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第十五話-17

 雄たけびを上げた後にオーガはこちらに向かって襲い掛かってきた。巨体の癖に凄まじい身軽さだ。あっという間に向かってくるオーガを迎え撃つべく俺は魔剣を構えて臨戦態勢を取った。そんな俺にインフィニティが警告してくる。


『紅カブトとゴブえもんが先ほどの雄たけびの影響で状態異常【恐慌】になって硬直しています。何らかの手段で解除する必要があります』


 なんだと!麻痺していたら奴の攻撃が直撃するじゃないか。不味いと思った俺は【鬼神化】を使用して筋肉を膨張させると同時に肺に息を思い切り吸い込んだ。そして気合をこめながら一気に声を張り上げた。


「びびってんじゃねえぞ!お前らっ!!」


 オーガに負けず劣らずの俺の叫びに紅カブトとゴブえもんがびっくりして恐慌から元の状態に戻る。その後で俺の方を怯えた表情で見た。なんだか化け物でも見ているような表情をいているな。目の前のオーガが今にもこん棒を振り下ろそうとしているのに随分と余裕な連中だ。

 そんな二匹を庇うように前に立った者がいた。ブタノ助だ。勇敢な奴だ。オーガの攻撃を鬼砕棒で受け止めようとしている。


「紅カブト、ゴブえもん、それがしが奴の相手をしている間に下がれ!」


 ブタノ助が叫ぶと同時に二匹は弾かれるようにその場から離れた。そのすぐ後にオーガはこん棒を振り下ろしてきた。凄まじい膂力だった。受けを試みたブタノ助の身体が怪力に耐え切れずに弾かれる。後方へ吹き飛ばされたブタノ助を俺は両手で受け止めた。振動で手が痺れる。あのオーガ、恐ろしい怪力を持っているぞ。

 オーガはブタノ助が健在であることに気づいて追い討ちをかけてきた。思い切りジャンプしてこん棒を振り下ろしてきたのだ。やばいと直感した俺は高速行動スキルである【クロックアップ】を使用してブタノ助を抱えたままでその場から離れた。

 クロックアップが解除されると共にオーガの一撃が大地へと直撃する。その一撃は固い岩盤を易々と砕いていった。飛び散る岩盤の破片が散弾のように周囲に飛び散っていく。

一撃を喰らった岩盤はクレーターのような大穴が開いていた。


「ゴブゴブゴブ…(ば、化け物だ)」

「がうがうがう…」


 ゴブえもんと紅カブトは攻撃の凄まじさを目の当たりにして完全に戦意を失っている様子だった。ブタノ助達には少々荷が重い相手かもしれない。そう思って戦闘態勢を取ろうとした俺をブタノ助が制止してきた。


「神様、ここはそれがしにまかせていただけませんか」

「大丈夫なのか、あいつは並の相手ではないぞ」

「格上の相手だからと神様に頼り切っていたら、それがし達はいつまで経っても神様を頼り続けます。それではこれからの戦いに生き残れないでしょう。だから逃げるわけにはいきません!」


 ブタノ助はそう告げた後に果敢にもオーガに立ち向かっていった。あいつ、勇敢だな。弟子の成長を嬉しく思いながら俺は口元がにやけそうになるのを必死で堪えた。

 ブタノ助は慣れない手つきで鬼砕棒を振り下ろした。だが、まだ重さに慣れていないのか振り下ろしが若干遅れているようだった。だからこそオーガの身体に当たる前にこん棒にいなされてしまう。一撃、二撃、こん棒と鬼砕棒がぶつかり合うが、ブタノ助の分が悪いのは第三者の目から見ても明らかだった。そんなブタノ助の様子を紅カブトとゴブえもんは青ざめながら見守っていた。俺は彼らの様子に気づきながら語り掛けた。


「いいのか、親分だけを戦わせて」

「ゴブゴブ…ゴブゴブ(行きたい、でも怖いんだ)」

「がう…ガウガウガウ!!!」


 徐々に追い込まれつつあるブタノ助の様子に我慢しきれなくなって飛び出したのは紅カブトだった。奴は四つん這いになって果敢にもオーガに突進していった。ブタノ助の相手に集中していたオーガは紅カブトの突進に反応しきれずにまともに攻撃を喰らった。だが、たいして効いていないようだった。横槍を入れられて怒り狂ったオーガは紅カブトを片手で捕まえて持ち上げると力任せにぶん投げた。岩盤にめり込むように叩きつけられた紅カブトが口から吐血する。なおも怒り狂ったオーガは紅カブトに追い討ちをかけるべく向かって行こうとした。

 それを止めたのはブタノ助だった。


「それ以上、それがしの仲間に手を出すな!!」


 瞬間、ブタノ助の身体の内側から凄まじい量の闘気が溢れ出した。同時に鬼砕棒を持っている腕が倍以上の大きさに膨張する。何だ、あのスキルは。鬼神化とは違う。驚いている俺にインフィニティの注釈が入る。


『ブタノ助の左腕に鬼神化の力が集約されています!!瞬間的な破壊力は鬼神化の二倍以上です!!』


 鬼神化の力が集約されているだと!?


 瞬間的な破壊力を想像してぞっとなった。自分で使っているからこそ【鬼神化】の凄まじさを俺は理解している。だからこそ、力が一点に集中した時の破壊力の凄まじさも想像を絶するものであると思えたのだ。

 ブタノ助は左手から溢れる力の導くままに思い切り鬼砕棒を振り下ろした。オーガはこん棒でその一撃の受けを試みた。だが、鬼砕棒は固い岩盤でできたこん棒を易々と砕いていく。自慢の武器を砕かれて驚愕に目を見開いたオーガの脳天に鬼砕棒は深々とめり込んでいった。顔面を陥没した後でオーガは仰向けに倒れた。その重量に地響きが起こる。


 オーガは倒れたまま、二度と起き上がらなかった。





               ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇           





 戦闘が終わった後もブタノ助は動かなかった。というよりはいつオーガが起き上がるか警戒して動けないのだろう。全身から滝のように降り注ぐ汗が激闘を物語っている。そんなブタノ助に近づいていって俺は呼びかけた。


「ブタノ助、大丈夫だ、もう終わっている」

「神様、違うんです…さっきの一撃の影響か全身の筋肉が地獄の筋肉痛を起こしだしてまして」


 なるほど。激痛で脂汗を流していたという事なのか。凄まじい一撃だったが、副作用も凄まじいようだ。しかし、鬼神化を上回る攻撃力というのはどうやって身につけたのだろうか。


『以前、左腕を切り落とされて再生した時に弱点の克服で身につけたようです。スキル名は【痛恨の一撃】と名付けてよろしいかと』


 RPG好きな人間には何とも痛そうな攻撃だ。とりあえずはブタノ助を放置して紅カブトの介抱をすることにした。意識は失っているものの命に関わる傷ではないようだ。回復魔法を使った後にふいにそれはやってきた。俺の身体が透けてきたのだ。召喚魔法の効果が切れたという事だろうか。俺の異変にブタノ助も気づいた様子だった。


「神様!身体が透けています」

「心配するな。必ず戻るからお前らは城に戻っていろ!」


 そう呼びかけた後に俺の姿はその場から掻き消えていた。



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