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3-5(P22)

次の日の早朝に俺はシェーラと共にダイエットのためのウォーキングを行おうとアパートの前で準備運動をしていた。とはいっても始めてからまだ数日である。まだ慣れていないせいなのかそれとも睡眠不足と前日の騒ぎの疲れなのか、俺は大欠伸をしてしまっていた。それを見たシェーラが手を抑えて楽しそうに含み笑いをする。そんな彼女の様子に照れ笑いを返すとタイミングよく木の枝から地面に降りてきた小鳥の囀る声が聞こえてきた。うむ。今日も爽やかな良い朝だ。

インフィニティさんが言うにはウォ―キングは朝食を食べる前の空腹な時と夕飯前の二回に分けてやるのが一番脂肪燃焼にいいらしい。朝の散歩というと年寄り連中の中にはよくやっている人もいるようだが、なんでも脂肪燃焼の効果が出てくるのは始めてから20分程度すぎてかららしい。その準備段階を通り過ぎないと脂肪は燃焼していかないらしく、逆に言えばそこからが脂肪を燃焼させるボーナスタイムになるのだ。ゆえの一時間である。ウォーキングは他の激しい有酸素運動に比べて糖分よりも脂肪を燃焼しやすい。本来の消費のメカニズムとしては最初に体で溜め込んだ糖分が消費されてその後に脂肪が燃焼していくのが、俺たちが行っている低糖質ダイエットはそもそも糖質制限を行うことによって体の中に糖分を溜め込まないように促す。だから緩い運動のウォーキングと低糖質ダイエットの組み合わせは非常に相性がいいと言える。多分そこまで計算しているんだろうなと考えると俺のサポートを行うインフィニティさんという鑑定スキルは頼りになると共に末恐ろしいと感じた。


『私としてはこれだけ疑いもなくメニューをこなすマスターの素直さの方が末恐ろしいですがね。』


え?なんか言ったか?俺がそう尋ねるとインフィニティさんは何でもありませんと答えた。ふむ、変な奴だ。そんなことを思いながら俺はゆっくりと歩みを進めた。早朝のウォーキングを行っている年寄りたちは思ったより多く、すれ違った瞬間に挨拶をしてくる人も少なくなかった。俺一人なら視線を逸らしてしまうのだが、シェーラがいたことでついこちらも会釈をしてしまう。もっとも見知らぬ人に挨拶をする元気よく挨拶をする勇気はなくてモゴモゴと挨拶の言葉を口の中で呟くだけだったが。言葉が分からないはずのシェーラの方が片言の日本語で「コニチワ」と挨拶をしている様子を見ているとなんだかコミュ障な自分が恥ずかしくなった。だからウォーキングが終わるころには俺もやけくそのように大きな声であいさつをするようになっていた。




                  ◆◇◆◇◆◇          




荒い息をしながらアパートの自分の部屋に戻ると俺は疲れ切ってその場にへたりこんだ。一時間って結構つらいのな。体重もあるせいか結構膝に負担がかかっているぞ。そんな俺の近くで荒い息をしながらシェーラは微笑んだ。


「ハル、お疲れ様です。」

「ああ、シェーラは大丈夫なの?」

「ええ、こう見えて歩くのは得意なんですよ。」

「凄いな、俺は駄目だ。膝がガクガク震えているよ。」

「ふふふ…。」


俺の様子が面白かったのだろうか。シェーラは楽しそうに微笑んだ。そんな様子が不思議だったので俺は尋ねてみた。


「どうかした?」

「いえ、ハルはだいぶ変わったなと思いまして。」

「そ、そうかな。自分ではよく分からないけど。」

「前より明るくなりましたよ。」

「そうかな。」

「そうですよ。いつも見ている私が言うんです。間違いありません。」

そう言いきってこちらを見るシェーラはなんだかとても嬉しそうだった。何が嬉しいのかよく分からないな。俺がそう思っているとインフィニティさんがツッコミをいれてきた。


『マスターは私が人間の機微に疎いと言いましたが、シェーラ姫の様子を見て何も気づかないとしたらマスターの鈍さも相当なものです。』

「どういうことだよ。」

『何でもありません。』


どこか呆れて溜息をつく様子を見せたインフィニティさんの様子に首を傾げながら俺は吹き出る汗をタオルで拭った。




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