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異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なくやせることにした。  作者: しぐれあめ
第二部 二章 噂は現実となり、人は『豚』を知る
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第十六話-8

 くっころさんからはいくつかの有効な情報が得られた。

 まず驚いたのはくっころさんが今回の軍を率いている将軍の副官であることだった。何故軍を率いる立場の人間が最前線に出てきたのか疑問であったが、よくよく聞いてみると苛立つ敵将によって事態を収拾するように命じられて出向いたらしい。阿保な上司を持って大変だな。俺は内心で女騎士に同情した。

 駐屯している軍を率いているのはパブロフ将軍という軍人であり、軍自体は帝国軍とその他の二国による混成軍らしい。帝国本土からの兵以外には金次第で様々な国に傭兵を送る傭兵国ディリウス、そして国土の大半を広大な森林に覆われているメグナート森林王国の二国が兵を派遣しているという事だ。だが、この二国は元々シルフィードとの国交もあったために、帝国の圧力に負けて嫌々ながら兵を派遣してきたという事だった。それゆえか、陣取りはしたものの積極的にシルフィードに攻め込むことはなく、中立に近い立場を示しているという事だった。帝国側も彼らを扱いかねているらしい。扱い次第によっては帝国から寝返る可能性もあるのではないだろうか。

 そう考えると軍を率いているパブロフとやらをさっさと葬れば状況は好転するような気がしてきた。くっころさんの話ではパブロフという男は帝国貴族であり、捕虜となった女を慰み者にする悪癖があるという事なので、世の中のためにもさっさと片付けた方がいいだろう。

 立て続けの尋問によってくっころさんは心身共に疲れ果てた様子だった。これ以上も有効な情報を得られないか試そうとも思ったが、ブタノ助に止められた。どうやら刃を交えたことで情が湧いたようである。

 女騎士の扱いはブタノ助に任せることにして俺は尋問室を後にした。





               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇              





 黒幕らしき黒髪の男が立ち去った後に女騎士ユリアはその場にへたり込んだ。それを支えたのはブタノ助だった。疲れ切ってはいたものの敵に情けをかけられたことに激怒したユリアはその手を振り払おうとしてバランスを崩した。体に力が入らなくなっているようだった。そんなユリアをブタノ助は問答無用で抱きかかえた。ふいを突かれてユリアは赤面した。


「何をする!離せ!これ以上弄るつもりか」

「そんなつもりはないから暴れるな。一人で動けないだろうから牢まで連れていくだけだ」


 そう話すブタノ助の表情はどこまでも穏やかなものだった。昼間の戦場で激情のままに暴れていたオークとはまるで別人ではないか。ユリアは内心でそう思った。ユリアの視線を見ることなく牢へ向かって歩き始めたブタノ助はポツリと呟いた。


「すまなかったな」

「何を謝るというのだ」

「あのような尋問で戦士としての誇りを汚したことを謝るというのだ」

「…何を、いうのだ」


 突然の謝罪にふいを突かれてユリアは押し黙った。そんなユリアに対してブタノ助は続けた。


「それがしも帝国によって故郷を追われて仲間を殺された。そう言った意味では故国を取り戻したいと願って戦うお前と同じだ」

「オーク如きが私と同じだと。何故今そんな話をする!」

「公平ではないと思ったからだ。成り行きとはいえ、お前が何ゆえに帝国に組するかを聞いたからな」


 そう言った後にブタノ助は立ち止まった。ユリアは反論しようとブタノ助の眼を見た後に言葉を失った。ブタノ助の眼にこれ以上ないくらい哀しみが宿っていたからだ。その眼を見た時に女騎士は直感的に理解した。この豚は自分と同じ目をしている。そう思えた時にブタノ助を亜人として蔑むべきではなく、対等な立場として接するべきであるのではないかと思えてきた。だからこそ彼女はブタノ助に名を尋ねることにした。


