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第十八話-9

 エビぞりになりながら地獄の筋肉痛に耐えているマサトシに俺は回復魔法をかけてやった。疲労回復効果などは薄いので気休め程度のものだったが、何とかマサトシは起き上がれるくらいには回復した。


「うう、酷い目にあった」

「鍛え方が足りないじゃないのか。毎日プロテイン呑んでいるか」

「飲んでるわけないじゃないですか、俺は格闘戦が得意な兄貴とは違って遠距離攻撃が得意なんですから」

「そういうのは言い訳というんだ。第一、お前は魂喰らいとの戦いで俺が見せたスキルに頼らない戦い方がしたいといっていたじゃないか」

「もう少しお手柔らかにできませんかね」

「分かった、無理に【鬼神化】を使わせるのは諦めよう」


 そう考えるとどう鍛えるのがいいのか迷ってしまう。腕を組んで思案しているとマサトシが尋ねてきた。


「聞くのが怖いんですが、兄貴のスキルでほかにおススメはないんですかね」

「千手観音とかどうだ」

「アリスから聞きましたよ、それ。確か手が体の内部から生えてくるやつですよね。そう言うスプラッタ系でない奴でお願いします」

「そう言われてもなあ」


 どうするべきだろうか。困ってしまった俺はマサトシにどういう戦い方がしたいのか尋ねてみた。


「そうっすね、敵の攻撃を無効化したり、自分の攻撃で相手の強化呪文を消したりできたら楽しいですよね」

「そういうのだと【物理吸収】と【強制終了】というスキルがあるんだが」

「え!?あるんすか、そういうスキル!兄貴も人が悪いなあ。だったら試しに貸してくれませんか」

「うん、いいよ」


 マサトシも乗り気になったので俺は彼に二つのスキルを貸与することにした。スキルを貸与されたマサトシは恐る恐る自分の腕をナイフで軽く切ってみた。その瞬間にダメージが吸収されたことを確認して驚いていた。


「すげえ、これがあれば兄貴の作ったデスダンジョンに行っても無敵じゃないですか!ちょっとレベル上げにいっていいですか」

「うん、構わないけど。お前、変わり身早すぎるだろう」

「ちょっと行って来るだけですってば!」


 いうが早いかマサトシはサルンガを片手にダンジョンに向かって走っていった。気に入ってくれて何よりだ。だが、そんな俺にインフィニティが不穏なことを言い出した。


『何か大事なことを伝え忘れてる気がするんですよね』

「気のせいじゃないのか」


 そんなに気にすることはないだろう。そう思って送り出した俺は後になってから自分の浅はかさを呪うことになった。





             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇               




 

 マサトシと別れてから自室で魔族に関する資料を集めるために古い文献を読み漁っていた。どのくらいの時間が経っただろうか。集中していた俺の時間は慌てふためいた何者かの侵入によって中断させられた。それが牧瀬リノことカミラであることに気づいた俺は怪訝な顔で彼女を迎え入れた。


「カミラ、入ってくるときはあれほどノックをしろと言っただろう」

「落ち着いてる場合じゃないよ、師匠!マサトシの奴が大変なんだ、モンスターの群れに囲まれて…ちくしょう、あいつら、動けないマサトシに何度も…」

「なんだと!」


 カミラの報告に焦った俺は椅子から立ち上がった。どういうことだ。物理吸収があればたとえ首刈り兎が相手でも死ぬことはないはずだ。いや、死んだら迷宮の入り口に転送されるんだから死ぬことはないはずなんだ。何か予想外の事態が起こっているというのだろうか。

 カミラに引っ張られるようにして俺はダンジョンの入り口に向かって走った。

 入り口の前では今にも泣きそうなアリスが待っていた。


「藤堂さん…マサトシ君が、ひっく、マサトシ君が…私を庇って…」

「泣いていては分からないよ、アリス。マサトシがどうしたんだ」


 アリスは泣きながら迷宮の入り口の扉を指さした。あそこにマサトシがいるというのか。俺は緊張しながら扉を開けた。そして言葉を失った。

 そこには迷宮の通路を塞ぐほど肥満化したマサトシがいたからだ。何だ、これ。どうなっているんだ。


「ああにいいきいい、ブヒい…たあすけてええええ…」


 ぶよんぶよんと音を立てながら肉の壁の間からでぶでぶになったマサトシが顔を出した。体がつっかえて壁から動けないようである。


『あ、そうか。物理吸収で吸収したエネルギーは体重になって還元されるのを忘れてました』

「やべっ!!」


 尚も迷宮の向こう側ではシャキーンシャキーンという小気味いい音が聞こえている。それだけではなく、「きょきょきょきょきょ!」という奇声も聞こえているので真・千手観音まで攻撃に加わっているのだろう。恐らくは首刈り兎の群れと真・千手観音が攻撃をしているのだろう。地獄絵図だ。ヤバいと思った俺は素早くマサトシの救助に当たることにしたのだった。





              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇              





 マサトシの救助を終えてから俺は二人の少女から状況を聞き出した。起こった出来事の内容を大まかに話すと以下の通りである。いつもは自分から言い出さない迷宮での実戦訓練に行きたいとマサトシが言い出したので二人が付き添ったのだという。だが、迷宮に入った途端にランダムで出現する真・千手観音と遭遇してしまった。逃げようとするアリスとカミラを守るためにマサトシはその身を盾にして立ち塞がったのだという。そこまではカッコよかったのだが、怒り狂った真・千手観音は容赦なく攻撃をしてきた。マサトシは【物理吸収】スキルで応戦したのだが、戦いが長期化するにつれて彼の身体に変化が起き始めた。目に見えて太り出したのである。気づいた時にはもう手遅れだった。肥満化したことで動きが緩慢化したマサトシに対しても真・千手観音は容赦なく攻撃を加え続けた。肉の壁になって真・千手観音の攻撃を止める術を持たないカミラは急いで俺に助けを求めるために走ってきたのだ。


『これは…推定体重が400kgを突破してますね。ダイエットを行う必要があります』

「…ブヒ、兄貴のスキルでなんとかなんないんすか」

「そうしてやりたいのは山々だが、それは難しいだろう。俺も地道に痩せるしかなかったからさ。ダイエットなら手伝うからさ。一緒に頑張ろうよ」

「…嘘でしょ、ぶひいいいん!」


 泣くな。マサトシ。これだけ太れば痩せた時の克服スキルで【神速】や【クロックアップ】辺りを獲得できるからさ。そう考えた時点で自分もかなり毒されてきているのに気付いたが、敢えて触れないことにした。


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