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異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なくやせることにした。  作者: しぐれあめ
第二部 三章 早くやせないと星が死んでしまう。
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第十七話-15

 その頃、俺は迷宮の最深部で司馬さん達の活躍を遠見の水晶球で確認していた。ちなみに迷宮の最深部は普通の空間ではなく、宇宙空間と同様な広大な空間を作り上げている。俺の居住スペースには畳20畳程度の大理石の床が存在するのだが、それ以外は宇宙空間に浮かんでいるような状態になっている。イメージするのはRPGのラスボスと戦う異次元空間である。ちなみにその周囲にはラスボスである巨大生物ワールドイーターさんが回遊している状態である。

 自分で作ってなんだが随分ぶっ飛んだラスボスルームを作り上げたものである。

 さっきもマサトシが首チョンパされた時にバランス調整を間違えたかなと反省したのだが、あれはまだ序の口に過ぎない。地下一階から二階は捕獲した首狩り兎を大量に放流しているし、地下三階からはそれに加えて人食い豚であるトントンがエンカウントされる仕組みになっている。ちなみにトントンは単細胞生物のように分裂することで数を増やす超生物だ。地下五階に降りると自動的に上り階段は消滅して東京ドーム一個分の広さの広間にトントンと首狩り兎が大量に存在するモンスターハウスの罠が仕掛けられている。

 地下6階からはボス戦が続き、最初にデモンズスライム、7階でブラック晴彦、地下八階にはエルやんことエルダーリッチと大量のアンデッドがお出迎えする仕様になっている。地下9階は俺のスキルをふんだんに使用した【真・千手観音】がお出迎えしてくれるようになっている。ワールドイーターさんの体内に潜んでいたヒヒイロカネという特殊な神の合金で作っているために半端な攻撃では傷一つつけられない。なんでもヒヒイロカネは司馬さんの鎧兜にも使われている金属だそうであるので、ダインスレイブとの戦いが楽しみである。

 地下十階は【雷神覚醒】した俺とワールドイーターさんが満を持して登場となるわけである。すでにいつでも来ても応戦できるように魔王が身につけているような角つき兜と漆黒のマントを身につけている。傍らには魔王の秘書に扮したインフィニティさんが控えている。

 むう、いつでも来い、司馬さん。貴方がどのようにこの階層にたどり着くかが楽しみだが、この藤堂晴彦、全力でお相手しようではないか。


 ふははははははは!!!げぇほ、げほげほ!!


  普段しないような高笑いをしてみたら途中で唾が器官に入って激しくむせ返ってしまった。気の毒そうにこちらを見るインフィニティに背中をさすられてしまったが、気にしてはいけない。さあ、司馬さん、早く来るんだ!





               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                 





 頭がおかしいんじゃないか、あの野郎。

 司馬は迷宮の入り口で顔面蒼白になりながら迷宮の門を睨みつけた。その周囲には三人の若者が意気消沈の状態で体操座りになりながら、ぶつぶつと何かを唱えていた。


「…兎怖い、兎怖い、兎怖い……」

「…ぶたさん、怖い…ぶたさん、怖い…ぶたさん、怖い…」

「千手観音怖い…千手観音怖い…千手観音怖い…」


 うずくまっているのは勿論マサトシ、カミラ、アリスの三人である。

 三人共に見事なまでにトラウマを植え付けられていた。まず初見で兎によって首を刈られたマサトシは兎恐怖症になった。次いでカミラが豚にやられた。

 「ぼくトントン」と可愛らしく近づいてきた豚はカミラの足元にすり寄った後に彼女の身体以上に口を開いて彼女を丸呑みした。シャグリという咀嚼音の後に残ったのは血が噴き出る足首だけである。そんなブタと兎が大量に繁殖しているモンスターハウスも殺傷能力が強すぎるし、それ以降の階層の自重ができていないボスたちも洒落にならなかった。


特に恐ろしかったのは晴彦そっくりのボスの首を切り裂くように床下から突き出てきた千手観音だ。


 あれは多分壊れている。こちらの攻撃が全く効かない上に鋭すぎる剣を持った大量の腕で攻撃してきた化け物にアリスが串刺しにされた。怒り狂った司馬がダインスレイブを召喚して応戦したが、それでもお互いの首を切り裂いた相討ちにしかできなかった。気づけば迷宮の入り口の門の前にいた訳である。


「おい、お前ら、大丈夫か」

「…兎怖い、兎怖い、兎怖い……」

「…ぶたさん、怖い…ぶたさん、怖い…ぶたさん、怖い…」

「千手観音怖い…千手観音怖い…千手観音怖い…」

「駄目だ、こりゃ」


 司馬はそう言ってマサトシたちを無理やり立ち上がらせるとその場から立ち去っていった。あの迷宮はシャレにならない。今度晴彦の顔を見たらぶん殴ってやる。心の中でお前に負けた訳ではないと口ずさみながら司馬は地下を後にした。





             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇               





 それから8時間後。謎の宇宙空間で司馬を待つ晴彦は床に横になって眠っていた。待ち疲れたのだろう。その眼にはほんのりと涙の跡がついていた。


「司馬さん、なんで来ないの…むにゃむにゃ…」

 

 その晴彦を哀れに思ったインフィニティが風邪を引かないように新聞紙をかけてやる。せめて毛布を掛けてやれと思える行動だったが、それが彼女にできる精一杯の優しさだった。

 こうして初めての晴彦のダンジョンづくりはバランス設定の崩壊という欠陥と多数のトラウマを生み出して派手に失敗したのだった。



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