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異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なくやせることにした。  作者: しぐれあめ
第二部 三章 早くやせないと星が死んでしまう。
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第十七話-10

 グングニルを武器として操れるようになった俺はリノを伴ってディーファスへ向かうことにした。アパートに戻るとシェーラが出迎えてくれた。彼女は俺が仮面の少女を伴って戻ってきたことに驚いていたが、事情を説明すると納得してくれた。


「なるほど、彼女は魂喰らいの犠牲者の少女なのですね」

「あんたが師匠の恋人のシェーラさん?やっぱ奇麗な顔してるなあ」

「お前、馬鹿なこと言うな!」

「あ、あの、私とハルはそんな関係じゃありませんよ!」


 二人して顔を真っ赤にして抗議したのだが、リノはそれを楽しそうに眺めるばかりだ。クソ、こいつ、もう一度トネリコに吊るしてやろうか。


「ごめんごめん、師匠も怒らないでよ。まあ、あたしはこっちの世界では死んだことになってて生きてると都合が悪いし、身寄りもいないから異世界に一緒に連れて行ってもらうことになったんだ」

「そう…なんですか」

「そういうわけだからさ。シェーラ、異世界に繫がるゲートを開いてくれないか」

「あ、はい。分かりました。少し準備をさせてください」


 シェーラは慌てて自分の部屋に荷物を取りに行った。そんな彼女を微笑ましく眺めているとリノが声をかけてきた。


「いい子そうじゃん。師匠はもう手を出したの?」

「何言ってんだよ。出してるわけがないだろう」

「意外と生真面目だね。女子高生を樹に吊るして談笑する癖に」

「うるさいな。そういうのとは話が別なの」


 そんなことを話していると着替えを終えたシェーラが戻ってきた。その背には大きなバックパックが背負われている。何をそんなに持っていくつもりか分からないが、結構な重量がありそうだ。シェーラはバックパックを下すと意気揚々と俺の方を見た。


「すぐにゲートを開く準備をします。とはいっても詠唱の時間で半日は必要ですが」

『あ、そんなに時間は必要ないです』


 そう言って俺の身体からインフィニティさんが這い出してきた。その様子を見てリノが嘆息する。


「何度見ても慣れないなあ、師匠の身体から女の人が出てくるのは」

「よかった、リノさんはまともな感覚の持ち主なんですね」

「うるさいよ、君達。ところでインフィニティ、詠唱が必要ないってどういうことだ」

「私の推測とシュミレーションが正しければ、の話です。まず確認なんですがシェーラが前に行った時に長時間の詠唱が必要だったのはゲートを開くためではなく、不安定なゲートを安定化させるために必要なものだったはずです。違いますか」

「あ、はい。そうです」

「どういうことだ」

「つまり、あの詠唱の大半は向こうの世界と魔力の糸が繋がっているマスターが出入りするためのゲートを無理やりこじ開ける為に必要な術式だったという事ですよ。だとすれば異世界に弾かれる要素のなくなったマスターのためのゲートを開くためには大規模な魔術儀式は必要ありません。むしろゲートを呼び出せばウエルカムとばかりにこの場にいる人間すべてが異世界に吸い寄せられるはずです」


 そう言われても確証なんてものがないと不安が残る。それでもシェーラは詠唱を始めようとしたが、それを遮ったのもインフィニティだった。


「あ、ちょっと待ってくださいね。ゲートを開く前にこれをやっておかないと」


 彼女はそう言うと懐から取り出した短剣を床に突き刺した。短剣は床へと沈んでいき、代わりに光り輝く紋様が床に浮かび出した。


「なんだこれ」

「異世界マーキングです。座標値を記憶してありますので、座標値が分かっていれば、いつでも元の世界に戻ることができます。異世界召喚したまま、帰れなくなっては困りますから」

「気のせいかな、お前、俺が神化できるようになってからパワーアップしてないか」

「色々とできることを思いだしただけです。さあ、準備はできました!景気よく行きましょう!」


 言われるままにシェーラはゲート召喚の呪文を唱え始めた。ややあって大気が振動して、放電現象が起こった後に空間がねじれて別世界の景色が映し出された。成功だと思った瞬間、俺たちはその景色の中に吸い込まれていった。





              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                 





 いつの間にか意識を失っていたのか、俺はどこかの建物の中で目を覚ました。どこだ、ここは。何となく見覚えのある地下室のようだが。横たわっていた身体を起こすと周囲にシェーラやリノ、インフィニティが同様に横たわっているのに気づいた。どうやら意識を失っているだけのようである。俺は周囲を警戒しながら、まずはシェーラを起こすことにした。何回か肩を揺さぶると彼女はゆっくりと目を開けて俺を見た。


「よかった、無事みたいだな」

「ええ、大丈夫です。しかし、ここはどこですか」

「分からない、何となく見覚えはあるんだが」


 シェーラは立ち上がって周囲を確認した後に「あっ」と声をあげた。どうしたのか聞いてみると彼女は真顔で足元を指さした。そこには巨大な魔法陣が描かれていた。


「ここは…いえ、この魔法陣は間違いない、シュタリオン城の召喚の間です」

「え、マジか。俺が最初に召喚された場所という事か」


 俺の言葉にシェーラが神妙に頷いた。マジか。召喚条件が正当なものになったことでようやく俺は勇者としてのスタート地点であること場所に帰ってきたという事になる。…今更遅いっての。

