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異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なくやせることにした。  作者: しぐれあめ
第二部 三章 早くやせないと星が死んでしまう。
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第十七話-8

 意識を取り戻した牧瀬リノは跳ね起きるように体を起こした。彼女は頭を抑えながら立ち上がった後に苦悶の表情を浮かべて俺の顔をマジマジと見た。そして大きな溜息をついた。


「あのさ、今見せた光景ってマジなの。私がさっきの奴に殺されたのをあんたが助けてくれたっていうのは」

「信じられないのも無理はない。だが、間違いなく現実だ」


 インフィニティが見せたのは牧瀬リノが死んでから魂喰らいが死ぬまでの光景のダイジェスト版だ。自らの命を顧みずに友の敵を討つために魂喰らいに挑んだ二人の勇者候補の姿を見たのだろう。リノの眼は気のせいか潤んでいた。


「あの馬鹿、いやなこと言ったあたしのためにあんな化け物に挑むんじゃないわよ…」

「お前がそう思っていたかは知らないが、アリスとマサトシはお前の事を大事な友達と思っていたようだ」


 俺はポケットからハンカチを出してリノに差し出した。彼女はそれを受け取ると目に浮かんだ涙を拭いた後にそれでもぐずっていた鼻を思い切りかんだ。何をしやがる、この野郎。こめかみが引きつった俺だったが、何とかそれに耐えた後に冷静を装った。リノはそんな俺の視線に気づいたのか照れ笑いを浮かべた。


「ごめんごめん、洗って返すから許してよ」

「たいして気にしてないから大丈夫だ」


 リノは悪戯猫のような微笑みを浮かべた後に少しだけ真剣そうな表情になって夜空を見上げた。


「あたしさ、もともと孤児なんだ。親は私が幼い時に死んで親戚をたらいまわしにされた。親戚たちってのがこれまたろくでもない奴らで事あるごとに私を虐待した。だから炎の力をもらった時は神様からのプレゼントだと思ったんだ。今まで可哀そうだったあたしの人生のために神様が特別なプレゼントをくれたんだって思ったんだ」


 突然の過去の告白にどう答えていいのか分からずに俺は困惑した。月明かりに照らされたリノの横顔はどこか寂しげだった。


「だから私より幸せな境遇なのに私より特別な力をもらったアリスの奴が許せなかった。だからわざと酷いことを言ってあいつを傷つけた。でもあいつはそんな私を友達だと言って敵を討とうとしてくれた。あいつはどうしようもなくお馬鹿さんなお人よしだった。死んでからそれに気づくとは皮肉なものね」

「厳密には時間を遡って死の瞬間に助けたからまだ死んでいないぞ」

「時間を遡るとか言った?普通じゃないわよ。あんた、いったい何者なの?」

「ちょっとお節介が過ぎるだけの勇者だよ」

「あんたも勇者なんだ…そうやって見てみると結構イケてるよね」


 そう言ってた後にリノは俺に近づいた。ほのかな香水のいい香りがする。まだ高校生だろうにませた女だ。


「あんたさ」

「藤堂晴彦だ」

「晴彦、なんであたしを助けたの?」

「別に深い意味はないさ。その年で死ぬくらいならまだやれることがあるだろうとおもっただけだ」

「まだやれること?」

「お前、俺の仲間になって神様と戦ってくれないか」

「またすごい事言い出すんだね。いいよ、どうせあたしはもう死んでいるんだ。だったら死んだつもりでなんでもやってみるよ!神様と戦うとか面白そうじゃん!」


 リノはそう言って俺の差し出した手を握りしめた。思ったより小さな手だった。彼女は俺の手をじっと見つめた後に俺の顔に視線を向けた。そして言いにくそうにしながら切り出した。


「ねえ、晴彦。仮面を作ってよ」

「仮面…だと?」

「うん。アリスやマサトシが私の顔を見たらびっくりするだろうからさ。だから正体を隠す仮面を作って。私はあんたの仲間の仮面の魔導士をやるから」

「アリスたちに言わなくていいのか」

「素顔で会ったら大泣きされちゃうよ。私も釣られて泣いちゃいそうだから」

「…分かった。お前がそうしたいなら特別な奴を作ってやる」

「ありがと。あんた、いい男だね」


 彼女は泣いているのだろうか。それを聞くのも野暮というものだろう。俺は振り返って彼女から視線を外した。背中で嗚咽するような声を聞きながら俺はそれを聞かないように目を静かに瞑った。





             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                





 リノが落ち着いた後に俺は彼女と眷属化契約を結んだ。眷属化契約をした際に分かったことだが、彼女が魂喰らいから奪われた【爆炎魔法】スキルと【魔法(マジック)無効(キャンセラー)無効化(キャンセラー)】スキルは完全に消失したわけではなく、マイナススキルとなっていることが分かった。マイナススキルならば克服してやればいいだけである。

 そのことを話すと彼女は取り戻せるのならば何でもやるとばかりに俺に詰め寄った。やる気があるのは実にいいことだ。そう思った俺は彼女にいい訓練方法があると提案した。


「なんでも来いよ!」

「うん、いい気迫だ。その気迫のまま、心が折れないでくれると本当にありがたい」

「どういうこと?」


 頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいるリノを俺はゼロスペースに誘った。真っ赤な黄昏の空の下には崖に向かう小高い丘が佇んでおり、丘の上には悪魔の腕のような老木が生えていた。あまりに不気味な光景に思わずリノが後ずさる。


「ここどこ!?あれは何!?」

「北欧神話の神であるオーディンは自分をトネリコの樹に縛り付けてルーン魔法を体得したという。君にも同じ訓練を受けてもらうだけだ」

「また今度にしてもいいかしら」


 四の五の言って逃げそうだったので俺はリノの胴を掴んで木まで一気に浮遊した。彼女は最初こそ暴れはしたものの俺の筋力には勝てないと悟ったのかすぐに大人しくなった。

木の麓まで連れて行った後に俺は彼女に靴を脱いで木箱の上に立つように指示を出した。


「なんで靴を脱ぐのよ」

「靴をしていると後で窮屈になるぞ」

「なんなのよ、それは」


 嫌そうな顔をしながらも彼女は言われるままに靴を脱いで木箱の上に立った。その瞬間、気に吊るされていたロープが意思を持ったかのように勝手に動いてリノの足をからめとる。あっという間に木にぶら下げられた彼女は悲鳴をあげた。


「ちょっと――ッ!?これどういう事よ!!」

「あまり暴れない方がいい。今、体力を消費すると後が辛いからな」

「なんなのかって聞いてるのよ!!あれ?…なんで魔力が抜けていくの?」

「木が魔力を吸っているからね。早くスキルを取り戻さないと衰弱死するぞ」


 かつての自分を見ているようで心が痛むが、ここは心を鬼にして修行を行うのが一番だ。大丈夫、いざとなったら回復魔法くらいはかけてやるから安心して死にかけろ。


『マスター、だいぶ鬼になりましたね』

「そう見えるか。だとすればお前の教育の賜物だよ」

『お茶でもお入れしましょうか』

「うん、そうだな。せっかくだからお願いしようか」


「この薄情もの――ッ!!スキルが戻ったら覚えてなさい!!」


 叫ぶリノの声を肴に俺とインフィニティは談笑しながら華麗なティータイムを楽しんだ。




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