を見せてもらうことになった。まず彼らを見て驚いたのはその数の多さだ。犬科やネコ科の大型モンスターやサイのようなモンスター、珍しいものだとゴーレムのようなモンスターまでをブタノ助はその配下に従えていた。
「あれはサーベルタイガー、そしてあれがレッドホーンと呼ばれるモンスターです。その強固な皮膚と重量から繰り出す一撃は城壁すら簡単に突き破る力を持っています。奴らの群れに囲まれた時はそれがしも身の危険を感じました」
レッドホーンは赤い角をつけたサイのような姿をしたモンスターだった。その巨躯や鎧のように頑丈そうな皮膚はかなりの重さがありそうで、仮に突進されたとしたら【鬼神化】を使ってもやばいかもしれない。逆に味方につけると頼もしそうである。
「あの小さくてすばしっこそうな連中はなんだ」
「あれはケットシーですよ。奴らが言うには妖精の一種という事ですが、真偽は定かではありません。幻術と悪戯が得意な種族ですね」
ケットシーは二足歩行の猫のような連中だった。見た目は普通の猫くらいの大きさしかない。毛づくろいしていたり、顔を舐めていたりする様は猫そのものだ。和風でいえば猫又みたいな連中だな。
他にも驚くような生物たちをブタノ助は自らの陣営に引き入れていた。一大勢力となっていることに俺は驚きを隠せなかった。
「凄いな、これだけのモンスターを仲間にしたのか…おい、あれはまさかオーガじゃないのか」
「さすがは神様、あの者達に気づきましたか。以前戦ったオーガと同族です。かの者と同様にそれがしと戦って敗れた彼らは我が陣営に加わってくれました」
ブタノ助の奴、本当に優秀だ。聞けば俺がシュタリオンで内政に集中している間に近隣で出会うモンスター全てに戦いを挑んで破っていったのだという。
「戦いの際には神様から頂いた金砕棒が本当に役に立ちました」
「ふむ、役に立ってくれてよかったよ」」
「それと神様、それがしも新たな能力に目覚めました。【仲間を呼ぶ】という能力です」
どういう能力か尋ねてみると戦いの最中だけ自分の仲間にしたモンスターを呼び出せる能力らしい。俺の【眷属召喚】に似た力のようだな。RPGでいう戦闘中のコマンドみたいなものだろうか。仲間モンスター達は居住区に住みながら魔王城周辺の警護を行っているらしい。
「しかし、これだけの規模のモンスター達を仲間にしたら食糧が不足する問題も起きるんじゃないのか」
「ええ、当初は頭を悩ませる問題でした。ですが、この馬鍬のおかげで一気に解決することができました」
「ん?それって確か金砕棒と一緒に異界の神から授けられた武器だっけ?」
俺の記憶が正しければ、水流を操る特殊な武器だったはずだ。だが、ブタノ助に言わせるとこの馬鍬には特殊な効果があって耕した畑の作物の成長を早める効果があり、早いものであれば三日も経たずに成長しきった状態の作物が生えてくるのだという。そこで生えた作物を使って仲間モンスターや難民たちの飢えを満たすことができたという事だ。
「今ではこの国の主生産物は豊富な野菜です。畑の収穫の管理などはゴブえもんがやっています。どうにもあいつはそういう事が向いているようでして」
「ああ、戦いは向いてなさそうだもんな、あいつ」
ゴブゴブ言ってる奴の顔を思い出すと自然と顔がほころんだ。いつも逃げ回っていたから、ちょうどいいかもしれない。そんなことを思い出しながらも俺は少し真顔になってブタノ助に尋ねた。
「ブタノ助はさ、死んだ仲間モンスター達の事を覚えているか」
「ええ、それがしが不甲斐ないせいで彼らは死にました。これだけのモンスターを仲間にしても満たされないのは彼らがいないからでしょう」
「そうか…そうだよな…」
「望めるのであれば、今の力のまま、彼らの元に駆け付けて助け出してやりたい。そう思っています」
「そっか…」
俺はブタノ助に相槌を打った後に【ブラックウインドウ】を呼び出して虚数空間であるゼロスペースと繋いだ。中から出てきたのはかつて俺たちの目の前で死んだはずの仲間モンスター達の姿だった。無論ゾンビではなく、皆生きている。紅カブト以外のビッグベアやブラックハウンドたちの姿にブタノ助が言葉を失う。
「これは…神様、いったいどういうことですか」
「あいつらが死んだ過去に戻ってダミーの死体を置いて助け出した」
「…ああ!!神様!あなたはやはり神様です!!再び皆と会えるなんて…」
感極まったブタノ助はその場で泣き崩れた。そのブタノ助を心配するようにブラックハウンド達がその顔を舐めて慰めているようだった。俺はブタノ助の肩に手を置いて声をかけた。
「今度は死なせないようにしようぜ。こいつらのためにも」
ブタノ助は泣きながら何度も頷いた。ずっと心残りだったことが片付いて俺の目からも涙が出そうになったが、敢えて堪えた。簡単に人前で泣くようでは見ている人間に不安を与えかねないからな。何せ、俺はブタノ助の師匠みたいな存在だ。なら簡単に涙を見せるわけにはいかない。そう思いながらも涙が自然と出てきてしまい、俺はそっぽを向いて涙を我慢した。