俺達の話し声にリノとインフィニティも起き上がってきた。二人とも体に異常はなさそうである。


「何、この部屋。妙にかび臭いんだけど」

「インフィニティ、確認のために場所の鑑定をお願いできるか」


 俺の指示にインフィニティは静かに頷いた後に目を閉じて精神集中を行った。そしてゆっくりと目を開けた。


「鑑定結果の結果を報告します、ここはシュタリオン城地下のようですね。位置的には謁見の間の真下に位置するようです」

「やっぱりか。という事は敵地のど真ん中ということか」

「そうなりますね」

「なるほど、ならば丁度いい。まずはここを占拠するとしよう」

「ハル、本気ですか」


 俺の言葉にシェーラが驚きの声をあげる。冗談でも言っているように聞こえたのだろうか。だが、俺はいたって本気だ。


「全員、俺のすぐ近くに集まってくれ。これから広域範囲にある魔法をかけるから」

「あの、ある魔法ってなんですか」

「それは見てのお楽しみだ」


 シェーラの問いにそう答えると俺は術式を構築し始めた。





              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                





 突如として起こった巨大な地響きにシュタリオン城に駐在するバルバトス帝国の兵士たちは混乱した。急いで城の外に逃げようとしたものも多くいたが、そのいずれもが地響きが止んだ後に立っていられなくなって床に倒れ伏した。身動きを取ろうにも動けない。まるで自分の身体を鉛か何かで押さえつけられているような感覚だった。

 それは王座に座る自治領主フッテントルクも同様であった。彼は王座から座っていられなくなって床に倒れこむと自分の身に何が起きたのか理解できずに恐怖した。だが、王座に向かって未練がましく手を伸ばしている辺り、彼の執着心は相当なものと言えた。


「うご…けない」

「たす…けて…誰か…」


 自分だけではなく、謁見の間の衛兵たちも同様に呻き声をあげているのが分かった。そんな彼らの元にゆっくりと歩いていく人影があった。藤堂晴彦とその仲間達である。床に伏しているためにフッテントルクには誰が来たのかは分からなかった。


「ふむ、とりあえず10倍の重力で【重力操作】を使ったが効果も範囲も恐ろしいな」

「本来ならば範囲の拡大で凄まじい魔力消費が必要なのですが、ワールド―イーターのおかげで消費がありませんからね」

「私たちだけ魔法効果から外すなんて器用な真似するね、師匠」


 仲間とやいのやいの話をしながら晴彦は無人の野を歩くかのように謁見の間の中央を歩いていく。見様によっては帝国兵達が晴彦に対して平伏しているようにも見える光景であった。晴彦は王座までたどり着くと未練がましくしがみつくフッテントルクを冷然と見下ろした。


「どけよ、そこはあんたの座るべき場所じゃない」

「な、何なんだ、お前は」

「あんたたちの敵だよ。それくらいは分かるだろう」


 晴彦はそう言ってフッテントルクを蹴り飛ばすと王座に深々と座り込んだ。仰向けに倒れたフッテントルクはようやく誰が来たのか見ることができた。男の方は見覚えがなかったが、男が連れている少女には見覚えがあった。あれはまさかシェーラ姫だというのか。だが、おかしい。あの娘は私が与えた呪いのペンダントで豚のような容姿になっているはずだ。あんなに美しいわけがない。仰向けで身動きが取れなくなっても口だけは動かすことができたフッテントルクは思いつくままに罵声を放った。


「やめろおおお、それは私のものだ、私の王座だあ、邪悪な簒奪者め、必ず殺してやる!!」

「あんたのじゃない、ここは元々、あんたが追い落としたシュタリオン王の座るべき席だ。もう充分に座っただろう。返してもらうぞ」

「うるさい、何をしている、衛兵!!衛兵!!この狼藉ものを捕えろ!!」


 フッテントルクは動けない体で力を必死に振り絞って叫びを上げた。だが、それに答えられるものは誰もいなかった。


「追い落としたければ自分でやるんだな」

「貴様、貴様あ!!」

「五月蠅いよ。いい加減に黙れよ」

「ぶべっ!」


 晴彦はそう言ってフッテントルクの顔面を思い切り踏んで黙らせた。そして周囲を見渡した。


「インフィニティ、ちょっと手間のかかることを命令するぞ。今すぐにシュタリオン国内に存在する全ての帝国兵の数と位置を確認しろ」

「少々お時間を頂きますが、いかがなさるおつもりですか」

「決まってるだろ。邪魔な帝国兵を全て国外に転送する。その上で国境に城壁を作り出す。二度と奴らが攻めてこれないようにな」


 何を言い出しているんだ、この男は。フッテントルクは目の前の男が言っていることが理解できなかった。そんなことをできる魔力を持っている人間など見たことも聞いたこともなかったからだ。


「特定完了。すぐにでも排除できます」

「よし。【マルチターゲット】と【ブラックウインドウ】を使用するぞ」


 晴彦はそう言うとワールドイーターから供給される強大な魔力を一気に解放した。シュタリオン国中を駆け巡った魔力の奔流は一斉に魔術式を構築して帝国兵達を包み込んでいく。ブラックウインドウを潜り抜けた先は海だった。あらかじめ転移先を海にするように晴彦が出口用のブラックウインドウを配置していたのである。帝国兵達は次々と海の真ん中に放り出されていった。

 同時にシュタリオン国の周辺にある山脈付近に強大な城壁が築き上げられ始めた。簡単に人が昇れるような高さではない。国境近くに住む人々は突然に現れた巨大な城壁を神の御業と恐怖した。

 全ての帝国兵を排除した後に晴彦は重力操作を使用するのをやめた。


「さあ、後はあんただけだ。フッテントルク」


 人外の力を目の当たりにしたフッテントルクは腰を抜かしていた。その股からはとめどなく小水が溢れ出していた。



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