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第十八話-11

長らくお待たせしました。無事に帰ってきたので連載を再開します。待っててくれた人がいたなら嬉しいです。

 司馬さんがマサトシの事を鍛えることになったので一旦、俺は魔族の事を調べることに没頭することにした。とはいってもシュタリオン国にある資料だけでは圧倒的に情報が足りない。困り果てた俺はラードナーのところに話を聞きに行くことにした。

 飛翔呪文で魔族領であるゼーフィスにたどり着いた俺は謁見の間にいるであろうラードナーの元へ向かった。ラードナーはいつものように水晶球で外部の様子を観察しているようだった。


「晴彦か、何か聞きたいことがあるようだな」

「お見通しか、なら話は早い。ラードナー、魔族について知っていることを教えてくれ」

「ふむ、ついに魔族の存在にたどり着いたか」


 ラードナーは何かを思い出すかのように思案しだした後に顎髭を触り始めた。そして語りだした。

魔族というのは魔界と呼ばれる世界からやってくる悪魔に近い種族らしい。彼らは人間より優れた強靭な躰と優れた頭脳を持った種族であり、人を貶めることを何よりの喜びとしているのだという。

 魔界は人間界の下に位置するのだが、世界を分ける結界によって互いの世界の行き来ができないように封印を施されていた。だが、互いの世界の交流が断絶していた長い年月の中で事件が起こった。

 魔界を統べる王【魔神王】が強大な魔力で人間界と魔界を繋ぐゲートを作成して大侵攻を開始したのだ。人間を襲う魔族の軍勢と戦うために多くの人間達が戦いに駆り出された。だが、魔族の力は強大で多くの人間が激しく惨たらしい戦争の犠牲になった。

 劣勢に陥った人間達だったが、希望は失われていなかった。異界よりもたらされた12神器とそれを操る勇者達の活躍によって魔神王を退かせて魔界へのゲートを封印することに成功したのである。ゲートを封じられて行き場がなくなった残りの魔族も人間達によって葬られたという。一度は根絶やしになったかと思われた魔族であったが、その最期の魔族がある呪いをかけた。世界中の人々に自分達の存在のいくつかを忘れさせる呪いをかけたのである。

 魔族の詳細を忘れたが、その恐怖だけは頭の片隅に残った人々に魔族の恐怖を訴えた国があった。バルバトス帝国である。帝国は森の賢者である魔王ラードナーが治める国ゼーフィスを魔族の巣窟であると訴えて攻撃を開始した。

 ラードナーは魔神王が侵攻を開始する前の時代に人間界に渡ってきた魔族でありながら、亜人や人間を大切にする魔族領を作ってきた王であった。魔族が作った国ゆえに彼の国は魔族領と呼ばれ、彼自身も勇者の天敵である『魔王』の称号で呼ばれていた。だが、彼自身には人間に敵対するつもり等は毛頭なかった。自国の民の繁栄、それだけを望んでいたのだ。だからこそラードナーは事の真意を探るためにバルバトス帝国に使者を送った。だが、帝国の返答は非情なものであった。使者の言葉に耳を貸さないばかりか、死者の首を刎ねてラードナーの元に送りつけたのだ。

 この時ばかりは温厚な性格のラードナーも激怒したという。激情のままに帝国に向かおうとしたラードナーを縛り付けたのはディーファスの世界管理神による【呪縛】であった。

 自由に身動きのできなくなった王のいる魔族領に侵攻するべく帝国は動き出した。

 ラードナーは近隣国に帝国による冤罪のねつ造を訴えたが、魔族である彼の言葉を聞き入れる国はなかった。帝国は魔神獣や魔導兵といった凶暴極まりない兵器によってゼーフィスを攻撃し始めた。ラードナーは特殊能力におである【大障壁】を使用して自国と他国の国境に人間の入り込めない国境を作り上げて今に至ったのだという。


「まさか、あんたも魔族だったとはな」

「ああ、だが、私は彼らの中でも異端でな。普通の魔族は人間の憎悪や妬み、悲しみといった感情を糧にするが、私は喜びなどの感情を糧するのだ。だから魔界では生活することが困難だったため、人間界にやってきたのだ」


 愛と真実が友達のヒーローみたいな魔王だな、ラードナー。俺がそう言うと、なんだそれは、と笑われた。二人して苦笑いした後にラードナーは続けた。


「恐らくは帝国の中枢には魔族が入り込んでいるはずだ」

「ああ、俺もその結論に至った。だからこそ知りたいんだ、魔族の弱点を」

「魔族の弱点か。魔法防御能力に優れる魔族には通常の呪文は効きにくい。【光属性】や【神聖属性】の魔法や魔法武器、あとは【古代魔法】や【竜魔法】などを使ったほうが効果的だ」


 竜魔法はともかく、神聖属性は持っていないぞ。俺は。そう話すとラードナーに笑われた。


「お前が使う【雷神覚醒】はそもそも雷属性と神聖属性の混合だろう」

「あ、そうだったのか」

「自覚もなく使っていたとは恐ろしい男だ」


 確かに神の力だもんな。納得した俺だったが、俺以外の仲間達に魔族に対抗する手段を持っているのは数が少ないかもしれない。すぐ思いつくのは神をも殺す威力の魔剣を持つ司馬さん、そして竜王と竜族くらいか。


「参ったな、思った以上に戦えそうな手段を持っている者が少ないかもしれない」


 そう呟くとラードナーが何かを思い出したようだった。


「そういえば、お前に縁のあるシュタリオン王家には古代魔法を使用することができる【狼神杖ヴァナルガンド】が伝わっているはずだが…」

「初耳だぞ、それは」


 そんなものがあの国に眠っているというのだろうか。宝物庫にもそれらしい杖は見当たらなかったはずだぞ。疑問を持った俺は杖の行方を捜すべくラードナーに礼を言ってから謁見の間を後にした。





             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                 






 謁見の間を後にした俺はブタノ助の元に向かった。そろそろシュタリオンで俺の仕事を手伝ってもらおうと思ったからだ。実力的にも申し分ないブタノ助は俺の優秀な右腕になる男だ。そんなわけで城内にブタノ助の姿を探した俺は信じられない光景を目にした。

 小さな女の子がブタノ助とくっころさんと一緒に遊んでいたのだ。見た目は人間に近いが、その耳は間違いなくブタノ助のものと同じ豚耳だった。どういうことだ。まさかとは思うが、あれは彼らの子供という事なのだろうか。俺の姿に気づいたブタノ助は嬉しそうに手を振って近づいてきた。


「神様!」

「お、おう、ブタノ助。元気そうで何より。ところでその子は…」

「お恥ずかしい話ですが、私の娘のアリアです」

「成長早いんだね…」

「オークは早熟なのですよ。この子も半分はオークの血を引いていますから身体が育つのは人間の何倍も早いのです」


 神様、びっくりだよ。アリアと名付けられたブタノ助の子は母親であるくっころさんの影に隠れてしまった。どうやら俺に怯えているらしい。くっころさん、もといユリアさんは苦笑しながら俺に会釈をしてくれた。


「こら、アリア、失礼だろう。申し訳ありません、神様」

「ああ、いいんだ、いいんだ、気にしないで」


 ちっとも気にしていない。ブタノ助が俺を追い越して幸せな家庭を築いているなんて羨ましいわけが…羨ましいわけが…羨ましいに決まってんだろうが!!どちくしょうが!!

 思わず白いハンカチを噛み締めて地団駄踏みながら俺はブタノ助のリア充ぶりに嫉妬した。



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