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異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なくやせることにした。  作者: しぐれあめ
第二部 三章 早くやせないと星が死んでしまう。
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第十七話-7

 トントンとのドタバタで半壊しかかった自室を修繕していると司馬さんとワンコさんがやってきた。玄関のドアを開けた俺の顔を見るなり、司馬さんとワンコさんはぎょっとした表情をした。


「お前、晴彦なのか」

「ハル君、痩せた姿に擬態してるけど、どうしたの」

「違いますよ、ワンコさん。ちゃんと痩せたんですって」


 俺の姿に二人とも驚いているようだった。こちらとしては久しぶりにこのコンビが揃ってやってきた方がびっくりなのだが。それを尋ねるとワンコさんがあからさまに気まずそうな顔をして司馬さんの方をちらりと見た。どうしたのだろう。なんだかまずい事でもあったのだろうか。そんな彼女の事を司馬さんは鋭い目で一瞥した後に言った。


「ちょっと話したいことがあるんだが、中に入っていいか」

「なんだか深刻そうな顔をしてますが、何かあったんですか」

「そう大したことじゃない。ワールドイーターとの戦いや異世界での出来事を教えてほしいだけだ」


 げげ、すっかりバレている。思わず青ざめた俺にワンコさんが申し訳なさそうな顔をしていた。どうやらワンコさん経由でディーファスの事がバレているようである。それだけではなく、ワールドイーターの事までバレているのが非常に気になったが司馬さんはお構いなしに中に入ってきた。


「まあ、説教というわけではないから安心しろ」


 そう言って肩を叩かれたものの不安過ぎて怖い。居間に通しても不安は変わらなかったために、例によって持ってきてもらったお茶請けのお菓子も全く喉を通らなかった。


「どうしたんですか、今日は」

「いや、確認したいことがあったんだが。お前のステータスを確認して大体の事は分かったよ」

「どういうことです」

「隠さなくていいから本当のことを話せ。お前、宇宙空間でワールドイーターと戦っただろ」

「な、何のことやらさっぱりですな」

「これを見てもそんなことが言えるのか」


 司馬さんはそう言ってタブレットを取り出して動画を映し始めた。そこには雷神と化した俺とワールドイーターが戦っている姿が映し出されていた。映像を出されては隠しようもない。最後にはアイテムボックスの中にワールドイーターが入っていく姿まで映し出されていては言い訳のしようもない。


「地球を助けてくれたことには礼を言う。だが、こんな怪物を飼ってお前は何と戦う気なんだ」

「それを話し始めると長くなるんですが」

「長くなっても構わん。話せ。このままでは疑念を持ったままでお前を捕まえないといけなくなる」


 煙に巻こうとしたのだが、司馬さんの視線は厳しいものであり、逃げ切ることはできなそうだった。仕方なく俺はこれまでのディーファスでの出来事を司馬さんに包み隠さず暴露した。亜人が帝国によって迫害されていること、その帝国の裏側に世界管理神の影があること、地球の管理神の後ろ盾も貰ってディーファスで帝国と戦おうとしている事。神に呪いをかけられたために一所懸命に痩せたこと。盛りだくさんの内容に司馬さんはしばし唖然となった様子だった。


「神同士の戦いの代行者ってわけか。俺が関わってない間に随分とハードな展開になっていたんだな。だが、水臭いぞ、晴彦。そんなことになっていたのならどうして俺に知らせてこなかったんだ」

「いや、司馬さんにはWMDの仕事があるじゃないですか。こちらの都合に巻き込むわけにはいきませんよ」

「ワンコの奴には声をかけた癖にか」

「え、そこまでバレてるんですか」


 まずいだろう、それは。そう思ってワンコさんの方を見ると彼女は申し訳なさそうな顔をして両掌を顔の前で合わせた。


「最近、ワンコに連絡が取れないことが多くて不審に思って問い詰めたら簡単に白状したぜ。まさかお前の眷属になって異世界に行っているとは思わなかったがな」


 司馬さんはそう言った後に物凄く険しい表情になった。正直怖い。怖すぎる。思わず説教が来ると腰が引けたのだが、そうはならなかった。司馬さんが険しい顔を緩めた後に笑ったからだ。相手の心情が全く読めない俺に対して司馬さんは驚くべき提案をしてきた。


