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第十八話-10

 肉の塊と化したマサトシをダイエットさせるのは困難を極めた。なにせ自分で動くことができないのである。助けるのがもう少し早ければどうにかできたのだが、ここまで行くと手の施しようがない。諦めてアイテムボックスの中に入れてなかったことにしようかという邪悪な考えが頭の隅をよぎったが、よくよく考えてみるとインフィニティの思考が混戦しているせいだと分かった。こいつ、わざとやっているのか。

 どうにかできないか考えた俺はマサトシのステータス表示を見ておかしなことに気づいた。状態を表す項目が【肥満エネルギ―蓄積】というものになっていたのである。

 これ、確か新しく獲得したスキルだったよな。なんでマサトシがこの状態になっているのだろう。疑問を感じたが、この状態ならば【肥満エネルギ―解放】と【肥満エネルギ―転化】をうまく使えばマサトシの肥満状態を回復できるのではないかと考えた俺は早速、マサトシの脂肪に手を突っ込んで反対の手に脂肪エネルギーが集まってくるようにエネルギー転化を行った。おお、凄まじいエネルギーの奔流が手の中に集まってくる。例えていうならば手の中に小型の太陽が現れたような凄まじい熱さだ。若干やり過ぎな力なんじゃないのか、これは。というか制御しきるのも困難だ。あっという間に俺の掌には小型の太陽ともいえる大火球が生まれ出ようとしていた。


 やばい、扱いきれない。そう思った俺は大火球を抱えたまま、城の頭上まで飛翔した。障害物を避けて外に出る暇はなかった。床を突き破って上に向かっていく俺の姿を見たシュタリオン城の人々が腰を抜かしていたが、後で謝るしかない。


「ごめんなさい!後で直しますから許してください!」


 仕方がないだろう。だってこれを放っておいた方が大惨事になるのは目に見えていたのだから。城の上まで上がった俺は天に向かって【肥満エネルギ―解放】を放った。


ドゴオオオオオオオオオオオン!!!


 凄まじい爆音と熱量を放ちながら肥満エネルギーは爆発した。どういう威力だ、あれは。並みの攻撃魔法の比ではない。あれは色々と駄目な奴だ。茫然となった俺は自分の手が小刻みに震えていることに気づいた。このスキルは使っては駄目だ。何より俺が扱いきれない。

 意気消沈しながら俺はマサトシの元に戻った。全ての脂肪を吸収されて干からびたミイラのようになったマサトシは横たわっていた。俺が慌てて助け起こすと干からびた唇でこういった。


「…水、水くだしゃい…」

「お、おう、すぐに用意するわ」


 こうしてマサトシは無事に肥満体質から抜け出すことができた。





           ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇              





 どうも。晴彦さんの仲間のマサトシと言います。皆さんとこうして話すのは初めての事だと思います。今日は俺の兄貴分である藤堂晴彦さんについて語らせていただけるという事で張り切って述べさせていただきます。


 えー…、それでは。

 頭おかしいよ、あの人!何なんだよ、あの極悪なまでピーキーなスキルは。どれを扱ってもマイナス要素の方が強すぎるじゃないか!

 お花畑が見えることなんてざらだぞ、あの人、良く今まで死ななかったな。

今回の肉の壁騒動で新しく【神速】【フルアクセル】【肉体操作】を獲得したことはありがたいし感謝をしているが、今回の一件で懲りた。兄貴のスキルを軽々しく使用するのは絶対に避けたいのが正直なところだ。

 あれ以来、アリスの俺を見る目がなんだか残念なものを見るような、それでいて少し距離を置かれたような形になってしまって非常に気まずい。それを見てカミラの奴は大笑いしやがるし、何だってんだ。俺は色物ではないぞ。

 兄貴に頼って強くなろうとした俺が馬鹿だった。今度は司馬さんに頼ろう。見た目が怖いんで敬遠していたが、あの人の方が兄貴よりまともに鍛えてくれるはずだ。

 そんなわけで本当に怖い思いをしました。藤堂晴彦の弟分のマサトシでした。





          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇               





 こうして心にトラウマを植え込まれたマサトシが司馬に教えを乞うようになるのだが、ある意味では晴彦よりもスパルタすぎる指導である司馬が、寝るとき以外は筋トレという恐ろしいメニューをマサトシにやらせることになるのだが、それは、また別の話である。



異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なく痩せることにした』の読者の皆様、平素は拙作を読みに来ていただいてありがとうございます。作者のしぐれあめです。誠に勝手ながら本日7/10~7/12までPCが使用できない環境の場所に赴くことになり連載を休載いたします。戻ってきたらまた更新していきますので、ご了承くださいますようにお願いします。

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