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異世界召喚されたが強制送還された俺は仕方なくやせることにした。  作者: しぐれあめ
第二部 二章 噂は現実となり、人は『豚』を知る
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第十六話-1

 藤堂晴彦が異世界に召喚獣として召喚されていた頃にシェーラは連日の悪夢にうなされていた。夢の内容はいつもこうである。

 彼女の古くからの知己であるシュタリオン王国近衛騎士団、そして彼女の兄である第一王子アルフレッド・シュタリオンを匿う周辺国シルフィードが帝国の攻撃を受けて滅びの危機を迎えているのだ。小国とはいえシルフィードは騎士道を重んじる伝統ある国だった。古くから国同士の付き合いをしているシルフィードとシュタリオンは同盟を組んでいた。ゆえに落ち延びた第一王子を匿ったわけである。シルフィード公国はシュタリオン王子を引き渡せという帝国の横暴を許さずに突き返した。

 帝国は自分たちに従わないシュタリオンに対して大軍を率いて侵攻していった。シルフィード側は強固な城に籠城をして耐え凌いでいるが、基本的には籠城は味方の援軍があってはじめて成り立つものである。

 大半の周辺国が帝国に従っている状態でシルフィードに味方するものはいなかった。兵糧も兵達も日に日に減っていく中で城が落ちるのも残り数日ではないかと思われた。

 夢でしかその光景を見ることができないシェーラはいつも歯がゆい思いをしながら兄たちが疲弊していくのを眺めるしかなかった。だからいつも目を覚ました時には兄たちの事を想って涙するのだ。心配で食事も喉を通らない。そんな生活を繰り返しているうちに頬もだんだんこけてきた。


(ハル、早く帰ってこないかな)


 目の前で消失した晴彦の帰りを待っている時間も惜しかったシェーラはできる限りのことをするためにアパートに訪問して来たワンコに体術の稽古をつけてもらっていた。

そんな矢先、晴彦は帰還した。





              ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇                 





 一瞬にして俺は元の世界に戻っていた。なぜ元の世界に戻ったのが分かったかといえば見慣れたアパートの庭先にシェーラとワンコさんがいたからだ。突然俺が現れたことに二人は驚いている様子だった。  シェーラは俺が帰ってきたことに喜んだのか抱き着いてきた。胸元に彼女の豊かな胸の感触を感じて鼻の下が伸びそうになったが、ジト目でこちらを見ているワンコさんの姿を見つけて自重した。ふと気になったのだが、暫く見ないうちにシェーラがだいぶやつれたような気がする。


「シェーラ、すこしやつれたか」

「心配事があって喉が通らなくて。ハルが戻ってきたら相談したいことがあったんです」

「何かこの世界で問題が起きたのか」

「違います。でもハルの姿を見たら安心しました」


 シェーラはそう言って俺に抱きつく手に力を込めた。嬉しい反面、ワンコさんの目がさっきより鋭くなった気がする。これ以上はやめておいた方がよさそうだ。俺はシェーラを落ち着かせて引き離すとワンコさんに話しかけた。


「すいません、シェーラの面倒を見てもらっていたみたいで」

「私のことは構わないで大丈夫だよ。でもシェーラの話は直ぐに聞いてあげた方がいい。向こうの世界で問題が起きているみたいだから」


 向こうの世界で問題が起きている。一体どういうことだ。怪訝な顔をしながら俺はワンコさんとシェーラの顔を交互に見ることになった。





               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇              





 シェーラの話を聞き終えた後に俺は一刻も早くディーファスに戻るべきだと確信した。だが、問題が一つあった。それはシェーラが共にディーファスに渡りたいと言ってきたことだ。

 以前、異世界からのゲートを開くことはできたが、あれは不安定ゆえに常に術者が精神集中して穴を開いておかないと穴が安定せずに消えてしまう。ゆえにあの手段は使えない。

 一旦アイテムボックスの中に入ってもらって召喚してもらうのはどうかとも考えたが、インフィニティからダメ出しが出た。召喚獣が主従と結ぶ契約でもしなければ召喚された際に弾かれるのがオチだという。

 困った俺は魔王に相談することにした。精神集中を行い、異界に住むラードナーに呼びかけを行う。


『ラードナー、ラードナー、聞こえるか』

『……その声はハルヒコか。どうした。召喚魔法の効力が切れて一旦元の世界に戻ったようだが』

『話すと長くなるんだが』

『ならば思考を読み取るとしよう…なるほど。複数の人間を召喚獣として召喚できないかというのだな。通常ならばそれは無理だ。魂のパスが繋がっていない人間は召喚できない』 

『やっぱり無理か』

『だが、方法がないわけではないぞ。召喚したい人間と眷属としての契約を結べばよい』

『眷属?』

『詳しい手段はお前の所有する鑑定スキルが知っているだろう。契約を結んだ後に再び我に呼びかけるがよい』


 そう言った後にラードナーとの念話による通話は途切れた。俺は今言われた内容をシェーラとワンコさんに告げた。眷属とは何かと困惑しているとインフィニティが実体化して補足説明を行い始めた。


「眷属とは付き従うものを指す言葉です。一番イメージしやすいのは精霊や悪魔の類ですが、彼らは自分の配下と契約を結び、自らの力を分け与えることで【眷属】として呼び出すことができるようになるのです。平たく言えば召喚獣の召喚獣というやつです」

「なるほど、ではその眷属契約を結べばシェーラを異世界に呼べるんだな」

「契約のためには眷属印を刻む必要があります」


 大丈夫かと俺はシェーラに尋ねた。彼女はすでに覚悟を決めたかのように頷いた。ならばすぐに眷属の契約を結ぼうとするとワンコさんから待ったがかかった。どうしたのだろうと問いただすと彼女はこう答えた。


「ハル君、私にも眷属契約を結んでくれないか」

「どういうことです」

「君には数えきれないほどの恩を受けている。私は不器用だから戦うことでしかその恩を返せないだろう。だから頼む。眷属契約をしてくれ」


 俺がかなり躊躇った。お兄さんの事を想って自ら志願したシェーラと違ってワンコさんにはWMDとしての仕事がある。それを邪魔することになりはしないだろうか。そう逡巡しているとインフィニティが助け舟を出してくれた。


「眷属になれば呼び出しも送還も自由に行えます。手伝ってほしい時だけ呼び出して、その後は地球に戻ることも可能ですよ。勿論魔力は消費しますが」

「便利だな、眷属召喚!」


 納得したので俺は二人と眷属契約を結ぶことにした。だが、インフィニティがとんでもないことを言い出した。


「では二人にマスターの体液を飲ませてください」


 瞬間、その場の空気が凍りついた。何を言い出すのかと思ったらえらくハードルの高いことを言いやがるではないか。気まずくなった俺は二人を見た。二人も目に見えて動揺している様子だった。三人そろって無言になる中でインフィニティさんが催促する。


「マスター、汗で結構ですから早く出してください」


 あ、そういう事ですか。三人してホッとした顔をしながら俺たちは眷属契約を行うことにした。





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