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異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なくやせることにした。  作者: しぐれあめ
第二部 三章 早くやせないと星が死んでしまう。
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第十七話-4

 ダイエット生活二か月目、懸命にダイエットを行ったおかげで体重を70㎏にまで落とすことができた。数値的な変化だけでなく、身体感覚的にも変化が訪れていた。10倍の体重にしてしまうという呪いが苦にならなくなっていたのである。すでにこの体重が体の一部になっているような感覚すらある。俺としては普通の感覚なのだが、そんな俺にインフィニティは忠告してきた。


『だいぶ普通の感覚を見失いつつありますね。外に出て今のご自分の力を認識されるとよろしいでしょう』


 そう言われてもピンと来なかった俺に対してインフィニティは外に出るように促してきた。このまま修行を続けたかったのだが、何度もいうものだから渋々と俺はゼロスペースから抜け出して外に出た。

自分の部屋に戻った瞬間に凄まじい違和感を覚えた。体が自分のものではないような感覚なのである。例えようがないのだが、自分が動いていこうとする方向に体が先に動くような感覚だ。全く重さを感じない。


「え?どういうことだ、これは」

『ゼロスペースから出たことで呪いの影響下から抜け出して自覚されたようですね。今のマスターは普通の人間を超越してしまっているのですよ』

「凄いな、体が自分のものではないようだ」


 そう言った後に俺は軽くジャンプした。その後に激しく後悔した。俺の身体がそのまま天井を突き破って空高く浮かび上がったからである。たまたま、浮遊魔法で空中散歩をしていたクリスさんと目が合ってしまった。いきなり飛び出してきた俺にさすがのクリスさんも目を丸くしていた。


「な、何してるんだい。晴彦君」

「すいません、身体能力の調整に失敗しまして」


 若干気まずくなりながらも俺は重力に従って再び下へと落ちていった。更に怖くなったのは着地した瞬間にふわりと降り立ったことだった。まるで自重が羽根のようにしか感じない。どうしてしまったのだ、俺の身体は。

 天井を突き破った轟音を聞きつけたシェーラが慌てて駆け付けてきた。彼女は俺の姿を見るなり、驚きの声をあげた。


「ハル!どうしたんですか、その姿は!!?」

「あはは、ゼロスペースでダイエットしてただけだよ。少し頑張り過ぎちゃったけどね」

「見違えるように引き締まりましたね。でもなんだか少し臭いませんか」


 言われて気づいた。確かに最近ずっと風呂に入っていなかった気がする。食事に関してはインフィニティがいつの間にか用意してくれていたが、風呂はあそこにはないからな。髭も髪の毛も伸び放題である。シェーラが臭うと言い出すのも無理はないだろう。


「自分では気にしてなかったんだけど、そんなに臭うかな」


 俺の言葉にシェーラは神妙そうな顔で頷いた。気恥ずかしくなった俺は着替えを持ってシャワーを浴びにいった。服を脱いだ後にお風呂場に入った俺はシャワーのお湯を出すために蛇口をひねった。そこで再び問題が起きた。何だかいつもより蛇口のハンドルが回り過ぎるような気がしたのだ。そう思った時にはすでに手遅れでハンドルが壊れてしまった挙句に水が止まらなくなった。やばいと思った俺は慌てて氷結魔法で蛇口から溢れる水を塞いだ。


「まずいな、まさかここまで力の調整ができないとは。改造されてしまった超人みたいではないか」

『ようやく自覚されましたか。今のマスターに必要なのは力を鍛えることより調整することですよ』

「分かった、心がけるよ」


 反省した俺は錬金術で蛇口の修理を終えた後に細心の注意でシャワーを浴び終えた後に髭を剃ってから居間に向かった。すでにそこではシェーラがハサミを持って髪を切る準備をしてくれており、フローリングの床に敷いた新聞紙の上に座るように促された。


「ハルの髪の毛を切るのはこれで二度目ですね」

「そっか、魂喰らいと戦った後に切ってもらったっけ」

「あの時も急に凄い姿になって驚きましたけど、今回の方がびっくりしました」


 シェーラはそう言いながら櫛で髪をすくいながら俺の髪の毛を切ってくれる。チョキチョキという小刻みな音がリズミカルに俺の耳元で響き渡る。


「そんなにびっくりした?」

「ええ、格好良くなってびっくりしました」

「照れるからやめてくれよ」


 照れ隠しのつもりだったのだが、顔が赤くなっていくのを自覚した。シェーラがどういう顔をしているのかは分からない。だが、ハサミを動かすペースは速くなっているような気がした。彼女も照れているのだろうか。実のところ、彼女には聞きたいことがあった。この間の頬のキスの事だ。あんなことをしてくれたという事はひょっとして彼女は俺のことが好きなんだろうか。それを聞きたい気持ちもあったが、ぐっと我慢した。それを尋ねることで彼女との関係が変わってしまうのが怖かったからだ。

そんな訳で俺は妙に沈黙しながら、されるがままに髪を切ってもらった。





              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇              





 ゼロスペースでのダイエット生活をはじめて4か月が経過した。とはいっても地球での時間は全く経過していない。そんなある日、ついに俺は呪いから解放された。つまりは理想体重を手に入れたのである。いきなり自重が全くなくなったような感覚に驚きと感動が胸に満ち溢れた。

 同時にインフィニティのアナウンスが脳内に響き渡る。


『ディーファス神の呪いを克服しました!弱点克服の報酬として新たにスキルが獲得されました。【重力操作】【時間跳躍】【肥満エネルギ―蓄積】【肥満エネルギ―解放】【肥満エネルギ―転化】【世界線転移】【ゼロスペースカスタマイズ】【眷属へのスキル貸与】【眷属進化促進】【思考補助:アカシックレコード】【転職神殿解放】【武具進化】【迷宮作成】を獲得しました。なお条件開放により【雷神覚醒】が自在に使用できるようになりました。条件開放により神の搭バベルタワーの挑戦権を得ることができました』


 何だか恐ろしいものを一気に獲得してしまったような気がする。時間跳躍とか神の領域ではないか。恐ろしくてどう使えばいいのか戸惑ってしまう。最後のバベルタワーの挑戦権というのも非常に気になるのだが、今は痩せたことを素直に喜ぶことにしよう。

嬉しくなった俺は高笑いしながらゼロスペースを後にした。


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