第十七話-2
どのくらい気絶していただろう。意識を取り戻した俺はゼロスペースの中で仰向けに倒れていた。10倍の自重があるために起き上がるのもしんどい状況で何とか身体を起こすと同時にインフィニティに釘を刺した。
「統合させたスキルなんだけど。ちょっとやばくないか」
『やばいとはどういうことでしょう』
「神の能力に覚醒したとか誰かの声が聞こえたんだ。しかも地球の世界神がコンタクトを求めているって言ってるんだけど」
『無視した方がいいですよ。ロクなことになりませんから』
いつになく辛辣な口調のインフィニティに疑問を持ちながらも俺は首を傾げた。とりあえずあまり気にせずに新たに習得したスキルを試してみよう。そう思って立ち上がった俺は体に力を入れながらスキル名を叫んだ。
「【雷神覚醒】!!」
てっきり体に何かが起きるものだと思っていたが、いつまで経っても変化は見られなかった。どういうことだ。戸惑う俺にインフィニティが説明をしてきた。
『どうやら能力を解放するには何らかの条件が足りないようです。はじめてのケースですので詳細は不明ですが』
何だよ、期待したのに。がっかりした俺にインフィニティが話しかけてきた。
『大丈夫です。恐らくは強敵などとの戦いになれば発動すると思いますから。それとマスターが気絶している間に新たなスキル統合を行っておきました』
「へえ、どんなスキルを作ったんだ」
『【酒雲作成】【回復薬【最上質】作成】を素材にして【癒しの雨雲】というスキルを作成しました。広範囲のエリアに回復効果のある雨を降らせます』
「それは凄い!」
やるじゃないか、インフィニティ。そういうのを待ってたんだ。調子に乗った彼女は更に話を続けた。
『更に【聖者の行進】【千手観音】【分身体作成】【思考加速】【帝王の晩餐】【御神体モード】を使って【神軍降臨】を作成しました』
「神仏降臨?何だか御大層なスキル名だがどういうものなんだ」
『使用してみれば分かりますよ』
「分かった、やってみよう。【神軍降臨】!!」
そう叫んだ瞬間、空間の歪みから何者かが現れた。それは黄金に輝く千手観音の群れだった。軽く百体はいるのではないだろうか。千手観音の群れは一糸乱れぬ動作でこちらを向くと同時に俺に向かって敬礼した。微笑んでいるが、表情が全く変わらない様子は恐怖しか感じない。青ざめる俺に対して千手観音は一斉に声を発した。
「「きょっ!!」」
「怖!!何だよ、きょっ、っていう声は」
『ああ、あれは鳴き声です。彼らは人の言葉を発することができませんから』
「相変わらず妙なクリーチャーばかり作りやがって。一体どういう効果があるんだ…うわ、何だ、お前ら、何をする気だ!!」
いきなり群がってきた千手観音の群れは凄まじく伸びる舌で俺の顔をベロベロと舐めだした。帝王の晩餐の効果なのだろうか。ナメクジか何かに群がられているようですこぶる気持ちが悪い。舌はそれだけでなく、俺の衣服のすき間を縫うように入り込んで俺の毛穴という毛穴を舐めつくしていく。なにこれ、やめて、超怖い!
『マスターの身体に溜まった垢を掃除してくれているのです。清浄な空間を愛する彼らは汚れたものを決して許しませんから』
「唾液まみれのこっちの身にもなれ!!うぷっ!!」
『安心してください。彼らの唾液の成分は石鹸と同じですから』
それから5分後。すっかり身体を蹂躙された俺はぐったりとしながら床に這いずっていた。体はピカピカになったものの心は激しく汚された気分だ。
「よ、汚されちゃった…」
『汚れてないですよ、奇麗になりましたから』
「インフィニティ、ちょっと俺の身体の外に出て来い…」
インフィニティは俺に言われるままに外に出た。瞬間、千手観音の群れたちは凄まじい勢いで群がりだすとインフィニティを蹂躙し始めた。
「え、何ですか、やめなさい、こら、やめて!!きゃああ!!」
「俺と同じ地獄を味わうがいい」
見た目はクリーチャーに美少女が蹂躙されているようにしか見えないだろうな。自分が受けた阿鼻叫喚の地獄を眺めながら俺は【神軍降臨】を封印することを心に決めた。
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神軍降臨のトラウマから数日が経過した。体の重さにもだいぶ慣れてきた俺は少しずつだが、魔力制御なども訓練の中に取り入れた。体に魔力を纏わせて戦闘補助を行うのだ。魔力というのは便利なもので使い方次第によっては身体の強化などにも使えるらしい。これまで膨大な魔力を持ちながら宝の持ち腐れだったので、これを有効活用できれば戦いに役立つと思ったのである。
慣れていないために制御はなかなか困難だったが、繰り返すことで少しずつではあるが、魔力を体に纏えるようになった。
体重も少しずつ落ちてきた。焦らないで一日一日を丁寧に減量を行っていくことを言い聞かせながら俺はゼロスペースでの修行を続けた。