「晴彦、異世界の神に一泡吹かせるのに俺も一枚かませろ」

「ええ!?いいんですか」

「なんだ、俺では戦力として不服か」

「そんなことはないですけど。いいんですか、本当に」

「元々、俺は理不尽な神様とやらが大嫌いなのさ。だからこそ神殺しの魔剣使いになったくらいだからな」


 司馬さんはそう言って強引に俺に眷属化契約を結ばせてきた。半分押し売りに近いものはあったが、味方としてはこれほど頼りになる人もいない。なお、地球の仕事が忙しい時は召喚に応じれない時もあるという事だったので、そこはお互いに納得した形での契約となった。





             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                





 司馬さん達が帰った後に入れ替わるようなタイミングで雛木アリスと相棒のマサトシがやってきた。二人の勇者候補は魂喰らいとの戦い以来、パトロールの合間を縫って相談などをしに来るなど、うちに顔を出すことが多いのだ。最近はディーファスに行くことが多くなっていたために会うことがなかったので久しぶりだ。玄関先で迎え入れた俺に対して二人はやはり驚いていた。


「本当に藤堂さんなんですか」

「マジで藤堂のアニキなのかよ!?」


 二人の高校生は俺の変貌に驚いていた。

 雛木アリス。勇者として異世界に召喚されそうだったところをWMDに保護された女子高生。そして相棒のマサトシ。共にS級の資質を持ちながら魂喰らいとの戦いでパーソナルスキルを奪われたために、今はただの勇者候補生として司馬さんの元で修行を積んでいる。二人とも俺を慕ってくれているのだ。特にマサトシは俺の事を兄貴分のように慕ってくれている。元々は凄い資質を持っているアリスを妬んでいたが、スキルなど関係なく魂喰らいをぶちのめした俺を見てからは俺の戦闘スタイルを理想にしているらしい。本人曰く、いつかは俺のような鬼神化を身につけたいと言っているくらいで俺の事を藤堂のアニキと慕ってくれているくらいだ。

 二人を招き入れた俺は居間で世間話をしていたのだが、なんだかアリスの様子がおかしいことに気が付いた。普段ぼうっとしている印象があるのだが、それよりもなんだか心ここにあらずといった様子で顔を赤くしている。どうしたのだろう。


「アリス、どうかしたのか」

「え?い、いえ、なんでもないです!」


 俺の顔に何かついているのだろうか。ひょっとしてズボンのチャックでも開いているのかと思ったが、そうではなかった。首を傾げているとマサトシが呆れたようにこちらに話しかけてきた。


「アニキ、マジで分かってないのかよ。アリスがぼうっとしているのはどう考えたってアニキに見とれているせいだろうが」

「ち、違うもん!変なこと言わないでよ、マサトシ君!」


 そ、そうなのか。まあ、女子高生に手を出すつもりはないが、アリスは可愛いからな。見とれられたと言われては悪い気はしないものだ。そう思っていると横で話を聞いていたシェーラに思い切り膝をつねられた。

 そんな雑談をひとしきり終えた後にマサトシとアリスは姿勢を正した後に言った。


「今日はアニキにお願いがあって来たんだ」

「そうです、藤堂さん、どうか私たちの願いを聞いてください」

「なんだよ、改まって。アリスも真剣そうだがどうしたんだ」


 二人は真剣な表情で息を吸った後に俺にこう打ち明けてきた。


「どうか俺達も眷属にしてくれ!」

「どうかお願いします!」


 二人の提案に俺は驚かされた。どこから眷属の話を聞いたのかと思ったらどうやらワンコさんが尋問されていた時に話を聞いたらしい。理由を聞いてみるとアリスにしてみれば恩返しをできるからだというし、マサトシは強くなるために修行を俺の元でしたいからとおうことだった。だが、この提案は正直なところ、非常に迷った。


「そうは言うけど、かなりの危険を伴うぞ。それに司馬さんがどういうか…」

「司馬さんにはすでにお伺いを立てています」

「命の危険があることも覚悟しているぜ!」


 断ろうかとも思ったが、二人の熱意に押される形で結局、眷属としての契約を結ぶことになった。





            ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                





 アリスたちが帰った後に俺はとある少女の事を思い出していた。牧瀬リノ。魂喰らいとの戦いで犠牲になった少女の事である。リノはアリスにとって大切な友達だった。敵討ちを行うきっかけになったのも彼女が魂喰らいに殺されたからだ。俺自身は彼女の事を知らない。だが、聞いた話によれば彼女は強大な炎を操る力を持っていたという事だ。そういった人間は今後の戦いの助けになるはずだ。

