第十五話-16
新しく得た武器を一刻も早く使ってみたいブタノ助に引っ張られるように俺は城の外に出た。紅カブトとゴブえもんも連れた四人パーティである。ちょうどいいので魔王城の付近の洞窟に住み着いているという人食い鬼のオーガを相手に腕試しをしようという事になった。
城から半日ほど歩いた山岳地帯にオーガの住処はあるという。
意気揚々としていたブタノ助だったが、相手が人食い鬼のオーガだと聞いた瞬間に怯えだした。他の二匹も同様である。そんな彼らに俺は優しく語りかけた。
「馬鹿だなあ、ギリギリの状態で命のやり取りをしなければ本当の強さなんて身に付かないぞ」
「そうは言ってもいきなりオーガの相手は洒落になりませんよ、神様」
「ゴブゴブゴブ(邪神様、頭おかしい!)」
「がうがうがうう!!」
ゴブえもんと紅カブトは逃げ出した。しかし回り込まれた。
逃げ出したゴブえもんと紅カブトの進行方向にブラックウインドウを用意してゼロスペースに収納してやる。ウインドウ画面を潜った二匹は一瞬にしてその場から掻き消えた。
「ブタノ助は逃げないよな」
「…今の一瞬で逃げられないことは理解しました」
「物分かりが良くて助かるよ」
俺はそう言ってブタノ助の肩を叩いた後にオーガ退治に出発することにした。
山岳地帯まではまともに歩けば半日はかかるらしい。本当は紅カブトに騎乗して時間を短縮しようかと思ったが、乗り気でないモンスターに騎乗しても目的地まで行くのを嫌がるに違いない。仕方がないので俺はアイテムボックスからワンボックスカーを取り出した。魔王村に行く際にインフィニティが作り出した例の車である。小さなウインドウ画面から身の丈以上の車が登場したことにブタノ助は絶句した様子だった。
「神様、この鉄の塊は一体なんですか」
「お前たちの世界でいう馬車かな」
「牽引する馬がいませんが」
「馬代わりの力を発揮する機械が中に入っているんだよ」
戸惑うブタノ助を後部席に乗せると俺は助手席に乗った。そして車に話しかける。
「ここから南東の山岳地帯まで頼む」
俺がそう言うと運転席のシートから怪しい腕が現れてハンドルを握る。同時に勝手にエンジンがかかると車は発進した。後は車に任せれば目的地についてくれるだろう。
整備されていないあぜ道を走るせいか、途中で車体が何度も揺れる。とはいっても馬車に比べれば乗り心地は快適に違いない。土煙が上がる様を見ながら道の整備が必要だなと思ってしまった。ブタノ助は予想外の異文化に触れたことで驚いている様子だった。ポカーンとしている顔を見て俺は尋ねた。
「どうした、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして」
「いや、これが神様の乗り物なのだと驚いてしまいまして。きっと高価で希少な乗り物なのでしょうな」
「確かに高い奴は高いけど。普通の乗用車はたいていの奴が持ってるぜ」
「なんと!!」
ブタノ助はショックを受けている様子だった。一度、地球の様子を見せてやるのもいいかもしれない。
車に乗りながら俺は今後の事を思案した。ラードナーに味方して帝国と戦うことを決めたからには様々な準備が必要だ。何をするにも人数を集める必要がある。だが、烏合の衆をまとめたところで訓練された帝国兵に勝てるとは思えない。
まずは自分で訓練した精鋭軍勢を作り出すことが何よりも先決だ。
重装歩兵部隊や騎兵部隊、遠距離攻撃が得意な弓兵部隊や魔法使い部隊、回復を行う治癒部隊は絶対に必要だ。可能であれば上空から攻撃を行える飛行部隊も生みだしたい。
人を集めて鍛えると共に難民の保護によって傾きかけている魔王城の財政も潤さないといけない。
そのためにもまずは腹心となるブタノ助の強化は必要不可欠だ。そんなことを考えながら、ふと後部席を見た。移り行く外の景色にブタノ助は感激している様子だった。純粋な奴だ。微笑ましく思いながら、俺は少しだけ眠ることにした。
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突然に急停止した車にのけ反るようにして俺は目を覚ました。いったい何事だ。
見ると車の進行を塞ぐように巨大な岩が投げつけられていた。一目見て人間が投げつけられるような代物ではないことが分かった。
「ブタノ助、戦う準備はできているか」
「大丈夫です、でもどうやってこの扉を開ければいいのか」
「すぐに開けてやる」
俺はそう言って外に出ると後部席のドアを開けた。俺とブタノ助は周囲の様子を伺って、どこから攻撃が来たのか確認した。外に出た俺たちは自分が置かれている状況をまずは確認した。場所は高い崖に挟まれたような広い道だった。どうやら相手は崖の上から岩石を投げつけているようだった。
ブタノ助はすでに金砕棒を手にして戦闘準備が整っている様子だ。俺もそれに見習うように魔剣を召喚した。同時に紅カブトとゴブえもんをアイテムボックスの中から解放してやる。
「お前ら、お客さんだぞ」
「ゴブゴブゴブ!!?(え、聞いてないんすけど)」
「がう!がうがうがう!!」
「ツベコベ言うな、来るぞ!!」
俺がそう言った瞬間、上空から岩ではない何かが降ってきた。
それは身の丈が4mはあろうかという巨大な躰をした鬼だった。全身の筋肉がはち切れないばかりに膨張している。手には岩石のようなこん棒が握られていた。あれで殴られたら痛いどころではないだろう。
鬼は威嚇するように雄たけびをあげた。耐性の低いものならば身が竦んで動けなくなるのではないかというくらい凄まじい大きさの声だった。声に合わせてビリビリと大気が振動しているようだった。俺が使用する金切声に匹敵するのではないだろうか。
その様子から尋常な相手ではないことを理解した。