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異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なくやせることにした。  作者: しぐれあめ
第二部 二章 噂は現実となり、人は『豚』を知る
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第十六話-4

 アルフレッドと共に武器庫に入った俺は矢の残数を数えた。思った以上に少ない。聞けば先日までの応戦で城内にある備蓄はほぼ使い果たしてしまったのだという。アルフレッドは申し訳なさそうだったが、俺は別の考えを持った。

 矢がないならば調達すればいい。俺はインフィニティにとある作戦を伝えた。彼女は俺の意図を理解した後にこう付け加えた。


『マスターも随分とタチの悪いことを考えますね。私の考えに染まってきましたか』

「気味の悪いことを言うなよ。この城は今まで敵さんに散々いじめられたんだ。少々の意趣返しをしても文句はあるまい」


 そう言って二人して笑っていると一人だけ話についてこれないアルフレッドが怪訝な顔をした。


「何をする気なんだ」

「大したことじゃない。奴らから矢の備蓄を頂こうというだけさ。ついて来いよ」


 俺はそう言ってアルフレッドを伴って城壁の方へ向かった。





            ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                    





 草木も眠る深夜。昼の戦闘の疲れを癒すために帝国兵たちは休息についていた。起きているのは見張りの兵くらいである。

 天幕の中で深い眠りについていた帝国兵たちは不審な物音に気づいて飛び起きた。異様な震動と歓声の群れがこちらに向かっていたからだ。天幕から出た兵たちはそこで信じられないものを見た。騎兵の群れがこちら目がけて突撃してきている。勝ち目のないと悟った敵が城を捨てて玉砕覚悟の特攻をしてきたというのか。

 兵達と同じく天幕から飛び出た女騎士ユリアは配下の兵達に素早く命じた。


「弓兵隊長!すぐに部下を叩き起こして応戦準備をしろ!騎兵部隊も遅れるな!慌てることはない、こちらの兵数が敵の数を圧倒しているのだ。接敵する前に矢の雨を浴びせまくってやれ!」


 ユリアの素早い士気によって兵たちは準備に取り掛かった。彼女の部下の兵達はよく精錬された兵士達だった。部下に対しての高い指揮能力。女ながらに副将まで上り詰めた理由の一つだった。

 元々、彼女は帝国の民ではない。帝国に属することで市民権を得た属国の育ちなのだ。彼女の望みは貴族となって爵位を得て帝国の侵攻によって奪われた祖国の所領を取り戻すことだ。だが、属国の人間はどう頑張っても貴族にはなれない。唯一の道は戦争で武功をあげて爵位を得ることだ。こんな所で躓くわけにはいかなかった。

 弓兵達は直ぐに準備をして一列に整列した。


「構え!」


 皆が一斉に向かってくる敵に対して弓の弦を引いて矢を構えたのを確認した後に弓兵長が怒鳴った。


「放てっ!!!」


 一斉に飛び去った矢の群れは凄まじい数の矢の雨となって降り注いだ。しかし、弓兵長は異変に気づいてゾッとなった。あれだけの矢の直撃を受けたにも関わらず、騎兵たちは全くその進行速度が変わらなかったからである。怯むどころか盾で防いだ様子もない。たいまつを掲げながらこちらに向けて突き進んでくる様は悪夢のようだった。

 一瞬だけ呆気に取られたユリアは我に帰ると素早く指示を出した。彼女の指示に従った騎兵たちは馬に騎乗すると同時に敵の騎兵目がけて駆けていった。二つの馬群が接敵しようというところで敵の騎兵たちは煙のように掻き消えた。呆気に取られた帝国騎兵たちは自分たちが相手にしようとしていたのが何者だったのか分からずに困惑した。





              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                 





 掻き消えた騎兵たちを眺めながら俺は不敵な笑みを浮かべた。横で見ていたアルフレッドは困惑した様子で俺の方を見た。


「幻惑魔法だったのか、あれは」

「似たようなもんかな」


 俺はそう言いながら身を翻して武器庫に向かった。俺の動きに慌ててアルフレッドがついてくる。

あれは魔法の類ではない。インフィニティが見せた記録映像だ。城の近くで戦った騎兵たちがいたのだろう。それを利用させてもらった。彼らの進行方向に並走させるようにブラックウインドウを開いておいて、後は敵さんが射ってくれた沢山の矢を回収するだけである。

 武器庫にたどり着いた俺はブラックウインドウから回収した矢を取り出した。

 床に置き切れないほどの凄まじい量の弓を見てアルフレッドが呆然とする。


「ざっと今のでこのくらいだ」

「す、凄いな」

「まあ、今の手が使えるのはこの一回くらいだろうけどな」


 敵だってバカではない。何度も行えば矢を回収されていると気づいて警戒するだろう。ゆえに違う手を使う必要がある。

 矢は揃えたが、やはり兵士の数が圧倒的に足りない。朝には再攻撃が始まるだろう。シェーラが懸命に怪我人の治療を行ってくれているが、今のままでは焼け石に水だろう。

 いざとなったらワンコさんを召喚する必要があるだろうし、例のものを使うことも考えた方がいいだろう。


「インフィニティ、例のものの調教は終わっているか」

『すでに呪いを解いてありますので大丈夫ですよ』


 若干不穏な言葉が聞こえてきたが、まあいいだろう。俺はアイテムボックスからあるものを取り出した。それはかつてブタノ助と俺を襲った魔剣使いが所有していた魔剣であった。


【魔剣サウザンドダンスソード】➡【聖剣サウザンドダンスソード】


 数えきれないほどの眷属の魔剣を異空間から呼び出して操り、持ち主の自我にも悪影響をもたらす呪いの武器。アイテムボックスに入れたのはいいが、暴れまくっていたこの魔剣をインフィニティに調教させていたのだ。手に持って気づいたが、かつての禍々しい気がすっかり消えている。一体どうやって呪いを解いたのか気になった。


「どうやって大人しくさせたんだ」

「聖水しか入っていない空間に閉じ込めました」

「どのくらいの間だ」

「ゼロスペース内は時間の経過自体がないですからね。体感時間で考えて1000年くらいでしょうか。最後には向こうから音をあげてきましたよ」


 え、えげつない。ゼロスペース内に入れてもこちらの経過時間では全然経っていないだろう。仮にあそこでインフィニティに閉じ込められたら白骨死体になってしまうな。あまり怒らせないようにしようと改めて思った。

 属性まで変わってしまった目の前の聖剣に対して気の毒に思いながら俺はアルフレッドに提案した。


「この剣は魔法の剣だから戦闘で有利に戦えるだろう。お前が使え」

「いいのか、しかしお前はどうするんだ」

「俺にはこのティルヴィングがあるから」


 俺はそう言って自分の魔剣を見せた。アルフレッドはしばし逡巡した後に礼を言って聖剣サウザンドダンスソードを受け取った。




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