「…お前、名は何と言うんだ」

「ブタノ助だ」

「…おかしな名だな」

「そう言うな。名無しのそれがしを不憫に思って我が神が名付けてくれた大切な名だぞ」

「…主人の事を大切にしているのだな」


 ユリアがそう言うとブタノ助はこくりと頷いた後に再び牢へと向かうべく歩き始めた。





             ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                    





 その頃の俺はブタノ助が女騎士といい仲になり始めていることなど知る由もなく、城内にある軍議の間で作戦会議を行っていた。昼の戦いでの帝国側の被害はせいぜい多く見積もっても500程度であり、いまだ大半の兵は敵本陣に陣取っている。今は俺の作り出した雨雲によって敵の進軍を遮っているが、あの雨雲がなくなれば攻城戦が再開されるのは時間の問題だろう。


「敵陣深くに攻め込んで敵将の首を取るのが一番の策だと思う」


 俺の言葉にシルフィード王とアルフレッドは難色を示した。それはそうだろう。敵将まで行くためにはそれを阻む夥しい数の敵兵を倒す必要がある。こちらの兵力は敵の十分の一程度しかいないのだ。まともにぶつかれば兵力差で押し潰されるのは目に見えている。


「敵陣深くまで切り込むためには圧倒的に武力は足りないぞ」

「その通りだ。ゆえにこれから助っ人を召喚する」

「助っ人だと?」


 困惑した様子のアルフレッドを前にして俺は眷属召喚を行うべく異界にいるワンコさんに呼びかけた。彼女は快く俺の召喚に応じて軍議の間にその姿を顕現した。

 突如として現れたスーツ姿の令嬢にアルフレッド達は驚いている様子だった。その眼から察するにこんな華奢な女性が助っ人だというのかと思っているのかもしれない。だが、鎧を身に纏った彼女が一騎当千の力を持っていることを俺は知っている。そして気心も知れている。俺にとっては一番頼りになる戦友なのだ。彼女はアルフレッド達、異世界の人間を見渡した後に頷いた。




                                  

         ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 雨雲が消えたタイミングで総攻撃を仕掛けることを決めた後に軍議を終えた俺はワンコさんに城内を案内することにした。ワンコさんははじめて見る異世界の城に物珍しそうにしながら俺の後をついてきてくれた。


「ここがシェーラの故郷の世界なのか」

「本当にファンタジーの世界なので驚いたんじゃないですか」

「うん、本当にびっくりだ」


 彼女自身も地球とは違う異世界の生まれだから慣れているのではないかと尋ねたが、どうもそうではないらしい。彼女の世界はどちらかといえば地球に近い文化をしているらしく、鉄道や車が普通に走っているような世界だという事だから、ディーファスのような世界は見たことがないのだろう。


「てっきり忘れられていたのかと思ったよ」

「そんなわけないじゃないですか」

「シェーラの事は直ぐに召喚したのに私は全然お呼びじゃなかったからね」


 そう言っているワンコさんの表情は何となく不機嫌そうに見えた。あれ、ひょっとして怒っているか。やばいかと思って俺はしどろもどろになりながら言い訳を始めた。彼女は俺の言い訳を暫く不機嫌そうに聞いていた後に急に俯き出した。何かまずいことを言ったか。青ざめた俺の前で彼女はプルプルと小刻みに震えていた。やばい、泣いているのか。青ざめた俺にインフィニティが助け舟を出す。


『心配しなくても彼女は泣いてなんかいませんよ』


 そう言われて俺は耳を澄ましてみた。ワンコさんは必死に笑いを堪えている様子だった。なるほど、俺の慌てる様子を見て楽しんでいるな、ワンコさん。


「ひょっとして笑ってませんか、ワンコさん」

「あ、バレたか。もう少し必死に謝るハル君も見ていたかったんだけどな」


 彼女はそう言って不機嫌そうだった様子から元に戻ると微笑んだ。


「酷いな、焦ったじゃないですか」

「まるで怒ってないわけじゃないよ。これに懲りたらもう少し早く呼ぶようにしてくれると嬉しいな」


 そう言って笑うワンコさんは何ともすっきりした顔で俺に微笑みかけた。


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