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第十八話-7

 次の日、竜達との盟友となる契約の証として竜王を眷属とする契約を結んだ俺はその足でシュタリオンに戻った。戻ってきた俺達を迎えたシェーラは一緒にやってきた竜達を見るなり気絶しそうになったが、侍女に支えられて何とか持ち直したようだった。


「どこに行ったかと思っていたら、いったいこの竜達はなんですか、ハル」

「うん、新しい仲間だよ」

「新しい仲間って…」

「皆、彼女がこの国の王女のシェーラだよ。仲良くしてやってくれ」

『よろしくお願いしやす、姐さん』


 集まった竜達はそう言ってシェーラに頭を下げた。任侠の人たちみたいな挨拶をする竜達だ。というのも一緒にやってきた竜達は竜の楽園の中でも義侠心に溢れた若竜で、島の危機を救った俺を慕ってついてきた連中なのだ。熱狂的な彼らは竜による親衛隊を作るのだと息巻いている。その数10匹。頼もしい限りである。竜王は島にいる竜達全てを派遣したかったようだが、あまりに大量の竜が大挙しても人々を怖がらせるだけだと自重していただいた。まあ、いざとなったら全ての竜を従えて召喚できる竜王を呼び出すことができるので問題はないだろう。そんなわけで頼もしい仲間たちが仲間として加わったのだった。

 とはいっても竜達にどこにいてもらうかが問題になった。いっそワールドイーターさんのようにゼロスペースにいてもらおうかと思ったが、話し合いの結果、彼らには国境周辺に巣を作って上空からの侵入者が来ないかどうか哨戒を行ってもらうことになった。怪しい奴が来たら俺に念話で知らせてくれるそうである。そんなわけで竜達はシュタリオン国境付近の山脈に住むことになったのである。

 さて、竜達が国境付近に向かって飛び去ったのを確認した俺はシュタリオン国王に事の詳細を伝えるために謁見の間に向かった。王はいつものように穏やかな笑みを浮かべて迎えてくれたが、流石に竜王と盟約を結んだことについては仰天していた。


「いつものことながら君には本当に驚かされてばかりだ。どうやって気難しい竜達の信頼を勝ち得たのかね」

「まあ、竜王の呪いを解いた功績が大きいと思うんですが、後の理由はこいつの攻撃を止めたことですかね」


 俺はそう言ってアイテムボックスから一本の弓を取り出した。それはあの光の矢の攻撃を撃退した後に俺の前に現れた『神弓サルンガ』である。何ゆえ俺の前に現れたのか分からなかったために鑑定したところ、持ち主である魔族が死んだことで所有権が移ったために現た。


「晴彦よ、その弓を見せてくれぬか」


 王の血相が変わっている。どうしたというのか。若干驚かされながらも俺は弓を渡した。王は弓を手に取って暫く眺めた後に手で顔を覆いながら深い溜息をついた。


「何という事だ。この弓がいまだ使われていたとは…」

「この弓の持ち主を知っているのですか」

「ああ、私を再起不能にした魔族シェイドの愛用していた神弓だ」

「シェイド?竜王が同じ名を口にしていたような」


 よくある名ではないような気がする。俺が首を傾げていると王はシェイドとの因縁を話し始めた。元々、国王は現役勇者として魔族と戦いつつ国を治めていた。現在ではそんな面影がないが、当時のシュタリオン王と王妃の二人は上位魔族と引けを取らない凄腕の冒険者であったのだという。だが、戦いが激化していく中で二人は魔族シェイドと出会う。魔神の力の欠片を秘めたシェイドとその軍勢の力は凄まじく、王は両手が自由に動かなくなる呪いを受けてながら二度と勇者としては戦えなくなり、迫りくる魔族の軍勢から国を守るために王妃は超広範囲の自爆魔法を使ってシェイドを葬ったのだという。


「その時にシェイドが使っていた弓がこれだ。まさか残っていたとはな」

「ひょっとしたらその時に持ち主が死んで誰かに引き継がれたのかもしれないな」

『マスター、鑑定スキルを使えば所有者の映像を出すことができますよ』


 インフィニティの言葉に頷いた俺は鑑定スキル∞の能力であるサイコメトリングで所有者の画像を映し出した。ホログラフのような映像を見た王は絶句していた。


「何という事だ。こ奴は間違いなくシェイドだ。人間の姿に偽装しているが、間違いなくあの男だ」

『鑑定の結果、この男は帝国に仕える魔神将の一人であるという結果が出ました』

「どういうことだ、魔族が人間に化けているというのか」


 インフィニティの鑑定結果に俺は凄まじく嫌な予感がした。帝国に魔族が入り込んでいるというのなら、それが一体ではある保証はどこにもないぞ。組織的に魔族に操られている可能性があるんじゃないのか。俺の疑念にシュタリオン王は険しい表情をした。


「元々、帝国は魔族のゲートを封じた8大勇者の一人である初代皇帝が封印を守るために築き上げた要塞都市を中心に作り出した国だ。8大勇者の武具によって施された封印は簡単に解くことはできない。だが、その国に魔族が入り込んでいたとなると…」


 王の言いたいことは俺にも理解できた。封印を守るために作り上げた都市に魔族が入り込んでいたとすれば、その封印をどうにかしようとしている可能性がある。それを考えた時にとある疑念が湧いた。


「…帝国は勇者を魔神獣に変えていた。それは何かよからぬことを考えていたからじゃないですか」

「その可能性は十分にあり得るな」


 王の言葉に俺は嫌な予感がした。人間の味方である勇者を人間の敵に変えること、それを行って勇者の口減らしを行おうとしているのではないのか。それを考えていた時に王が何かに気づいた。


「そうか!魔族の狙いが分かったぞ。八大武器を継承するに値する勇者の血と魂を注ぐことで封印の力を弱めることができるのだ」

「まさか、奴らの狙いは勇者を葬り、封印を弱めることということですか」


 俺の問いにシュタリオンは神妙な顔で頷いた。





            ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                    





 そのやり取りを天上界から見ていた地球の世界管理神アイリスは言葉を失っていた。どういうことだ。ディーファスの世界管理神が後ろ盾をしている帝国に魔族が入り込んでいるというのか。アイリスはディーファスの世界管理神に向かって険しい言葉を投げかけた。


「どういうことなの、あんた、あれを知っていたの」

「ああ。私が指示したのだから知っているのは当たり前だろう。それがどうしたのか?」


 そう答えるディーファスの世界管理神は白目がない黒目だけの眼球となった異様な目をしていた。その瞬間にアイリスは理解した。こいつ、堕天している。堕天とは神が邪悪化して世界神の敵に回ることである。堕天した神は世界と全ての清き生物を呪い、世界を滅ぼそうと画策する。

 一刻も早く、世界創造神に知らせないと。そう思った瞬間にアイリスは石化していた。


「気づくのが少し遅かったな」


そう言いながらディーファスの世界神はアイリスの石像を眺めた後に邪悪な笑いを浮かべた。だがすぐに様子がおかしいことに気づいた。歩みだそうとした自分の足が動かないのだ。その時にはじめてディーファス神は自分もアイリスに石化の術をかけられていることを知った。


「馬鹿な、神がお互いにこんなことをすれば解呪など出来なくなるだろう」

『ふふ、ざまあ…みろ…あとは頼んだわよ…藤堂晴彦…』


こうして二柱の世界管理神は相対する石像となって神界に留まることになったのだった。 

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