 新しく習得した【時間跳躍】のスキルを使えば彼女の死ぬ寸前で助け出すことができるのではないだろうか。インフィニティの話では時間跳躍は歴史に影響を及ぼすような行動をすると歴史が変わる恐れがあるために使用は極力制限した方がいいらしい。だが、本来は死んでしまう人間を助け出すくらいならば過去の歴史に影響を及ぼさないのではないだろうか。

 インフィニティにそれを尋ねるとあまりおススメできないと言いながらも彼女は過去のデータを鑑定しつつ、牧瀬リノそっくりの分身体を作成してくれた。

 準備を終えた俺は夜の街を飛翔して牧瀬リノが殺された雑居ビルの屋上に降り立った。そして誰もいないことを確認した後に高らかにスキル名を宣言した。


「【時間跳躍】で牧瀬リノが死ぬ寸前まで遡る!」


 瞬間、俺の周囲の景色が一瞬にして切り替わった。時間跳躍したのだろう。屋上から見下ろす雑居ビルの間には二人の人間が相対していた。片側の人間には見覚えがある。あれは魂喰らいだ。だとすれば対峙している少女が牧瀬リノという事になるだろう。

 どうやら二人は戦いの最中のようだった。何を話しているのかはここからでは分からなかったが、突然に魂喰らいの身体が燃え始めた。凄まじい勢いで焔は魂喰らいの身体を燃やしていく。あれ、これ本当に牧瀬リノが死ぬのかな。

 戸惑っている俺を無視するように魂喰らいはリノに手を伸ばそうとしている様子だった。だが、その前に炎に包まれて炭化した手の先がぼろぼろと崩れ落ちていく。その様子を冷ややかに見つめながら牧瀬リノはスカートのポケットからスマホを取り出そうとしていた。記念写真でも撮るつもりか。悪魔か、あの女。思わず引きつった俺の目の前で突然に牧瀬リノが崩れ落ちた。何事かと思って見てみると燃えたはずの男の腕が彼女の腹部を貫いていた。激しい痛みと喉から溢れてくる血を拭きこぼしながらリノは崩れ落ちた。炭化した下から新しい皮膚を生み出しながら男は嗤った。そしてリノの頭を掴んだ。不味い。あのままだとスキルを奪われて殺される。だが、下手に今介入すれば歴史が変わる恐れがある。

 飛び出したい気持ちをぐっと我慢して俺は魂喰らいがスキルを奪い去る瞬間を待った。そして全てが終わった後に泣き叫んで許しを請うリノの身体を容赦なく彼女の能力を使って燃やそうとした瞬間に俺は【クロックアップ】を使用して牧瀬リノを助け出した。そしてその身代わりに焼死体のダミーとなる分身体とすり替えた。そして時間跳躍を再度使用して元の時間軸に戻った。そして牧瀬リノの治療を開始したのだった。





              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                   





 牧瀬リノは腹を貫かれていたが、エリクサーを使用することで傷は問題なく塞ぐことができた。いきなり現れた人間に助け出されたことでリノは戸惑っている様子だった。


「…あ、あんた、誰」

「説明に困るんだけど。君が死んだ後の時間軸からやってきた人間だ」

「あたし、死んだの?じゃあ、ここは死後の世界?」

「そうじゃないんだけど説明に困るなあ」

『マスター、私から彼女に説明しましょう』


 そういうが早いか、インフィニティは俺の腹から上半身だけ現れると両手でリノの頭を掴んだ。何だ、この猟奇的な光景は。いきなり現れた銀髪の女にリノは思わず暴れたが、頭を捕まえられると大人しくなった。目を見てみると渦巻き状になっている。


『暴れると面倒だったので催眠状態にしました。後は脳内に直接これまでの記録画像を流します。彼女が理解するまで少々お待ちください』

「お、お手柔らかに頼む」


 ミヨンミヨンと目から謎の怪光線を流しながらインフィニティはリノの脳に直接アクセスしているようだった。洗脳とかしてないだろうな。若干の不安を覚えながら俺は彼女が意識を取り戻すまで辛抱強く待った。



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